「やる気か、コラ」問題社員の“暴言”に怒りの解雇も…会社側に「750万円」の支払いが命じられたワケ
「やる気か、コラ」
上司が言ったんじゃありませんよ。入社2か月の【社員が】取締役に言い放った言葉です。
会社はブチギレです。ほかにいろいろな理由をつけてこの社員を懲戒解雇しました。
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「懲戒解雇はダメ」
「普通解雇もダメ!」
「750万円払え(1年3か月分の給料)」
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▼ 本日のポイント
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・多少の暴言で解雇するのは難しい
・取引先からの多少のクレームでも解雇は難しい
以下、分かりやすくお届けします。(芝ソフト事件:東京地裁 H25.11.21)(弁護士・林 孝匡)
※ 裁判を一部抜粋し簡略化、判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています
事件の当事者
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▼ 会社
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・中国系のソフト会社
・社員16名
夫婦が会社を切り盛りしていたようです。
・妻が社長(以下「妻社長」)
・夫が取締役(以下「夫取締役」)
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▼ Xさん
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・仕事はIT業務の推進や企画営業など
・当時51歳くらい
どんな事件か
入社から約1年10か月で解雇されています。
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▼ やる気か、コラ事件
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入社して2か月たったころ。Xさんと夫取締役が仕事の協議をしていたときのことです。
口ゲンカとなり、だんだんヒートアップしてきたようで、Xさんは「やる気か、コラ」とブチギレました。
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▼ クレーム出てるんですが...
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会社は、取引先からXさんについてのクレームを受けていました。なので夫妻は「XさんにはIT業務推進部長としての適性がない...」と考え始めていました。そんなときのメールやりとりがコチラ ↓
夫取締役
「何を話してよいか、何を話していけないか、よくコントロールしてください」
「今まで接している顧客は、ほとんど私の方に文句を言ってきています」
Xさん
「何の話か全く理解できません」
「いつ誰にどのような話をしたのか具体的に説明してください」
妻社長
「あなたは会社の社員ですので、社長の指示や命令に従ってください」
「今度、3社の案件が減りましたので。5月1日から給料カットします」
Xさん
「私の合意なくして給与はカットできません」
「もしそうした不当な行動に出た場合は、法的手続きを取るつもりでおります」
完全にバチバチですわな。
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▼ 職務経歴書、もっかい出して事件
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夫取締役
「今までのことを考えると、Xさんは営業および管理の仕事をやってもらうには不適切ではないかと判断しています。業務命令に従わないこともあることを考えれば、頼む仕事はないかもしれませんので、降格やそれ以上の処分を検討しています。再度督促ですが、業務経歴書を4月10日までに提出してください」
Xさん
「何のことでしょうか? 具体的にお示しください。職務経歴書を提出する義務はありません」
と、Xさんは命令を無視しました。
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▼ 懲戒解雇!
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その3か月後くらい。会社はXさんを懲戒解雇します。そのときのメールがコチラ ↓
妻社長
「今月末、仕事を終了し、引き継ぐ業務を●さんに渡してください。来月から会社に来なくてよい。ただし会社から1か月給与を渡す。解雇理由:①ケンカが異常に多く、会社の業務に影響する。②営業担当には能力的にできないと判断され、ほかの仕事に当てようとしたが本人は業務命令拒否」
Xさん
「解雇理由に該当するような事実について、私には身に覚えがありません」
夫取締役
「説明をするのは全くの時間のムダだ」
「病院に行って、自分が精神的に病気があるかないかの病院からの証明を提出してきてください」
会社から追い出されたXさんは、司法へGO!
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▼ 労働審判
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翌月、Xさんは労働審判を申し立てました(手続きの中で会社は、懲戒解雇から普通解雇へと主張を変えました)。
労働審判ってフツ〜は和解で終わるんですが、Xさんが納得しなかったのか、審判まで進みます(判決みたいなものです)。
バンバン! 審判!
==== 審判の内容 ====
・合意退職ってことにします
・未払い賃金 155万円
・解決金 150万円
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Xさんはこの審判内容に納得できず、訴訟へ。
ジャッジ
Xさんの勝訴です。
裁判所
「解雇は無効」
「会社はバックペイ(過去の給料)を払え」(約750万円)
■ マメ知識
労働審判は、ふんわりした解決になることが多いです。「お互い歩み寄って解決しませんか?」という手続きだからです。なので「こんなぬるい審判内容、納得できるかい! 白黒つけまっせ!」と訴訟まで持っていって勝つと、今回のXさんのようにガッツリもらえることがあります。賭けですが。
さて、順番に解説します。
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▼ やる気か、コラ事件
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裁判所
「う〜ん。『やる気か、コラ』は以下の就業規則違反とまでは言えないですね」
==== 就業規則 ====
・他人に対し暴行、脅迫を加え、 またはその業務を妨害したとき
・故意または重大な過失により会社秩序を乱し、または乱そうとしたとき
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裁判所
「たしかにXさんは性格的に激高しやすい面があって、妻社長や夫取締役に対して強い口調で意見を述べることがあって、そのことが他の従業員に対して不安を感じさせたとも言えるんですが...就業規則違反とまでは認定できないです」
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▼ 職務経歴書、もっかい出して事件
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会社
「職務経歴書を出さなかったことは業務命令違反ですよね?」
裁判所
「たしかに業務命令違反なんだけど、Xさんが強く非難されるべきではないです。だって、Xさんは入社時に履歴書を提出していたし、メール当時、夫取締役はXさんに対し、不可能な賃金減額や解雇をチラつかせており、Xさんが職務経歴書の提出を拒否する気持ちも理解できるからです」
というわけで、懲戒解雇は無効となりました。処分として重すぎると判断されました。
ーーー 裁判所さん、普通解雇はどうですか?
裁判所
「普通解雇もダメですね。たしかに、Xさんは他者との交渉のときに、自分の意見を強く主張し、そのことによって他者を不快にさせ、事業の進行に悪影響を与えることがあったと言える」
「しかし、Xさんの言動が主な原因となって交渉や事業が頓挫したり、会社に損害が生じた事実がない。また、クレームの内容は交渉相手の受け取り方という側面があることからすれば、明らかにXさんに非があるとまでは言えないからです」
解雇が無効となると、会社に鉄槌(てっつい)が振り落とされます。
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▼ 衝撃のバックペイ
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裁判所は会社に対して約750万円のバックペイを命じました(給料月額50万円×1年3か月分)。
Q.
バックペイって何ですか?
A.
過去にさかのぼって給料がもらえることです。具体的には【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】のことです(民法536条2項)。もし裁判が4年続けば、4年分の給料がもらえます。働いていないのに。
Q.
転職してしまった場合は、どうなるんでしょうか?
A.
転職したとしても基本、6割の給料をもらえます。ただし「元職場に戻る意思がある」と認定できる期間分だけです。裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降はもらえません。でも、かなりデカイですよね。会社からすれば衝撃です。
ほかの裁判例
今回は懲戒解雇はダメ! となりましたが、懲戒解雇OK! とした裁判例をひとつご紹介します。社内の食堂で無銭飲食した事件です。
さいごに
営業成績が悪い、取引先から少しクレームが出てるくらいであれば、「解雇はダメ!」と判断する裁判官が多いと思います(戒告や降格はOKとなるかもしれませんが、解雇ってなかなか認められません)。
もし会社から「給料下げるよ〜。最悪、クビだよ〜」と言われている方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんなときは社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!
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