『宮本から君へ』助成金裁判で製作会社が逆転敗訴「公益性」行政が判断する難しさ

弁護士JP編集部

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『宮本から君へ』助成金裁判で製作会社が逆転敗訴「公益性」行政が判断する難しさ
(C)2019「宮本から君へ」製作委員会

2019年6月に麻薬取締法違反で有罪判決を受けたピエール瀧さんが出演する映画『宮本から君へ』(2019年9月公開、主演:池松壮亮さん、蒼井優さん)への助成金不交付を巡る控訴審で、東京高裁は3日「不交付は適法」との判決を下した。

裁判で対立しているのは、映画の製作会社「スターサンズ」と、助成金の交付元である「日本芸術文化振興会」。日本芸術文化振興会は文部科学省が所轄する公的支援機関であり、活動の一環として、映画製作を含む文化芸術活動に対する助成金の交付を行っている。

2審で映画製作会社が逆転敗訴

映画『宮本から君へ』の製作にあたり、日本芸術文化振興会からスターサンズへの助成金交付は2019年3月に内定していた。ところが同年6月、同作品に出演していたピエール瀧さんへ有罪判決が下ったことで、日本芸術文化振興会は「公益性の観点」を理由に不交付を決定。同年7月にスターサンズへ通知書が届いたという。

これを受け、スターサンズは助成金不交付の取り消しを求めて日本芸術文化振興会を提訴。2021年6月21日、東京地裁(1審)は「助成金不交付は違法」と判決した。これを不服とした日本芸術文化振興会は東京高裁(2審)へ控訴。今回の東京高裁は1審判決を覆した形だ。

伊藤真弁護士「日本の行政のレベルの低さが露呈」

1審・2審を通して争点となったのは、日本芸術文化振興会が助成金不交付の理由としている「公益性」について。2審判決後の記者会見で、スターサンズの代理人・伊藤真弁護士は「日本の行政のレベルの低さが露呈した判決。『公益性』とは国や行政のさじ加減でどんな内容にもなり得るもの」と危機感を表した。

また2審では「助成金を交付すれば『国は薬物犯罪に寛容である』という誤ったメッセージを発信したと受け取られる」とした日本芸術文化振興会の主張も認められた。これについて、同じくスターサンズの代理人を務める秋山光弁護士は「映画の中には犯罪や、犯罪の助長に繋がる描写があるものも存在する。日本芸術文化振興会の主張がまかり通ってしまえば、今後これらすべてに助成金を交付しないということになる」と指摘した。

記者会見には、スターサンズ代表取締役・河村光庸氏も出席。「製作者として、行政そのものがこういう(今回の判決のような)姿勢で常にいることを警戒しなければならない」と怒りを露わにした。

2審判決後に記者会見するスターサンズ代表取締役・河村氏と弁護団(3月3日 霞が関/弁護士JP編集部)

2審の判決を受け、日本芸術文化振興会は「判決の詳細を確認しておらずコメントできない」とコメント。スターサンズは今後、最高裁へ上告する意向だという。

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