IKEA従業員「着替え時間」も賃金支給へ 厚労省「労働時間」と明記も“未払い”放置されてきたワケ

林 孝匡

林 孝匡

IKEA従業員「着替え時間」も賃金支給へ 厚労省「労働時間」と明記も“未払い”放置されてきたワケ
イケアの広報担当者は「過去分は支払わない」としているという(PRock / PIXTA)

昨年のスシローに引き続き、 イケアもですか...。

制服への着替え時間について従業員に給料を支払っていなかったようです。イケアは事実関係を認めた上で今後は支払う意向を示しました。

この記事では【給料をもらえる労働時間って、何?】について解説します。(弁護士・林 孝匡)

どんな事件か?

報道によると、従業員は「出社してタイムカードを押す前に制服に着替えるよう指示されていた」「終業後もタイムカードを押してから私服に着替えるよう指示されていた」とのことです。

着替える時間は、無給です...。

着替える時間を合計10分としてザックリ計算してみましょう。時給1000円だとして、10分なら166円。月50時間働くアルバイトだとして本来8300円もらえるはずだったのです。デカイですよね。プラス月1飲みに行けますよね。

イケアは、9月1日から着替え時間10分の賃金を支払うようです(始業前の着替え5分・終業後の着替え5分)。

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▼ 昨年はスシローも
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昨年はスシローが同じような指摘を受けていましたね。従業員は会社から「タイムカードを押す前に手洗いや着替えなどを済ますよう」指示されていました。この手洗い・着替え時間は・・・無給でした。

これはけしからんということで、アルバイトの加入する労働組合(首都圏青年ユニオン)が団体交渉を申し入れました。

これらの大手企業でこのありさまなので、中小規模の会社ではおそらく払われていないでしょう。

どんなケースに給料をもらえるの?

ここからは基礎知識を。

Q.
どんなケースに給料をもらえるの?

林.
「会社の指揮命令下にあれば」給料をもらえます。そういう状況なら労働時間と言えるからです。最高裁が言ってます(三菱重工業長崎造船所事件:最高裁 H12.3.9)。

イケアのケースは会社の指揮命令によって着替えているので、裁判所に持ち込まれても労働時間と言えるでしょう。

厚生労働省のガイドラインにもそう示されています。

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使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインより)
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イケアの広報担当者は「過去分は支払わない」と言っているようです。理由は「労働基準監督署からは違法性を指摘されていなかった」というもの。

しかし、労働時間かどうかを決めるのは労働基準監督署ではなく【裁判所】です。裁判所に行けば「労働時間だ」と認定される可能性が高いので、時効にかかっていない過去分の支払いを検討すべきでしょう。

よく裁判所に持ち込まれるトラブル

着替え時間のほかに裁判所によく持ち込まれるトラブルは「休憩時間なのに休憩できねー! 働いてるから給料を払ってほしい」というものです。

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労働基準法 34条3項
使用者は〜休憩時間を自由に利用させなければならない
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2つ裁判例をご紹介します。

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▼ 薬局での来客対応
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薬剤師さんは、お昼休憩になったあとも30分くらい来客対応をしていました。しかし、会社はこの時間分の給料を払わず。

裁判所は「この分、残業代を払え」と判断しました(日本ケミカル事件控訴審:東京高裁 H29.2.1)。「休憩時間でも来客対応しなさいよ」と暗にプレッシャーがかけられていたようです。以下、判決文より引用。

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▼ ガソリンスタンドでの来客対応
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あるガソリンスタンドは基本的には1人体制でした。なので以下のルールがありました。

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従業員雇用規定
申し訳ありませんが休憩している間も営業に支障をきたさないように業務を優先して行ってください。休憩時間内に業務を行った場合はその分を振り替えて他の時間に取って頂けるようにお願いします
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林.
「申し訳ありませんがこんなルール守れません。寝言は寝て言っていただくようお願い申し上げます」

裁判所は「休憩取れてないじゃん。これは労働時間ね。残業代を払いなさい」と命じました(クアトロ〈ガソリンスタンド〉事件:東京地裁 H17.11.11)。

この事件では4名の従業員が声を上げ、以下の残業代をゲットしました。

Aさん 約65万円
Bさん 約67万円
Cさん 約65万円
Dさん 約37万円

あと、かなりレアケースですが裁判所は「慰謝料も払え」と命じています。

A〜Cさん 20万円
Dさん 10万円

理由は以下のとおり。

・食事ができないトイレに行けないという精神的苦痛
・会社は2年くらい前から「この扱い違法かも」って気づいてたよね(以前にも訴訟を提起されていた)
・従業員と交渉したときも賃金を引き下げるような提案をしてたよね

裁判所は「従業員が苦しんどるのに、この会社不誠実やなー。けしからん!」と感じたんだと思います。

相談するところ

中小規模の会社で着替え時間の給料を払ってるところは流れ星よりも少ないと思うので、給料をゲットしたい方は労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。

労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんなときは社外の労働組合か弁護士に相談しましょう!

最後に

今回「着替え時間」と「休憩取れねー!」トラブルについて解説しましたが、給料未払いトラブルはまだまだあります。ザッと以下のとおり。

・研修の時間、給料が出ない
・会社行事、給料が出ない
・出張中の移動時間の給料が出ない
・待機時間の給料が出ない
・持ち帰り残業した場合は?...etc

「こんな解説してほしい」などコメントいただければ検討します。ドシドシご意見をお寄せください。

取材協力弁護士

林 孝匡 弁護士
林 孝匡 弁護士

【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。 HP:https://hayashi-jurist.jp X:https://twitter.com/hayashitakamas1

所属: PLeX法律事務所

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