高級ウイスキー「山崎12年」会社の倉庫から盗み懲戒解雇…社員“逆ギレ”「解雇無効」の訴えに裁判所の判断は?

林 孝匡

林 孝匡

高級ウイスキー「山崎12年」会社の倉庫から盗み懲戒解雇…社員“逆ギレ”「解雇無効」の訴えに裁判所の判断は?
「山崎12年」は近年、希望小売価格以上で取引されるケースも珍しくない(Yasuhiro Matsunami - SOUP Inc. / PIXTA)

社員がウイスキーをパクって懲戒解雇された事件を解説します。(弁護士・林 孝匡)

かいつまめば以下のとおり。

会社
「あなた、会社の倉庫からウイスキーを盗みましたよね」

Xさん
「はい。でもそれは部長から『2〜3本なら持ち出して現金にしてもいい』と言われたからです」

会社
「は? 懲戒解雇します」

Xさんが解雇無効を訴えて訴訟を提起。

裁判所
「部長がそんなこと言うかね...。解雇はOK!」

以下、分かりやすくお届けします。(東京地裁 R4.12.7)

※ 判決を簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています

事件の当事者

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▼ 会社
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・酒や調味料などの小売りをしている会社

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▼ Xさん
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・酒などの配送をする仕事をしていた

どんな事件か

Xさんが会社の倉庫からウイスキー3本をパクったんです。Xさんは弁解しましたが裁判所は「窃盗」と認定しています。

Q.
どんなウイスキーだったんですか?

林.
山崎12年(700ml)です。Amazonを見ると軽く2万円超えです。一度、飲んでみたいものです。ちなみに私は弁護士12年目なので、林12年です!

Q.
そ・・・そうですか。続けてください。

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▼ 衝撃映像
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さて、Xさんがウイスキーをパクる様子は倉庫に設置していたカメラにバッチリ映ってました。南無。そこで総務部長はXさんに「ウイスキー返してほしい」と伝えました。Xさんは1本返しました。

Q.
あれ? 残りの2本は?

林.
転売しました。でもXさんはウソをつきました。「ストレス発散のために友人と飲みました」と会社に説明したんです。裁判所は転売&ウソもひとつの理由にして懲戒解雇OKと判断しています。悪い情状はチリツモで積み重なっていくのでご注意を。

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▼ 問い詰められる
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上司3名がXさんに事実確認したところ、Xさんはウイスキーを持ち出したことを認めました。会社はおかんむり。Xさんに「懲戒解雇になる見込みです」と伝えました。

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▼ 被害届
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会社は警察に被害届を提出しました。Xさんは警察から取り調べを受けます。

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▼ 懲戒解雇
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そして、予告どおり会社はXさんを懲戒解雇しました。以下の就業規則に基づく解雇です。

==== 就業規則 ====
会社または他人の金銭、物品を不正に持ち出し、あるいは窃取、詐取したとき
===============

その後、Xさんは会社に弁償金として1万8700円を払いました。

Xさんが訴訟を提起

Xさんの主張は以下のとおりです。

・懲戒解雇はやりすぎです
・私はまだ社員ってことを認めてほしい(地位確認請求っていいます)
・賃金 約109万円
・慰謝料 300万円

ジャッジ

弁護士JP編集部

裁判所
「Xさんの負けです。懲戒解雇はOK。請求はすべて棄却」

Q.
そりゃそうでしょ。完全にパクってるんですから。なぜXさんは戦ったんですか?

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▼ Xさんの言い分
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Xさんなりの言い分があったんです。弁解は以下のとおり。

Xさん
「物流部長が『会社の経営が苦しくなっていて7月分の給料が出ないかも』とウソのうわさを流したんです。そして部長は私に『キミも困るだろう、お金に困るなら給料が出るまで店の酒を2〜3本なら持ち出して現金にしてもいい』と言ったんです。私は部長の発言を信じて持ち出したに過ぎません。なので懲戒解雇は不当です」

ーーー 裁判所さん、いかがですか?

裁判所
「う〜ん、Xさんの言い分は疑わしいですね」

〈理由〉
・取締役でもある部長がそんな発言するかね
・上司3名から問い詰められたときにXさんは「物流部長からこんなこと言われたから持ち出したんです!」と弁解してないですよね
・警察でも弁解してないですよね

この理由から察するに裁判所は「(・・・こやつ、訴訟になってから話を作ったな)」と判断したと推測します。言うべきときに言っとかないと裁判所は怪しみます。裁判所は合理性のない行動にチョー敏感な生き物なのです。

ほかの裁判例

社員の不祥事にまつわる裁判例は星の数ほどあります。以下、私が解説した裁判例を挙げるので興味あればご覧ください。

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▼ 解雇OK
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■ 社内食堂で無銭飲食
https://www.ben54.jp/news/417

■ 勤務中に出会い系サイトでメールしまくり
https://www.ben54.jp/news/502

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▼ 解雇ダメ
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■ 定期代を不正受給
https://www.ben54.jp/news/373

■ チカン
https://www.ben54.jp/news/327

■ 風俗で働いていたことを隠す(経歴詐称)
https://www.ben54.jp/news/320

刑法に触れるから1発アウト【ってわけではなく】、裁判所はさまざまな事情を考慮して懲戒解雇がOKかどうかを判断しています。

最後に

懲戒解雇は従業員からすれば“死刑”。ほぼ退職金が出ない上、再就職に響きますからね。

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▼ 相談するところ
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もし会社から解雇されそうな方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。

労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんなときは社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。

今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!

取材協力弁護士

林 孝匡 弁護士
林 孝匡 弁護士

【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。 HP:https://hayashi-jurist.jp X:https://twitter.com/hayashitakamas1

所属: PLeX法律事務所

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