国道4号の「尿入りペットボトル」放置騒動 地元紙の報道後「10分の1に減」も“手放しで喜べない”事情とは

加藤 貴伸

加藤 貴伸

国道4号の「尿入りペットボトル」放置騒動 地元紙の報道後「10分の1に減」も“手放しで喜べない”事情とは
一部のドライバーによるポイ捨てが、長年にわたって業界全体の問題になっているという(こてっちゃん / PIXTA)

今夏、宮城県の地元紙『河北新報』で、宮城県南部の国道沿いに捨てられた「尿入りペットボトル」の問題が大きく報じられ、ウェブ上でも話題となったーー。

トラック業界のイメージを損ねかねないこの問題の背景には「トラックドライバーの労働環境」があるとの指摘も一部ネットユーザーからあったが、果たして…。

地元紙記者が「尿入りペットボトル」を実地調査

まずは河北新報の記事を振り返ってみよう。

同紙は2023年8月31日朝刊付けで、福島県境に近い宮城県白石市の国道4号を記者自らが調査し、トラックドライバーが車内でペットボトル等に用を足して、それを道路脇にポイ捨てしたものとみられる70本以上の「中身入り」ペットボトル(およびコーヒー缶)を3時間程度で回収したと報じた。

そして記事中では「家の前に捨てられたのは拾わざるを得ない」などといった地元住民の声を紹介しつつ、「夜間に走行中の車から投棄されることが多い」「ここ2、3年で急増した」と現状を解説。また現役のドライバーにも取材し、「仙台市から福島県にかけては駐車場が少なく、コンビニはどこも同業者でほぼ満杯」といった実情や、「駐車できずにやむなくペットボトルに用を足した」などの経験談も紹介している。

記事から1か月以上がたった10月上旬、筆者が件(くだん)の国道付近に住む人に話を聞くと、「河北新報の記事が出て以降、この近辺に捨てられる尿入りペットボトルは10分の1に減った」と教えてくれた。このまま状況が改善に向かうとすれば、報道がプラスに作用したと言える。

トラックドライバーの過酷な労働環境

「ほんの一部のドライバーによる尿入りペットボトルのポイ捨てが、長年にわたって業界全体の問題になっている」と話すのは、『河北新報』の取材にも答えているライターの橋本愛喜さん。橋本さん自身もトラックで荷物を運んでいた経験があり、自著『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)などでドライバーの労働事情について解説・問題提起している。

「ペットボトルに用を足さなければならないような状況だとしても、それをポイ捨てするかどうかは全く別の話。排せつ物のポイ捨ては人格のポイ捨てと同じだと私は思います」と、橋本さんは「ポイ捨て」行為を強く非難する一方で、トラックドライバーの労働環境については、「1〜2週間にもわたって車中泊を続けるような仕事はほかになく、過酷の一言に尽きます」とドライバーの労働環境について吐露する。

そして、運送会社に輸送を依頼する「荷主」とドライバーのパワーバランスが「こうした現象の背景にあるのではないか」とも指摘する。

 

「荷主に『すぐ来られる所で待っていて』と言われてしまうと、トラックは路上で待っているしかない。これを『荷待ち』と言うのですが、2、3時間は平気で待たされます。そして多くの場合、待っているドライバーが使えるトイレがありません。トラックから離れることもできないから、ペットボトルや道端で済ますことになる。ドライバーがそういう状況に置かれがちであるという実情はあると思います。

さらに言うと、『荷待ち』でドライバーの拘束時間が長くなっても、それに対して荷主から『荷待ち料』が支払われることはほとんどない。残念ながら、運送会社と荷主にはそのようなパワーバランスが成立してしまっています」(前出・橋本さん)

古い商習慣として定着した荷主と運送会社のパワーバランスが、ドライバーの過重な負担につながっていると話す橋本さん。働き方改革を目指してトラックドライバーの時間外労働に上限を課す国の施策(2024年4月から運用)についても「運送会社に対して労働時間を規制しても、現場でドライバーが荷主に待たされれば状況は変わらない」(同前)と否定的だ。

荷主・消費者の意識変革が必要

当然ながら、労働環境の悪さから車内で用を足さざるを得ないことは、ポイ捨ての言い訳にはなり得ない。橋本さんもそのことを繰り返し強調する一方で、「ドライバーがしっかり休める状況を整えることが、労働状況を改善することになる。結果的には、尿入りペットボトルの減少にもつながると思います」と、トラックドライバーが利用できる駐車場と休憩所の必要性を訴える。

さらに橋本さんは、トラックドライバーの労働環境を変えるためには前述の荷主はもちろん、消費者の意識変革も必要だと続ける。

「『送料無料』に慣れてしまっている消費者が多いけれど、そもそも『無料』なはずはないですよね。運ぶためのコストを誰かが負担しているのです。『無料』ということばが『運ぶ』という仕事の軽視につながっている、ということが根本的な問題のひとつになっていると思います」

尿入りペットボトルのポイ捨て問題に対し「労働条件の厳しさのせいにするな」と言い放つことは簡単だし、筋が通ってもいる。しかし橋本さんが言うように、問題の背景のひとつとして、「運ぶ」という仕事が置かれている現状に目を向けることも重要なのではないのだろうか……。

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