夫が死の際に「ホステスと不倫」懺悔…キレた妻に相手女性は“体の関係”否定も裁判所が「クロ」と判断したワケ
死に際に謎のカミングアウト!
がんで病床に伏していた夫が、妻に打ち明けます。
「私には付き合っているホステスがいる」
「あなたを裏切ってし申し訳ない」
「ホステスとのメモなどは机に入ってる」
その3日後に永眠。
妻は裸のホステスの写真などを発見。これらを証拠としてホステスに損害賠償請求しました。
ホステス
「SEXしてません。写真は勝手に撮られたものです」
裁判所
「あなたカメラ目線じゃん」
「説明に無理がある。100万円払え」と判断。(東京地裁 H30.1.31)
平成26年には「ホステスの枕営業は基本、夫婦の婚姻生活の平和を侵害しない! ホステスの勝ち!」と判断した裁判官がいるんですが、これは例外的です。今回のように、妻に証拠を押さえられたらホステスは負ける可能性が高いです。
さぁ、事件の顛末を見ていきましょう。(弁護士・林 孝匡)
※ 判決を簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています。
登場人物
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▼ A男(享年およそ62歳)
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・過去にはアメリカや日本の証券会社の要職を歴任
・法律事務所のチーフオペレーティングオフィサー(なんですかそれは?)
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▼ 妻
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・アメリカ国籍を持っている
・子ども:長女、次女
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▼ ホステス
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・28歳
・銀座の会員制高級クラブで働く
・高知県から上京
どんな事件か
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▼ 夫婦の暮らし
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結婚して18年目くらいのとき。子どもたちがアメリカ留学するので、妻がニューヨークに移住しました。A男は日本に住み続けます。A男はアメリカと日本とを行き来していました。
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▼ A男の性癖
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A男はチョー几帳面だったようです。7名の女性の情報をエクセルで整理していました。整理していた情報は以下のとおり。
・名前、年齢
・最初に会った日、直近に会った日
・容姿、性格
・個人的関係に至る可能性
・女性の性的経験など
女性をランキング形式で整理しており、今回のホステスはA男の中でNo.1でした。
上の判決文の最後の【甲●】とは、妻が提出した証拠のことです。Googleカレンダーとエクセル表、ふたりのやりとりのメモなどがこぞって提出されたのでしょう。
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▼ ホステスとA男が知り合う
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銀座のクラブで知り合います。当時A男は57歳、ホステスは28歳。お決まりの同伴出勤、アフターなどで仲を深め、出会って1か月後には個人的な交際関係に発展します(はやっ!)。ホステスを自宅に呼んでお泊まりなど。
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▼ホステスの高速わらしべ長者
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ホステスは、A男以外にも同時進行で男性と付き合っていました。高速わらしべ長者っぷりは以下のとおり。
A男と出会う1か月前に、ホステスは実家のある高知県から上京します。上京当時は不動産業者のB男の家を間借りしていました。判決には書かれていませんが「今はこんな所に住んでるけど、いつかは高級タワマン! 玉の輿(こし)に乗ってやるからな!」という気概があったのでしょう(わたし想像力が豊かなんです)。
ホステスは、B男の家から銀座のクラブに出勤していました。
それからたった4か月後。ホステスはマッハで【いい男】を見つけます。医者のC男です。C男に家賃を出してもらい六本木のマンションに引っ越します(夜の世界での【いい男】かどうかの審査項目は【差し出せる諭吉の数】が大きなウェートを占めます)。
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▼ 裸でカメラ目線
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A男とホステスが出会って4か月目くらいのこと。ホテルに宿泊します。A男が撮ったホステスの写真が証拠提出されました。以下のような写真です。
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・ホステスがベッドの上に座って歯みがき
上半身は裸、下半身はパンツ
・ホステスがベッドの上で両腕を挙げてあおむけに寝そべっている
・洗面所で顔を洗う
・上半身裸でソファに座ってカメラ目線
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裁判所はこの写真を見て「(ホステス、アウト〜)」と認定しています。
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▼ ホステスが別の男と結婚
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その2か月後くらいのこと。わらしべ長者っぷりは衰えることなく。ホステスはアメリカ在住のD男と結婚します。もちろんA男はそのことを知りません。
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▼ 死期が近づく
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その3か月後くらいのこと。A男の体調が悪化します。A男は病院で、妻にこう打ち明けました。
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・自分はこれまで家族に許してもらえないようなことをしてきた
・長年にわたって不倫関係を続けている独身のホステスがいる(前述のとおりホステスは結婚したけどA男は独身だと信じていました)
・あなたや子どもたちを裏切ってし申し訳ない
・ホステスの写真やホステスとやりとりしたメモなどが勤務先の自分の机に入ってる
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その3日後にA男は永眠。
妻はホステスを提訴し、慰謝料1100万円を請求しました。
ジャッジ
裁判所
「100万円払え」
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▼ 不貞行為はあったのか?
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ホステス
「SEXしていません。A男に来店してもらって指名をもらうために好意があるふりをしてただけです」
ーーー たしかにdoingの写真はないですが、裁判所さん、どうですか?
裁判所
「いやいや、客の前で上半身裸のまま歯を磨いたり、胸をあらわにした状態でカメラ目線で撮影されることを許容するなど、通常の羞恥心や貞操観念を持つ女性の行動としては理解し難いものと言わざるを得ず、(SEXしてないなど)説明として無理があるというほかない」
■ 注目!
裸の写真はクロ認定されますし、基本、ホテル宿泊の証拠をつかまれたらアウトです(探偵などが撮った出入りの写真など)。
「朝までトランプしていた」「悩みを聞いていた」「歩いていると突然体調が悪くなってきたのでホテルに入って介抱していたにすぎない(キリッ!)」はワンパンKOされます。今回の裁判官のように「説明に無理があるというほかない」でKOです。
ーーー ホステスさん、不満があるようですが?
ホステス
「写真は無断で撮られたんです。許可してません。迷惑だったんですよ」
裁判所
「ウソでしょ。あなた、カメラ目線じゃん」
↓ ホントに言ってます。
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▼ 過去のトンデモ判決?
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今回、ホステスは負けましたが、過去の裁判で「枕営業なら原則として婚姻共同生活の平和を侵害してない(=ホステスの勝ち)」と判断したものがあるんです(東京地裁 H26.4.14)。
夜の業界に歓喜の声が上がったと同時に、世の妻をブチギレさせましたね。でもまぁ、この判決はあんまり支持されていないようです。証拠をつかまれたらホステスはほぼ負けます。
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▼ 3股はどうなるの?
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裁判所
「慰謝料は100万円にします」
妻
「ちょっと待ってください! このホステスは、ほかにC男やD男と交際してたんですよ! 慰謝料が増える事情でしょ」
裁判所
「たしかに、A男はホステスのことを独身だと信じており、自分に好意を抱いてくれていると信じていたので3股は残念なことではあるのですが、あなたに対する慰謝料の増額事由としては評価できません」
旦那の浮気相手が何股をかけていようが、浮気相手へ命じる慰謝料は上がらなさそうです。
最後に
妻は1100万円を請求してますが、4ケタが認められることはほぼありません。だいたい〜300万円です。慰謝料は証拠次第で上がっていくので(付き合ってた期間、ホテルに行った回数など)、慰謝料請求したい方はコツコツと証拠を集めましょう。
しかし、なぜ死に際にこんなカミングアウトをしたのでしょうか。懺悔のココロでしょうか。自分はスッキリしたかもしれませんが、裸の写真を発見されて裁判所にも提出されたホステスはたまったもんじゃありませんな!
今回は以上です。いつもは労働関係の発信をしています。またお会いしましょう!
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