「5日後に解雇する」“予告手当”支払い求めるドライバーに「もらえず当然」 裁判所が一蹴したワケ
あおり運転をする
警官ともみ合いのケンカをする
取引先で暴言を吐く
こんなドライバーが解雇されました。
ーーー Xさん、何が不服なんですか?
Xさん
「突然解雇されたのに解雇予告手当を払ってくれませんでした」
「それを請求します」
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「こりゃ、解雇予告手当をもらえなくて当然だね」
Xさんに責任ありと認定されました。これは例外的なケースです。
■ 原則
突然、解雇されれば解雇予告手当を請求できます。以下、事件とともに分かりやすくお届けします(旭運輸事件:大阪地裁 H20.8.28)(弁護士・林 孝匡)
※ 裁判を一部抜粋し簡略化、判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています
事件の当事者
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▼ 会社
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・貨物自動車運送業
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▼ Xさん
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・長距離トラックの運転手
どんな事件か
裁判官
「Xさんは何を怒っているんですか?」
Xさん
「11月25日に解雇通知書を渡されたんです。そこには『11月30日で解雇する』と書かれていました。突然の解雇なのに解雇予告手当を払ってくれませんでした。なので解雇予告手当を請求します」
傍聴人
「異議あり! 解雇予告手当ってなんですか?」
裁判所
「エマージェンシー!」
「傍聴人がしゃしゃり出てきた!」
「休廷! 林さん、ご説明してさしあげて」
林
「うす!」
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▼ 解雇予告手当とは?
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会社は、解雇するには30日以上前に解雇を予告しないとダメなんです。
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労働基準法第20条
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない
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Q.
「チミ、今日で解雇ね!」と言われた場合は?
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条文の続き
30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない
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A.
ザックリいうと1か月分の給料を払う必要があります。これが解雇予告手当です。
スタジオにお返しします!
裁判所
「どうもどうも」
「で、会社さん、なぜ払わないんですか?」
会社
「Xさんの勤務態度がヒドイんです ↓ こんなことをしたんですよ」
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・配送先会社の構内で接触事故を起こす
→ 最大の取引先だったが、この件で取引終了...
・あおり運転をする
→ 「悪質運転だ」と厳重注意を求める手紙が届く
・配送先で不当な発言をして出禁になる
・速度違反で停止を求めた警官ともみ合いになり負傷する
→ 警官が会社にTEL。Xさんの言動について苦情を述べた
・取引先の専務に不当な発言(発言内容は判決文からは不明)
→ 出禁になる
・その他も取引先などで不当な発言
・前の車の運転手とケンカになり負傷
→ 配送を1日遅れさせる
・社長から勤務態度について何度も注意を受けたが、反抗的な態度をとる。しかも社長に敬語を使わない
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会社
「ね。ヒドイでしょ」
「Xさんに責任があるので解雇予告手当を払いませんでした」
■ 解説
たしかに、Xさんに責任があれば、会社の言う通りです。
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条文の続き
但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない(=解雇予告手当を支払わなくてもいい)
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従業員に責任がある場合は解雇予告手当を支払わなくていいんです。
ーーー 裁判所さん、今回のケース、Xさんに責任がありますか?
裁判所
「はい。Xさんに責任ありですね。上の言動によって、会社の業務遂行および職場秩序において少なからず支障を来していたので、今回の解雇は『労働者の責めに帰すべき事由』に基づく解雇ですね。なので解雇予告手当を払わなくてOKです」
■ こぼれ話
社長はXさんにチャンスを与えていたんです。以下のような確約書を書かせて。
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確約書
「私は,貴社の従業員でありながら,従来貴社の取引き先に対して苦情を受ける行動をとったことを反省し,今後,善良な従業員として勤務することを誓います(以下略)」
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しかし、その3日後には取引先で暴言を吐いてます。なので社長は「こりゃもうダメだな」と思って解雇に踏み切りました。
具体例
どんな場合に解雇予告手当をもらえるか、具体例をお示しします。
たとえば、会社が「この人を3/31で解雇したい」と考えたとしましょう。
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▼ 3/1までに解雇が伝えられた場合
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30日以上前に解雇予告されてるので、解雇予告手当をもらうことができません。
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▼ 3/2以降に解雇が伝えられた場合
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・たとえば3/24に「3/31で解雇ね」と言われた場合
言うのおせー! 解雇の7日前に伝えられているので、30日−7日=23日分の予告手当を請求できます。
・突然、3/31に「明日から来なくていいよ」と言われた場合
30日分の予告手当を請求できます。
Q.
あの〜、私は解雇に納得できないんですけど...
A.
もちろん、こんな解雇は無効だ! と戦うこともできます。解雇予告手当を受け取るか、受け取らずに「こんな解雇は無効だ!」と戦う。どちらかを選べます。
もし戦って解雇無効の裁判に勝てば、がっつりバックペイをもらえます。
Q.
バックペイって何ですか?
A.
過去にさかのぼって給料がもらえることです。具体的には【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】のことです(民法536条2項)。もし裁判が4年続けば、4年分の給料がもらえます。働いていないのに。
Q.
転職してしまった場合は、どうなるんでしょうか?
A.
転職したとしても基本、6割の給料をもらえます。ただし「元職場に戻る意思がある」と認定できる期間分だけです。裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降はもらえません。でも、かなりデカイですよね。会社からすれば衝撃です。
相談するところ
突然解雇されて解雇予告手当を払ってもらえなければ、労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!
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