【大人のいじめ】50歳“クラスの元マドンナ”が同窓会をぶち壊し… 30年後に蘇る「スクールカースト」の“呪縛”
今年6月、大手引っ越し業者で、男性社員が運搬トラック内で全裸にされ、縛りつけられた上に荷物を固定するためのゴムで叩かれていたという壮絶な「大人のいじめ」が発覚。一連の様子を撮影した動画がSNSなどで拡散され、騒動となりました。
厚生労働省が公表した「個別労働紛争解決制度の施行状況」(令和4年度)によれば、民事上の個別労働紛争の相談として「いじめ・嫌がらせ」に関するものが6万9932件に上りました。これは他の「自己都合退職」「解雇」などの相談と比べても特に多く、職場で「大人のいじめ」が横行している証左となっています。
しかし「大人のいじめ」は職場内だけに限りません。被害者の声から、その実情を探ります。
(#3に続く/全5回)
※【#1】【大人のいじめ】「おたくのせいで…」ベランダに包丁投げ込まれ…10世帯の集合住宅で起きた“現代の村八分”
※この記事はNHKディレクター木原克直氏による書籍『いじめをやめられない大人たち』(ポプラ新書)より一部抜粋・構成しています。
「大人のいじめ」が起きる現場は実に多種多様だ。NHKの番組「あさイチ」に寄せられる声には、職場やご近所付き合いの中での体験談が多いが、中には「え? まさか、そんなところでも起きるの?」と驚くケースも少なくない。
たとえば、趣味のサークルや同窓会である。
「子どものいじめ」の背景としてしばしば挙げられる学校内の「スクールカースト」。
スクールカーストとは、たとえば「スポーツができる」「かっこいい」「かわいい」「目立つ」といった要素により、子どもたちの間にできる「上下関係」のようなものである。スクールカーストで「上」のものが、「下」のものをいじめるというのが、子どものいじめの基本的な構図だ。
この「スクールカースト」が、卒業して年経ったあとも残っており、そこから理不尽な嫌がらせが行われるという事例を紹介したい。
同窓会準備で起きた“嫌がらせ”
糸原さん(50代女性・仮名)は50歳になった時、人生の一区切りの意味も込めて、かつての級友たちに会い近況報告を行なったり、無事に年を重ねてきたことをお互いに祝いたいと思った。そこで、中学校の学年全体の同窓会を開くことを提案した。
これまでも、クラス単位の同窓会が開かれたことはあったが、学年全体の同窓会は初めて。恩師にあたる当時の先生も80歳を超え、「これが最後の機会かもしれない」と思うと、糸原さんも企画に力が入った。
糸原さんと同じクラスの男性の2人が発起人となり、各クラスから男女2人ずつを幹事として立ててもらうことをお願いした。幹事にはクラスごとのとりまとめを行なってもらい、糸原さんたちは会場となるホテルの手配を進めた。
かなりの人数が集まることが予想されたので、100人以上が入る会場があり、さらに高齢となった恩師にとってもアクセスしやすい場所を選んだ。ホテル側の対応は親切で、大規模な宴会を行うお礼として、荷物置き場として会議室を無料で貸してくれたり、ワインのサービスなども提案してくれた。
ところが、糸原さんと共に総幹事を行なっていた男性幹事が病気で幹事を降りなければならなくなった頃から、雲行きが怪しくなってきた。他の幹事が急に、「場所を変えたい」と言いだしたのだ。
マドンナが喫茶店で大きな声で泣き始め…
その中心にいたのが、かつて「マドンナ」と言われた女性・萩原(仮名)である。マドンナ・萩原は特に彼女と親しかった男性幹事数人とともに、糸原さんを喫茶店に呼び出し、「今の会場では全員が入らない」「プロジェクターを使った映像紹介などができない」といった理由を挙げて、場所を変えるべきだと強く主張。
糸原さんが現在の会場で開催するよう説得するが、首を縦に振らず、挙げ句の果てには、喫茶店で大きな声で泣き始め、周囲の男性幹事も彼女をかばう始末。そして、萩原と男性幹事たちは、「糸原さんが幹事だと、みんなのやりたいことができない」と訴え、糸原さんに幹事を降りることまで求めてきた。糸原さんが幹事を辞めないなら、他のクラスの幹事は協力しないとも言いだすなど、糸原さんにとってはほとんど「脅し」に感じた。
萩原は裏で、「自分がいかに他の会場の選択肢を必死に探したか。それを糸原さんに否定されていかに傷ついたか」について語る長いメールを他の幹事全員に送っていたという。いずれも、糸原さんには身に覚えのない話だったが、そうしたやりとりが行われていたことを知ったのは、幹事を降りたあとだった。
30年以上前の「スクールカースト」彷彿
糸原さんは、目の前でわんわんと泣きながら自分のわがままを通そうとするマドンナ・萩原と、その彼女を「騎士気取り」で擁護する男たちに囲まれながら、30年以上前にもあった中学校の「スクールカースト」を思い出していた。
当時、「学年で一番かわいい」と言われていた萩原のまわりには、彼女をちやほやする男子生徒が集まり、女子生徒たちにも人気だった。しかし、彼女たちも萩原よりは目立たないようにと注意していた。当時から、萩原は自分が輪の中心でないと気が済まなかったのだ。彼女に目を付けられた糸原さんの友人は、男子からも女子からも無視や悪口といったいじめを受けたことがあった。
萩原は学校を卒業後、アナウンサーになったそうだが、30歳を過ぎた頃から仕事が少なくなり、表舞台に立つことはほとんどなくなっていた。プライベートでも、夫とうまくいかずに別居中だという噂は、同窓生の間では公然の秘密だった。
糸原さんには、「自分の人生が満たされていない鬱憤を、同窓会で晴らそうとしている」ように見えた。
糸原さんは納得できなかったが、同窓会本番まで時間がなかった。ここで幹事全員に辞められては、同窓会は開けない。参加を楽しみにしている恩師や級友のことを考えると、自分が引くしかなかった。
そして、半年間の時間をかけて交渉し、様々な便宜を図ってくれていたホテルに対しても、今後の利用を約束して泣く泣く断った。断りの連絡を入れるのは糸原さんの役目だった。
同窓会は“私物化”…「ため息と怒り、切なさ」
結果的にマドンナたちに選ばれた会場は、糸原さんが初めに押さえたホテルよりも小規模で、定員はわずか80人だった。参加者は120人を超えたが会場が狭すぎたため、多くの人が会場内には入れなかった。仕方なく、多くの参加者が会場の外のロビーで立ち話をする形になってしまった。
また、参加費をめぐるお金の面でも、参加者から不満の声が上がった。
最終的に借りた会場は、同じ中学校の先輩の厚意により大きな値引きをしてもらっていた。その金額は10万円以上に及ぶのだが、参加費にはまったく還元されず、すべて幹事たちの打ち上げ費用に変わってしまったのだ。
もちろん、糸原さんは打ち上げには呼ばれず、また、発起人として同窓会開催の立ち上げ準備をしたことについての労いもなかった。
この後も、同窓会が行われたようだが、幹事たちが参加者を意図的に決めるようになってしまったようで、糸原さんには案内状は来なかった。次第に、同窓会が一部の幹事たちにより私物化されていることが同窓生の間にも広く知られ、年々、参加者も減っているという。
この状況について、糸原さんは、「一体、何のための同窓会なのだろう。ため息と怒り、切なさがこみ上げてきます」と語る。中学校での青春という思い出が、50歳を過ぎてから、まさかこんな形で汚されることになるとは想像もしなかったという。
(#3に続く)
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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