育休復帰後に部下37人からゼロへ…元チームリーダーの女性が会社を提訴、逆転勝利で「慰謝料200万円」認められた“納得”の理由

林 孝匡

林 孝匡

育休復帰後に部下37人からゼロへ…元チームリーダーの女性が会社を提訴、逆転勝利で「慰謝料200万円」認められた“納得”の理由
女性はチームリーダーとして業績を上げていたが…(studio-sonic / PIXTA)

部下37人 → 部下0人に・・・事件を解説します。(弁護士・林 孝匡)

女性社員の話です。概要は以下のとおり。

この方は会社の業績向上に貢献しており、部下が37人もいました

出産し、育児休業をとる

職場復帰すると・・・

リーダーには戻れず。部下が1人も付かない職につけられました。

女性は提訴して慰謝料を請求。

地裁
「慰謝料請求は認められません」

しかし高裁で逆転。

高裁
「慰謝料200万円を認めます」

以下、詳しく解説します。(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド事件:東京高裁 R5.4.27)

※ 争いを簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています

登場人物

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▼ 会社
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・クレジットカードを発行する外資系企業

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▼ Xさん(女性)
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・個人営業部の部長
・チームリーダー

どんな事件か

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▼ メキメキと頭角を現す
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平成20年8月 
Xさんは契約社員として採用されます。
平成22年1月 
正社員になります。

相当能力の高い女性だったのでしょう。着実に階段をのぼります。
平成22年1月
セールスプロフェッショナルになる
平成24年3月
セールスエグゼクティブになる
平成26年1月
東京のベニューセールスチームのチームリーダーになる

当時、37人もの部下がいました。Xさんはチームリーダーとして業績を上げていました。

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▼ 妊娠(第2子)
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平成26年12月
Xさんは第2子を妊娠
平成27年7月
産前休業

その後、会社はXさんのチームを消滅させます。

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▼ 出産
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Xさんは出産し、育児休業を取得します。(〜平成28年7月)

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▼ 事件発生
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平成28年8月
職場復帰したのですが、リーダーには戻れず。なんと、部下がゼロの職に配置されたのです。アカウントセールス部門のアカウントマネージャーという職です。名前はカッコいいんですが、要は新規顧客の開拓と電話営業です。リーダーレベルの方が携わる仕事じゃないんです。

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▼ 人事評価で最低をつけられる
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その後、会社はXさんの人事評価で最低をつけました。

Xさんが提訴。以下、慰謝料請求にしぼって解説します(ほかに「チームリーダー相当の職にあることを認めてほしい」「アカウントマネージャーとして働く義務がないことを認めててほしい」との請求もしていましたが高裁段階で取り下げています)。

ジャッジ

弁護士JP編集部

地裁
「慰謝料は発生せず」

Xさんが控訴。

高裁
「慰謝料200万円を払え! なぜなら妊娠、出産、育児休業などを理由とする【不利益な取扱い】だからだ」

以下の条文です。

==== 参考 ====
■ 雇用機会均等法9条3項
事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない

■ 育児介護休業法10条
第十条 事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない

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▼ 部下がゼロ
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復帰後に部下をゼロにした事件では、こんなやりとりがありました。

副社長A
「チームリーダーは乳児を抱えて定時で帰宅できる職務ではない」

副社長Bは、復帰直前のXさんに対して
「あなたの現状を考慮すると、自分のペースでハンドルできる仕事の方がよい」

Xさん
「チームリーダーに復帰できないことに不満があります...」

副社長B
「妊娠後復帰するまで1年半以上休んでいてブランクが長く、復帰してからも休職が多いからチームリーダーとしては適切ではない」

部下をゼロにした点について裁判所は

裁判所
「復帰後のアカウントマネージャーという仕事は、妊娠前のチームリーダーと比較すると、業務の内容面において質が著しく低下していた。給与面でも業績連動給が大きく減少。何よりも妊娠前まで実績を積み重ねてきたXさんのキャリア形成に配慮せず、これを損なうものであったと言わざるを得ない」

==== 考慮した事実 ====
・復帰後、部下がゼロになった
・売上目標などが示されないまま新規販路の開拓に関する業務を行わせた
・700件の電話リストを与え電話営業を優先させていた
====

裁判所
「以上の措置は雇用機会均等法9条3項および育児介護休業法10条の【不利益な取扱い】にあたる。また人事権の濫用なので公序良俗にも反する(民法90条)」

と判断しました。

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▼ 人事評価を最低にした
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裁判所
「これも【不利益な取扱い】にあたる。Xさんに、復帰後の仕事への取組みが芳しくないとか、リーダーシップに難点があったとは認められない。最低評価とされた理由は、Xさんに1人の部下もつけずに新規販路の開拓に関する業務を行わせ、電話業務に従事させた結果と言わざるを得ない」

以上の判断をして、会社に対して慰謝料200万円の支払いを命じました。

ほかの裁判例

育休からの復帰を拒否され解雇された事件はコチラ
「育休」女性社員の職場復帰を拒否・解雇… 会社の「言い分」に裁判所が下した判断は?

会社は何だかんだ理由をつけて解雇したのですが、女性社員の勝訴です。

相談するところ

妊娠、出産、育児休業などを理由に嫌がらせされそうなときは労働局雇用均等室に助けを求めてみましょう。

今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!

取材協力弁護士

林 孝匡 弁護士
林 孝匡 弁護士

【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。 HP:https://hayashi-jurist.jp X:https://twitter.com/hayashitakamas1

所属: PLeX法律事務所

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