“便利すぎる”「生成AI」プロ並みの画像や文章も瞬時に作成…だからこそ “注意すべき”法的問題を弁護士に聞いた
生成AIでは出遅れ感のあったグーグルが、ChatGPTを超えるといわれる「Gemini」を今秋にも公開するなど、生成AIの社会への浸潤が加速している。最小の手間で最大限のアウトプットが得られる生成AIの利便性はもはや知能・創作系を軸とする職業人を脅かすレベルだ。
前編では生成AIの最前線に精通するAIディレクターKEITO氏がその現状や課題について解説。後編では、生成AIの著作権問題等に詳しいモノリス法律事務所の河瀬弁護士に、KEITO氏の疑問や質問に答える形で、人がAIと共存する遠くない未来も見据え、不安なくAI活用するために知っておくべき法律知識を授かった(全2回 後編 ※【前編】「もはやできないことはない!? 生産性爆上げの便利すぎる生成AIを使いこなすための基礎知識」 )。
生成AIで制作物を創造する際、著作権侵害にあたるのはどんなケースか
(KEITO氏:以下同) 気に入ったブログを10個ほど見繕い、ChatGPTにプロンプト(指示の実行を促す文字列)で別人格として書き直させた場合、著作権の問題はどうなるのですか。
河瀬弁護士 生成AIだからといって特別なことはありません。一般的な著作権侵害の問題と同じく、(1)他者の著作物と類似しているか【類似性】、(2)当該他者の著作物に依拠、つまり、あるものに基づくことやよりどころとしたものか【依拠性】という観点から判断します。したがって、特定の他者のブログをプロンプトに入力した(この点で「依拠」はしている)としても、出力されたものが当該ブログと「類似」しなければ著作権侵害にはなりません。 人間が他者のブログを読み込んで内容を理解し、それを自分の言葉や段落構造等で書き直したのであれば著作権上は問題ないのと同じです。
一方で、特定の他者のブログをプロンプトに入力したうえで、出力結果に類似性が認められる場合、それは著作権(複製権)侵害となります。この場合は、他者のブログを見ながら文章を写しているのと何ら変わらず、ただその手段としてChatGPTを利用しているにすぎないと考えられるためです。
参考にする著作物をマネする意図があるのかないのかはもちろん、出来上がったものが類似しているか否かが重要ということですね。
河瀬弁護士 むしろ問題なのは、特定のブログをプロンプトに入力したわけではないものの、学習データに他者のブログが含まれていたがゆえに出力されたものが偶然、当該ブログ記事と類似してしまった場合、その依拠性を認めるべきかという点問題です。依拠性が認められるためには、前提として、依拠した対象が著作物である必要があります。
しかし、学習データとして取り込まれたものはパラメータ(数値)化されているため、もはや著作物ではないと考えるのか(依拠性ナシ)、依然として著作物として考えるのか(依拠性アリ)によって専門家の中でも意見が分かれています。
先生はどのようにお考えですか。
河瀬弁護士 個人的には、この場合、依拠性はないと考えています。なぜなら、ユーザーとしては学習データにどのような著作物が含まれているかを知る手段がないためです。このような場合にまで著作権侵害を認めてしまうと、安心して生成AIを利用できなくなってしまいます。
「商用利用OK」であれば、どんな場合も法的問題はない?
画像生成AIのミッドジャーニーは商用利用OKを打ち出しています。しかし、同サービスにおける画像の学習は同社以外のものも含めて行っているようです。実際にどこかで見たような画像が出てくることも。それでもミッドジャーニー社がいうように著作権侵害はないと考えていいのでしょうか。
河瀬弁護士 これも前述と同様で、生成AIだからといって特別の判断基準があるわけではありません。しかし、生成AIを「開発する段階」と「利用する段階」とでは、著作権法上、別々の考慮が必要です。 まず、「利用する段階」については、主にユーザーによる著作権侵害の成否が問題となります。元の画像が商用利用可能か否かにかかわらず、そもそも類似していなければ著作権侵害にはなりませんし、類似していれば著作権侵害になりうる、というだけです。1つ目の質問の回答と同じですね。
なるほど、わかりやすいです。
河瀬弁護士 「開発する段階」については、開発者ないしは運営会社による著作権侵害の成否が問題となります。ここでは、ユーザーが生成AIを利用してコンテンツを生成する行為ではなく、その前段階の開発・学習段階において、学習データとして他者の著作物を読み込ませる行為が問題となります。
通常、このように著作物を複製する行為は、原則として著作権(複製権)侵害となるのですが、著作権法では、「情報解析」のような「著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用」については例外的に著作権侵害にならないという規定があります(著作権法第30条の4)。私的利用や引用が著作権侵害にならないのと同じ原理です。したがって、開発・学習段階において、学習データとして他者の著作物を利用していても、基本的には著作権侵害になりません。
文化庁の生成AIに対する見解のひとつに、『AIを利用して画像等を生成した場合でも、著作権侵害となるか否かは、人がAIを利用せず絵を描いた場合などの、通常の場合と同様に判断されます(※)』とあります。これは本当にその通りなのでしょうか。
河瀬弁護士 基本的にはそのとおりです。AIをペンや筆などの道具を置き換えて考えてみると分かりやすいかもしれません。 ただし、AIがペンや筆などと異なるのは、予期せぬ結果が現れたとき、その原因がどこにあるのかが分かりにくいという点(透明性やアカウンタビリティなどと呼ばれる問題)です。現状ではまだ事例はありませんが、将来的に裁判等でこの点が争点となった場合、裁判所がどのような判断をするのかという点は、1つポイントになるかもしれません。
生成AIが浸透する社会で法律が果たす役割とは
Amazonのキンドルが生成AIを使って出版する場合は事前申告を義務付け、マイクロソフトは提供する生成AIに関して全責任を負うと表明するなど、徐々に生成AI対策の外堀が埋まり始めている気もします。まだ整備が追い付いていない側面も大きい生成AIに関する法律は、今後、どのような軸で整備されていくことになりそうだとお考えですか。
河瀬弁護士 これは非常に難しい問題です。生成AIのような新しい技術が登場すると、当然ですが、利益を得る人もいれば不利益を被る人もいます。まずは一般論として、このようなさまざまな権利利益に対して配慮する必要があります。
また、AIについては、人間社会との共存という全世界的な大きなテーマを含んでおり、一概に「外堀が埋まり始めている」とも言い難い状況です。このような状況のなか、今もなお急速に進化を続けるAIに対して、改廃に膨大な時間を要する法律ですべてに対処するというのは現実的ではありません。だからこそ、「AI倫理」や「AIガイドライン」という、法律とは異なる形で、さまざまな業界や団体内部で少しずつルールの明確化が試みられています。
とはいえ、そのような内部規範が社会的に正しいかは別問題であり、今後時間をかけて検討しなければならない問題です。このような段階で重要なのは、法律という枠にとらわれず、さまざまなレイヤーでルールを策定しつつ、一般的な社会的合意を形成することだと思います。その結果として、社会の根幹に関わるようなものについては、法律という形を採るかもしれませんが、必ずしもそれが正解とも限りません。いずれにしても、柔軟に、かつ普遍的な形でルールが明確化されるといいですね。
KEITO氏 最後に生成AIの法的問題に精通する先生から、生成AIを活用する一般ユーザーへ向けて、注意すべきことをご教示願えますでしょうか。
河瀬弁護士 AIはあくまで道具であり、生成したコンテンツに対して責任を負うのは自分自身であるという認識を強く持つことです。これは法的にも重要ですが、今後人間がAIと共存していく上で最も重要な課題の1つだと思います。
河瀬季(かわせ・とき)
モノリス法律事務所 代表弁護士。ITエンジニア、IT企業経営を経て、東京大学大学院法学政治学研究科を修了、弁護士資格を取得。東証プライム上場企業からベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士を務める他、YouTuber、VTuberなど多くの動画クリエイターらをクライアントに持つ。著書にNHK土曜ドラマ「デジタル・タトゥー」の原案となった『デジタル・タトゥー』(自由国民社)、『ITエンジニアのやさしい法律Q&A』(技術評論社)など。
KEITO
AIディレクター。 YouTube ch 登録者数3万人。MidjourneyやChatGPTなどの生成系AIツールの活用方法や、新しいAI系ツールを紹介。その他ITに関する便利ツールや情報も発信している。YouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/@keitoaiweb)
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