「ポイ捨てタバコで魚が大量死」水族館が怒りのツイートも…“犯人”の責任問うのが難しいワケ

弁護士JP編集部

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「ポイ捨てタバコで魚が大量死」水族館が怒りのツイートも…“犯人”の責任問うのが難しいワケ
奇跡的に数匹は生き残ったものの、水槽を移すだけでもリスクはあるという(提供:京都花園教会水族館)

ポイ捨てされたタバコの吸い殻で飼っていた魚が死んでしまった――。

6月末、このような投稿がTwitterで話題となった。

被害を訴えたのは、京都・太秦にあるプロテスタント教会「京都花園教会水族館」。遺棄や売れ残りなどによって行き場を失った淡水魚、は虫類、両生類など約190種類を飼育し、無料で公開している。

被害後、同館は屋外水槽展示を「中止する」としていたが、「生き物の命が危険に晒される可能性がある」として撤去を決めたという。

ポイ捨てした人が問われる罪は?

今回のように、タバコの吸い殻が原因で飼育している生き物が死んでしまった場合、吸い殻を捨てた人はどのような罪に問われるのだろうか。

動物虐待防止に取り組む「どうぶつ弁護団」理事長の細川敦史弁護士は「“魚類”は動物愛護法の対象ではないので、同法違反とはなりませんが、他人の財物を損壊または傷害したということで『器物損壊罪』に問われる可能性はあります」と指摘する。

ただし、器物損壊罪の成立には「故意があった」という要件が必要だ。京都花園教会水族館では「AQUARIUM」という看板を掲げてあったものの、もし何らかの魚がいることを示すものがなく、水槽の中に生き物がいることに気づかなかった場合は「故意がない」とされる可能性もあるという。

「タバコのポイ捨てによる動物の被害としては、吸い殻が水槽に投げ込まれるケースだけではなく、犬や猫が道端に落ちている吸い殻を食べてしまったり、吸い殻が入った水たまりの水を飲んでしまったりして被害を受けることも考えられます。

しかし、ポイ捨てしている人のほとんどは『動物に危害を加えてやろう』という意識はなく、まさか動物が死んでしまうとまでは予見していないのではないでしょうか。

現状、ポイ捨てされた吸い殻から動物を直接的に守る法律はなく、軽犯罪法違反(※1)や、自治体の条例違反(※2)などで取り締まるしかありません」(細川弁護士)

※1 軽犯罪法1条27号「公共の利益に反して、ごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者」は、拘留または科料に処する

※2 ポイ捨て禁止条例、歩きタバコ禁止条例など。京都花園教会水族館が所在する京都市では路上喫煙を規制する条例を定めており、対策強化区域で路上喫煙をした場合は2000円以下の過料となる。ただし太秦にある同館は適用区域外

なお、今年6月に沖縄県で散歩中の犬が食べて死亡したと見られる『毒入りウインナー(※3)』や、昨年4月から神奈川県内の路上で相次いで見つかっている『針やくぎが刺さったエサ』などの場合は、明らかに危害を加えようという意思があるということで、刑事的問題になり得る可能性が高いという。

※3 沖縄タイムスの報道によれば、毒物の有無は今後調査すると見られるが、犬が直前に“何か食べたしぐさをした”という場所を飼い主が調べたところ、青く変色したウインナーが落ちていたという

「タバコでペットが死亡」裁判例がないワケ

タバコをポイ捨てした行為者が特定できていれば、刑事責任とは別に、民事の「不法行為責任」「損害賠償責任」を問うことも考えられるが、細川弁護士は「裁判例は聞いたことがない」と言う。

「その理由は『費用倒れ』が大きいと考えられます。ペットが死んでしまったとしても、損害賠償額はせいぜい数万円~数十万円程度。回収可能性も不透明です。弁護士費用を含む訴訟費用を考えれば、飼い主にとっては割に合いません。

ポイ捨てが『けしからん』という話は前提として、吸い殻だけでなく副流煙による健康被害などもひっくるめて考えると、結局は『飼い主がよく見ておく』というところに集約されてしまいます。

また屋外で生き物を飼育する場合は、防犯カメラを設置するくらいしか対策はないのではないでしょうか。屋外展示自体を止めるという判断は、再発予防策として適切だろうと思います」(細川弁護士)

取材協力弁護士

細川 敦史 弁護士

細川 敦史 弁護士

所属: 春名・田中・細川法律事務所

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