一般社団法人代表の“闇堕ち”描くAVが物議 モデルとされる女性は「名誉毀損」で訴えることができる?
2023年10月、ある1本のパロディー系アダルトビデオ(以下、AV)の発売が発表され、現在に至るまでネット上で物議を醸している。
特定の女性支援団体および代表の女性をモチーフにしたと思われるAVで、モデルにされた女性(以下、A氏)は発売元や主演女優を批判。ネットユーザーの関心の的となっているのだ。
芸能人やアニメ・映画作品のパロディーAVは今までも発売されていたが、今回のように「社会的な影響力を持って活動している人物を想起させるAV」に違法性はあるのだろうか。弁護士法人クローバーの村松由紀子弁護士に話を聞いた。
「貧困女性の自立支援団体の代表」という設定
まずは、確認できている範囲でAVの内容と社会的事実を整理しておこう。
物議を醸した作品のパッケージや販売サイトでのあらすじ紹介によれば、主演女優が演じるのは「SNSで“似非フェミニスト”と揶揄されている」「不正会計および公金の不正取得を告発された」「貧困女性の自立支援団体の代表」という設定だ。
モデルにされた実在の団体が不正会計の告発を受けたのは事実であり、作中に出てくる支援団体の名称も、実在の団体をもじって名付けられているように思える。
これは公開されている情報からの推測だが、代表役の主演女優が男性に無理やり性行為をさせられるシーンが含まれているようだ。
果たして、このような作品に違法性は問えるのか。
「名誉を毀損した」とは “いえない”という判断の可能性も
村松弁護士は、AVの内容が『現実の出来事であると認識することはあり得ないもの』であれば、「名誉毀損(きそん)は成立しないと考えられる」と話す。
その根拠として村松弁護士が挙げたのは、女性議員X氏が自身を模したアニメーションAVの制作販売者らに対し「名誉毀損」を訴え、損害賠償とAVの販売差し止めを求めた裁判だ(※東京地裁平成24年9月6日判決)。
「主人公の容姿がX氏と似ていること、彼女の名前から作り出すことが可能であるキャラクター名であること、登場人物のせりふ・タイトル等の記載内容が、X氏のこれまでの社会的活動等の内容と類似していること等が認められました。
さらに裁判所は、X氏がマスメディアに登場する著名な人物であることも考慮して、DVDの視聴者や広告を見た人が、主人公=X氏と思う、すなわち少し難しい言葉ですが、『容易に同定できる』と認めました」(村松弁護士)
しかし判決では、あくまでDVDはアニメ“AV”であり、荒唐無稽な内容で、視聴者が「現実の出来事であると認識することはあり得ない」ことから、「(X氏の)社会的評価を低下させるものであるとは認められず、名誉を毀損するとはいえない」と判断されたのだ。
この判決を踏まえ、村松弁護士は「今回のAVについては、『不正会計および公金を不正に取得していた』という部分が名誉毀損になるようにも思えますが、AVというジャンルや内容を総合的に考えると、視聴者が現実の出来事であると認識することはあり得ず、A氏の名誉を毀損したとはいえないという判断になる可能性があります」と説明する。
「名誉感情」は侵害されている
名誉毀損は認められない可能性が高い。そうなれば、社会的な活動をしている人がパロディーAVを作られた場合、諦めて「泣き寝入り」するしかないのだろうか…。
実は、X氏の裁判では「名誉感情の侵害(※自尊心を傷付けること)」が認められている。「名誉毀損」は社会的評価の低下だが、「名誉感情の侵害」では自尊心の低下が争点となる。
「X氏の事件では、(X氏と容易に判断できる)主人公が侮辱的な扱いを受けている内容であることから、裁判官は、X氏が『自尊心を傷つけられ、精神的苦痛を受けることが明らかである』と名誉感情の侵害を認めました。
今回のAVに関しても、(A氏と判断できる)主人公が『男性に無理やり性交させられるという侮辱的な扱いを受けている場面』が含まれているようです。そのような内容の動画が販売され、視聴されれば、ご本人は自尊心を傷つけられ、精神的苦痛を受けることが明らかです。よってコンテンツの販売は、A氏の名誉感情を侵害するものであり、不法行為(民法709条)に当たる、違法性があると言えると考えます」(村松弁護士)
X氏の裁判では「名誉感情の侵害」が認められ、制作販売者に対し慰謝料20万円の支払いが命じられた。村松弁護士によれば、場合によっては損害賠償請求もできる可能性があるという。ただし、「作品の販売差し止めまでは認められない可能性が高い」(同上)とのことで、X氏のケースでもDVDの販売差し止め請求権は認められていない。
「発売延期」状態だが…
理由は明らかになっていないが、渦中のAVは現在、発売延期となっている。Amazonや大手アダルト動画販売サイトのFANZAでは「取り扱い中止」と表示されていることから、このまま市場に流通しないかもしれない。もし流通したとしても、モデルとなったA氏が制作販売者を訴えないとも限らない。
AVに限らず、作品を世に出す際には常に責任が伴う。特に実在の誰かをモデルにする場合、その相手を傷つけてしまう可能性をはらんでいる。
狙って傷つけようとしたなら言語道断だが、その意図がなくとも、作り手は作品が社会に与える影響について自覚を持つべきだろう。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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