「人格権を侵害」パワハラ社長が反抗する社員を“完全無視”から“解雇”の非道に裁判所が突きつけた代償

林 孝匡

林 孝匡

「人格権を侵害」パワハラ社長が反抗する社員を“完全無視”から“解雇”の非道に裁判所が突きつけた代償
自分に従わない社員を追放!「パワハラ社長」に下った判決は…?(imtmphoto / PIXTA)

自分の非をゼッタイに認めないパワハラ社長に鉄槌! 事件を解説します。(弁護士・林 孝匡)

裁判所
「慰謝料100万円! パワハラ社長は己に問題があることに思いをいたさず、自分の指示に従おうとしないXさんを会社から排除すべく解雇したからです」(大阪地裁 R5.2.7)

以下、詳しく解説します。

※ 争いを簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています。

登場人物

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▼ 会社
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・研究機関用検査分析装置などの販売等を行う会社
・スイス企業の日本法人
・従業員数29名

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▼ Xさん
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・営業所長(西日本営業部)

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▼ パワハラ社長
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・実質的な社長者

どんな事件か

このパワハラ社長、かなりウザかったようです。彼の入社後、多くの従業員がパワハラ社長をウザがり、10名の退職者が出ていました。理由は、パワハラ社長からの厳しい𠮟責(しっせき)、メール、「自分の指示に従うように」との要求に嫌悪感を抱いたからです。

このパワハラ社長は、自分の前の勤務先の従業員を複数採用し、イエスマンだけで周りを固めたかったようです。反抗してくる既存社員を追い出したかったんでしょうね。

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▼ Xさんをハミ出しものにする
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パワハラ社長は、経理担当から「マネージャーの権限がある方はどなたですか?」とメールで質問を受けたとき、「マネージャーとなっているものは以下となります」として、Xさん以外の5名を挙げました。

そして、とどめに「なお、●営業所所長(※筆者注:Xさんの肩書です)という担当役職は現在存在しておりませんし、当職はそういう役職が有ったという事実を承知しておりません」と返信しました。Xさんを完全に無視した内容です。

ーーー 裁判所さん、いかがですか?

裁判所
「この返信は不法行為です。パワハラ社長はXさんが営業所長であることを認識していたにもかかわらず、上記のようなメールを送信しており、これはXさんの自尊心を深く傷つけるものであって軽率のそしりを免れない」

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▼ 私は悪くない
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このパワハラ社長、とにかく自分の非を認めません。以下は、あるミーティングでの出来事です。

Xさん
「あなたの言動に恐怖を感じた従業員が多く辞めています」

パワハラ社長
「当然まあ、双方向あるけど、大前提としては社員の人たちがちゃんと理解をして合わせる努力もしてくれなきゃいけないんだよね」

別の社員 「意思疎通の中でどちらが優位であるかということなく、報告すべきことはすべきであり、互いに直していくべきです」

パワハラ社長
「退職した社員はほとんど意思疎通しようとしなかった。またXさんは報告を怠っている。私からのメールにほとんどの社員が返答しない」

・・・かなり嫌われてたんでしょうね。

Xさん
「あなたからも返信はありません」

パワハラ社長
「仮に返信がなくても、それを再度求めるのが社員の義務だぜ。当たり前の話だから。その当たり前の話をじゃあ、君が、その当たり前のそのことをやってましたか? やってないよね。コミュニケーション、つまり取ろうという気持ちが基本ないからやらないの。そこで、あの、10に1つか100に1つのことをココで重箱を突くように突っ込むわけだ。でも、辞めていった人間がいたとしても、結局それで商売としてうまくいってないか、いっているかっていったら、結果論的にはそれほど悪くないからね」

何を言ってるか分かりませんが、要は「問題があるのはキミたちであり私は悪くない」と述べ続け、自分に非があることを受け入れる姿勢はほとんど示しませんでした。

ーーー 裁判所さん、これはいかがですか?

裁判所
「退職者が多く出た原因はパワハラ社長の高圧的かつ不当な言動にあると認められるのに、『人が変われば経営方針も変わる、社員も合わせるべき』『Xさんが報連相を怠っている』と指摘して非難を続け、最終的には『お互いに適切にコミュニケーションをとっていくことにする』など、自らの非を顧みない結論でまとめて協議を終了させている。これはXさんに対する対応としておよそ不適切なものと言わざるを得ない」

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▼ その後もXさんに嫌がらせ
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ミーティング後も、以下のような嫌がらせが続きました

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・「あなたのメールの理解が難しい」と非難
・「服装に問題がある」
・Xさんが担当していたエリアを他の担当者に変える(合理的理由がないのに)
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▼ 解雇
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最終的に、パワハラ社長はXさんを解雇しました。この解雇は「スイス本社の意向を無視してパワハラ社長の独断で行われた」と認定されています。

ーーー 裁判所さん、ミーティング後の一連の行為、いかがですか?

裁判所
「パワハラ社長によるXさんのメールに対する非難などは、自らの言動の問題性を何ら顧みることなく、これに恐怖心を抱くXさんへの心情にもまったく配慮しないまま、自分の指示に従おうとしないXさんを会社から排除すべく行われたものであり、社会通念上許容される範囲を逸脱し、Xさんの人格権を侵害し、不法行為を構成する」

上記はパワハラの一部ですが、裁判所は会社に対して慰謝料100万円の支払いを命じました(使用者責任)。

パワハラを受けている方へ

パワハラ防止法が施行されています。会社にはパワハラ相談窓口があるはずなので、そこに相談してみましょう。相談してものらりくらりな対応をされたら、労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。

パワハラ防止法の使い方はコチラをご覧ください
会社内上司の悪質な“いじめ”が止まない… 「パワハラ防止法」は対抗手段の“武器”になる?

最後に

かなり具体的な発言が判決文に掲載されていたので、Xさんは録音していた可能性が高いですね。

独善的で高圧的な上司と話すときは常時録音をオススメします。録音は、パワハラ上司や会社に損害賠償請求するときの証拠として強力なので。

今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!

取材協力弁護士

林 孝匡 弁護士
林 孝匡 弁護士

【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。 HP:https://hayashi-jurist.jp X:https://twitter.com/hayashitakamas1

所属: PLeX法律事務所

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