「ふざけんな、死ね!!」 “夫の死を願う”妻たちが抱える不満と“不安”の正体

弁護士JP編集部

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「ふざけんな、死ね!!」 “夫の死を願う”妻たちが抱える不満と“不安”の正体
美幸さん(仮名)が「夫に死んでほしいと願う妻となってしまった」理由とは…(プラナ / PIXTA)

「旦那デスノート」という言葉を知っていますか? 夫の生活態度に不満を持つ妻たちが、この言葉をハッシュタグとして用いSNS上に日々の愚痴を投稿しています。夫の死を願う直接的な言葉にたじろぐ人や、「そんなものを書くくらいなら、さっさと離婚したらいいのに」と冷笑する人もいるかもしれません。

しかし、それぞれに離婚したくても踏み切れない事情もあります。「そんな中で『夫が死んでくれれば問題が解決する』と思う人がいることは、決して特別レアなケースではない」と説明するのは、働く女性などへの取材を続けるジャーナリストの小林美希さんです。

この記事では、七瀬美幸さん(仮名、38歳)を通して、妻の目線から夫婦関係を見ていきます。妻たちは、いったい夫の何に憤怒し、死を願うようになるのでしょうか――。(#2に続く)

※この記事は小林未希さんの書籍『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新聞出版)より一部抜粋・構成しています。

「戦場」から逃げる夫

「お前、何やってんの!? ふざけんな、死ね!!」

午前7時半、都内のマンションでは、まるで戦場と化したリビングルームで妻から夫へ怒号が飛んでいた。

出勤前の七瀬美幸さん(仮名、38歳)は、髪を振り乱しながら3歳の息子と1歳の娘にご飯を食べさせ、早く着替えをさせなきゃ、と焦っていた。8時には家を出ないと保育園に間に合わない。というか、会社に遅れてしまう。時計を見れば刻々と時間が過ぎていくが、そんな時に限って、「食べないもーん」と息子がすねて、遊び始めてしまう。でも、何も食べないで登園させるわけにはいかない。

気を取り直して、「全部じゃなくてもいいから、ちょっとでも食べようねぇ」と優しいママを演じて「はい、あーん!」とオーバーなくらい優しくして、やっと1口、2口食べてくれた。「わあー、えらいねー!」と、1口食べただけで子どもを褒めちぎる。

よし、とりあえず、ちょっとでも食べてくれればいいか。次は着替えだ!

3歳の息子は自分で着替えもできるはずなのに、全くやる気なし。それどころか、体に触ると身を反転させて、するりと逃げる。素早く走ったかと思えば、カーテンの影に隠れて、ぎゃははと笑ってふざける。この時ばかりは可愛い子どもが悪魔に見えて、こめかみに💢が浮き出てしまう。

――けど、ダメだ。ここで怒ったら泣いてよけい時間がかかる。

ぐっと我慢だ。

「早くお着替えしようねぇ」と、追いかけながらやっとのことでパジャマを脱がして着替えが完了。次は、妹にとりかかるか……。と、思いきや、着替え終わったそばから息子がうんちが出ると言い始め、娘はコップに入った牛乳をこぼして服も床もびちゃびちゃだ。

朝の時間は家の中が“戦場”と化す(※写真はイメージ Graphs / PIXTA)

「ああ、もう!」

その時、夫は、台所に逃げ隠れている。この大変な状況を横目にして、お皿を洗って自分のコーヒーを入れ始めているではないか。

それに気づいた瞬間、美幸さんの心にはっきりとした殺意が芽生えた。

――はあ!?

なんで今、皿を洗ってんだよ、てめー。近くにいてわかんねーの? 大変なのっ。しかも、コーヒー入れてんじゃねーよ? も〜! 早く手伝えよっ!!

子どもの前だから、その言葉をいったんは飲み込んだ。夫は独身時代からお茶フェチ。紅茶、緑茶となんでも、きちんと茶葉に適した温度のお湯で入れ、ストップウォッチできっかり時間を計っている。出産前は、仕事の合間に美味しいお茶を入れてくれてよかったが、「子どもが生まれてから、同じようにいかないでしょっ」と、いつもイライラする。そんな美幸さんの心境に気づかないのか、気づかぬふりをしているのか、夫は台所から出てこない。息子のうんちが先か、娘のこぼした牛乳をふくのが先か……。

「パパ! ちょっと来て!」と叫んでも、「ちょっと待ってて〜」と呑気な返事。

その時、ぷちんと、何かが切れた。この日、ついに鬼の形相となるのを抑えられず、出た言葉が冒頭の「ふざけんな、死ね!!」だった。

その言葉を発した瞬間、何か溜まっていたものが、そぎ落とされているような気分になった。もう、夫を愛しているなんて思えない。いや、思えなくて当然だ、と、納得する自分がいた。子どもは豹変したママに固まっていた。

共働きは当たり前の時代

筆者と同世代の美幸さんに取材中、ふと、あるCMを思い出して盛り上がった。

♪タンスにゴン、タンスにゴン。亭主元気で留守がいい。

そんなCMが子どもの頃にあったっけ。まだ日本の夫婦関係が平和だったように思えてならない。

「今や、そんなの通り越して、夫に死んでほしいと願う妻となってしまった」と、美幸さんは苦笑いした。

「タンスにゴン」とは、KINCHO(大日本除虫菊株式会社)の代表的な衣類防虫用品のこと。1986年に、高度成長期の一般的なサラリーマンと専業主婦の世帯をモデルとして、中年の妻たちが町内会で「亭主元気で留守がいい」と唱えるコミカルなCMが流行した。

美幸さん自身、サラリーマンと専業主婦の両親という団塊世代に典型的な家庭で育った。いつか結婚して、出産してという未来を思い描いていた。母親と違ったのは、自分は結婚しても広告会社で働き続け、それを天職と思って子育てしながら働き続けていることだ。

実際、タンスにゴンのCMが流れていた頃はまだ専業主婦世帯のほうが多かった。

「男性雇用者と無業の妻からなる世帯」(以下、専業主婦世帯)と「雇用者の共働き世帯」(以下、共働き世帯)の推移を見てみよう。

総務省「労働力調査」(2001年以前は「労働力特別調査」)によれば、1980年を見ると専業主婦世帯は1114万世帯で共働き世帯614万世帯の2倍近くだったが、90年代に両者はもみ合い、1997年に完全に逆転した。その後、共働き世帯が増えていき、2014年では専業主婦世帯が720万世帯、共働き世帯が1077万世帯となって立ち位置が入れ替わった。もはや、共働きは当たり前の社会となっている。

ここ最近まで、女性が働く理由に「経済的」な困窮があるからやむを得ないというムードがあり、実際の調査などでも経済的なことを理由に共働きをしている傾向がある。男性の雇用も不安定となった今、仕方ないかもしれない。ただ、憲法でも「教育」「勤労」「納税」は国民の三大義務とされ、これは男女の関係はないはず。とすれば、女性が妊娠し出産して子育てをしても当たり前のように働き続けられるはずだが、子育て中の女性が働く理由が経済的不安定ではなく「仕事が好きだから」という場合、「女性(母親)のわがまま」と見られがちだ。

しかし、1986年に男女雇用機会均等法が施行されて30年経った今、女性が自らの前向きな意思で働き続けることを求めているケースが増えている。

50%以上の女性が「子育てをしながら働きたい」と考えている(※写真はイメージ EKAKI / PIXTA)

連合(日本労働組合総連合会)が行った「第3回マタニティハラスメント(マタハラ)に関する意識調査」(2015年8月)では、「女性が働くことと子育て」についての質問に対する答えが、「できるなら、自分の希望として働きながら子育てをしたいと思う」が51.4%と過半数を占め、「経済的な理由で働きながら子育てをしなければいけないと思う」(36.9%)を大きく上回った。

そのくらい、現在の子どもを望む世代にとって就業継続は当たり前だという意識がある一方、詳しくは後述するが、第1子の出産を機に働く女性の6〜7割が無職になっている現実を考えると、潜在的な共働き世帯はもっと多いと見ることができる。

それゆえに、美幸さんをはじめ今、子育てが真っ最中の世代は、自分たちが子どもの頃の親とは全く違った社会情勢のなかにいて、それが家庭にも大きく影響しているのだ。特に、働きながら女性が妊娠し、出産し、子育てしていくという過程を、多くのその親たちが知らないため、「タンスにゴン」という古き良き(?)時代とは違う世界を味わい、戸惑いや苛立ちが生じているのではないだろうか。

第2回目に続く)

書籍画像

夫に死んでほしい妻たち(朝日新書)

小林美希
朝日新聞出版

家事や育児において、妻の「してほしい」と夫の「しているつもり」の差は、想像よりもはるかに大きい。のみ込んだ怒りが頂点に達した妻の抱く最後の希望は「夫に死んでほしい」……。世の男性たちを戦慄させる、衝撃のルポルタージュ!

  • この記事は、書籍発売時点の情報や法律に基づいて構成しております。

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