プチ整形で失明、脂肪吸引で死亡例も…被害多発「美容医療」現場の知られざる“闇”事情とは
二重まぶた整形手術や歯並びを矯正する審美歯科、脂肪吸引、包茎手術など「美容医療」が身近になっている。しかしその一方で、「強引な契約」や「施術ミス」など美容医療に関するトラブルの相談や告発も相次いでいる。2021年に国民生活センターに寄せられた相談・報告は、前年度から500件以上増加。施術ミスなど「危害」についての相談も約600件にのぼった。
高額な契約を結ばせる…“問題医師”
コンプレックスを抱えた人に取り入り、お金稼ぎを優先する“問題医師”やクリニックの存在が、被害者だけでなく医療業界内からも指摘されている。
美容医療施術によって健康被害を受けた患者も受け入れている「大阪みなと中央病院」の院長で、同病院の美容医療センター長でもある細川亙医師(形成外科)は、「患者さんの思った通りにならなかったという理由でトラブルになることもあるのですが、高額な契約を迫ったり、術後に健康被害を出したり、患者さんが気の毒になるくらい問題のある医者もたくさんいます」と、美容医療のトラブルには少なくない“問題医師”の存在が関係していると話す。
多くの施術が自由診療(保険外診療)で行われる美容医療業界には、「お金もうけをしようとする医者が他の診療科より多く集まってくる傾向がある」と細川医師は続ける。
「保険診療では、この病気に対してはこんな治療をしなさいと厚生労働省によって細かく定められていて、治療の価格も決まっています。一方で自由診療である美容医療には、その決まりがありません。いくらに設定しようと医者の自由。法外な額をとっている医者やクリニックがあるのも事実です。
たとえば『二重まぶたへの整形手術が2万9800円』と宣伝しておきながら、実際に患者さんが来ると『2万9800円でやる手術はタコ糸みたいなのでやる手術ですよ。それでいいんですか?』などと言って、10倍くらいの値段の手術を薦めて契約させる。そういうことをするような医者も少なからずいます」
死亡事例も…美容医療でトラブルが起きやすい理由
美容医療施術は年間に何件行われているのかといった正確な統計がないため、どの程度の割合で“トラブル”が起こっているのかもわかっていない。しかし細川医師は「違和感や痛みが取れないなどの健康被害はもちろん、死亡事例だって起きている」と指摘する。
「保険診療で行われた治療によって死亡したなどの重大な医療過誤が起きれば、報告義務があります。検証され、治療と死亡との因果関係なども医療界に周知される。しかし、美容医療ではそれが行われていません。
いわゆる『プチ整形』であるフィラー(※)によって患者さんが失明したケースがありましたが、私はトラブルを起こした施設ではなく、患者さんが健康被害を相談しにきた別の病院から聞いて知りました。医者だって、どこかでトラブルがあったという報告や共有があれば、気をつけよう、トラブルが起きる機械を使うのは止めようという判断をすると思うのですが、報告の義務がない現状では、トラブルの情報は誰も表に出そうとしません」
※ヒアルロン酸などのフィラー(充填剤・注入剤)を注射器などで注入する施術のこと。メスを使わないため「プチ整形」とも言われる。
細川医師のもとには、全国の警察や弁護士からも助言を求め連絡が届く。今年に入ってからもすでに4件の死亡事例について相談があったという。
「4件とも間違いなく、施術のせいで患者さんが亡くなっていました。うち3件は脂肪吸引が原因。今年ではありませんが、わき汗治療の際に負ったやけどが原因で敗血症になり亡くなった方もいます。“切らないから安全”、“普及している施術だから安心”という訳にいかないんです」
病院の「選び方」と患者の「心得」
細川医師は“問題医師”や健康被害が多いクリニックを患者が見抜くのは「詐欺師を見抜くのと同じくらい難しい」と断言する。しかし、命をも預ける“病院選び”に際して、目安となる指針はないのだろうか。
「特に悪質なクリニックだと、トラブルが起きた店舗をつぶして他のところで開業するということもありますので、『同じ場所で長く運営しているクリニック』というのは病院探しの目安になるかなと思います。でも、私が『ここはあかんな』と思っているクリニックに、同じ場所で長くやっているところもあるので、絶対的な基準にはなりません。
美容医療というのは形成外科の知識を持って行うことが無難とされている分野なので、形成外科の専門医にかかるのは良いと思います。形成外科ではなくとも、保険診療をしている病院で働いていた経歴があるかは確認すると良いかもしれません」
さらに「医者というだけで相手を信用しない」ことも大切だという。
「美容医療は厚労省が認可した薬剤や機械だけでは施術が成り立ちません。裏を返せば、医者の判断でどんな副作用があるのかもわからないような薬剤や機械を使える世界だということです。そして、そもそも美容医療で行われる施術というのは、保険診療で行われるような、安全性や効果が保障された医療ではありません。
“医者が言うことだから”安全に違いないと信用せず、患者さんからも医者に『どんなリスクがあるか』について尋ねて、説明を受け納得してから施術を受けるか決めてほしいと思います」
美容医療で健康被害を受けたら?
万が一、美容医療を受けて健康被害などのトラブルが起きた場合について、細川医師は「訴訟や集団訴訟を考えみてほしい」と提案する。
「クリニックや医者に一人で直接トラブル被害を訴えても、相手にされなかったり、せいぜいわずかなつかみ金を渡されてうやむやにされてしまう。私の患者さんでも、被害に遭ったクリニックに対して泣き寝入りをしている人はたくさんいます。訴訟にはお金がかかるし、集団訴訟であれば仲間を集めなければいけないのでハードルが高いことは承知していますが、そこまでしないと改善につながらないと思うことも多いのが事実です」
今年6月、歯科矯正治療をめぐって詐欺的な商法の被害に遭い、一部には健康被害が残ったとして、患者ら312人が歯科クリニックを運営していた医療法人社団や医師らに対し、総額約4億5000万円の損害賠償を求める集団訴訟を起こしている。
また、全国にオフィスを持つベリーベスト法律事務所では、美容医療トラブルの相談が増加したことを受け、実態調査を開始している(https://inquiry.vbest.jp/cosmetic/)。
細川医師は美容医療の未来について、総合病院などでも施術を行うなど「“よりオープン”になるべき」だと力をこめる。「ろくでもない“悪徳”医師たちを排除することが、美容医療業界の信頼につながると思っています」。
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