警察庁 “キャリア官僚”初の民間中途採用開始へ 「うまくいくのだろうか?」OBが語る“現場経験ナシ”人材への不安
10月5日。警察庁は幹部候補となるキャリア官僚(国家公務員総合職)を民間から初めて中途採用することを発表した。
応募の対象となるのは大学や大学院を卒業後、一定の職務経験がある人物で、社会人経験2年以上で警部、7年以上で警視と同期入庁した職員を同期とみなし、昇任に関しても同等に扱うという。
「階級的に現場経験は事実上不可能」
他省庁ではすでに実施されていたが、訓練や研修が必要な『警察』という省庁の特殊性から、これまで行われてこなかった警察庁の民間中途採用――。
今回、警察庁が民間からの中途採用を行う背景には治安情勢の複雑化などがあり、記者会見で露木康浩警察庁長官は「民間での経験などを通じて得た知見や能力を強みとして生かしてもらうことが期待できる。困難な治安課題に立ち向かっていく志と情熱を持つ方々に積極的に応募してほしい」と語った。
だがこうした民間からの中途採用に関して「果たしてうまくいくのだろうか?」と元警察庁キャリア官僚のO氏は疑問を呈す。
「警察庁では通常入庁後に警察大学校で4か月間の研修を受け、約1年の実務の経験を積みます。今回の中途採用者もある程度の研修や実務経験などを入庁後に行うようですが、階級の観点から言うと、社会人経験2年以上で警部採用だと交番勤務などはできないと思います。
新宿などの大規模な交番は分かりませんが、通常の交番勤務のトップは警部補クラスですからね。所轄の刑事にしても警視庁などは別にしてほとんどの刑事課長が警部クラスですから、数年後には署長、副署長クラスの階級の警視となるキャリアをそれほど指導できるとは思えない。ましてや社会人経験7年以上で警視採用となれば階級的には現場経験は事実上不可能です」
“ゼネラリスト”になれるかどうかは未知数!?
O氏は自身の経験から「たとえ1年弱であっても現場に一番近い交番勤務や所轄での原体験は警察キャリアとして必要」だと強調する。
「これまでも専門知識を使用してサイバー犯罪に当たったり、公認会計士の資格を持って財務捜査官に民間から就任する人はいました。ですが、キャリア制度の目的は省庁の “ゼネラリスト”を育成する制度なんです。
となれば、現場を知らなければ付けにくいポストも出てくるでしょうし、警察としての組織をある程度理解して警視になる訳ですから、民間経験7年以上の人間が生え抜きと同等の警視になれるのかどうかは疑問が残ります。現場からは、他省庁との交換人事で全く拳銃に触ったことのない方が本部長でいらっしゃることもありますから別にいいんじゃないですか? との冷ややかな声も聞こえてきますが……」(O氏)
そして「警察大学校で培った同期の絆は一朝一夕では育めない」とO氏は続ける。
「社会人経験を基に同期入庁者と同等に扱うといっても本当の意味での同期との絆は生まれにくいでしょう。警察大学校で寮に住み、一緒に厳しい訓練を受け、同じ釜の飯を食った同期の絆は強く、退官後も同期会を行うぐらいですからね。警察キャリアとは違った社会人としての経験、能力は尊重すべきだと思いますが、犯罪に対峙(たいじ)するといった警察庁という特殊性から本当の意味でのゼネラリストになれるかどうかは未知数だと思います」
多種多様化する犯罪に対するカウンターパンチとしての民間キャリア採用の運用は組織として功を奏すのか。
警察庁は11月に受付を開始し、書類選考や論文試験、面接を経て来年2月に合格発表を行うという。
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