犯罪撲滅系YouTuberが語る「私人逮捕」を行うワケ 合法と違法の“境界線”はどこにある?
一般人でありながら犯罪者を拘束する私人逮捕。
動画サイト「YouTube」には、電車内で痴漢を行った男性を警察に連行する映像などが生々しく流され、中には20万回を超えて視聴されている動画も。一方で、そうした動画を投稿していたYouTuber「煉獄コロアキ」こと杉田一明容疑者(40)と「ガッツch」を発信する今野蓮容疑者(30)が11月、相次いで警視庁に逮捕された。
これらの騒動などで、賛否も含めにわかに注目を浴びている私人逮捕だが、動画を公開する当人たちはどのような考えを持って実行しているのだろうか。自らも私人逮捕を行ったことがある犯罪撲滅系YouTuberのフナイム氏(東京都内在住)に投稿の動機などについて聞いた。
“私人逮捕動画”投稿のきっかけは?
「アルバイトで生計を立てながら、犯罪撲滅活動に力を注いでいる」と話すフナイム氏は今年1月、YouTubeに「フナイムTV」を開設し、6月から本格的に動画投稿を始めた。現在非公開になっているものも含め、私人逮捕系の動画をこれまでに数本投稿している。
そのうち、チケット転売をする人(転売ヤー)を取り上げた動画は、フナイム氏自身がアイドルグループのコンサートチケットを取れなかったことをきっかけに撮影を行ったという。
自身が取れなかったチケットが転売サイトなどでは高額で売られていることに疑問を持ち、「チケット不正転売禁止法」に触れることを理由に “転売ヤ―”をつかまえることで「(転売を)撲滅したい、注意したい、(阻止する映像を)喜んでくれる方もいらっしゃるだろうと思って始めました」(フナイム氏)。
ある日には、東京ドーム近くで韓国人アーティストのコンサートチケット(定価2万4000円)を15万円で転売していた2人組の転売ヤーにも“突撃”した。
「X(旧ツイッター)」や転売サイトなどを通じて、転売ヤーにダイレクトメールを送り、携帯で連絡を取り合った。ライブ当日にドーム前で対面。転売は禁止されていることを伝え、「警察に引き渡すか、お説教で終えるか、探りながら対応した」(フナイム氏)が、この時は「もうやらないでくださいね」と伝えて別れたそうだ。
痴漢の連行など、視聴者から送られてくる情報提供をもとに動画を撮影したこともある。
「○○時台の○○線に(痴漢常習者が)乗っています」というXのダイレクトメールを参考に、該当する日時に電車に乗り込み、常習者を特定。痴漢を行ったことを確認し、「痴漢行為をしたよね」と声を掛けた。被害に遭った女性にも声を掛け、女性がうなずくなどして認めたため、「私人逮捕」を行い警察に連行した。
「私人逮捕」を弁護士が解説
この私人逮捕。法的にはどのように解釈されるのだろうか。
刑事事件を多く手掛ける本庄卓磨弁護士によると、私人逮捕の法的根拠は刑事訴訟法213条の「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」という条文だ。
目の前で犯罪が行われ、緊急性が高い場合などに、条件付きではあるが、私人が逮捕する行為自体は決して違法ではない。
裁判官が発布する令状がないと逮捕できないのが原則だが、「現行犯であれば誤認逮捕のおそれがなく、犯人の逃亡防止の観点から逮捕の緊急性・必要性が高いため、例外的に令状なしで私人でも逮捕できます」(本庄弁護士)。
現行犯か、そうでないのかの判断については、“客観的”な状況が決め手となる。たとえば、電車内で痴漢行為をしたと思われる人物が否定していても、被害を受けた女性が手をつかんでいる、あきらかに背後にいる人物がその人だけ、といった客観的状況があれば逮捕できるという。
逮捕時に犯人と見なされる“客観的”状況があれば正当行為(刑法35条)として認められ、「結果的に冤罪だったとしても、必ずしも逮捕が違法となるわけではありません」(同前)。
ただし、逮捕の際にもみ合いになったり、押さえ付けたりしたような場合、「必要・相当な程度の実力行使であれば正当行為とされますが、それを逸脱していれば違法となります。暴行罪、傷害罪、逮捕・監禁罪に該当し、罪に問われる可能性があることはもちろん、民事上の損害賠償義務も負う可能性があります」(同前)
生活の中で犯罪を目撃するなど、「私人逮捕」を迷う状況に置かれた際に取るべき行動について、本庄弁護士はこう説明する。
「警察に通報できる状況であれば、なるべく早めにしたほうがいい。私人逮捕をした場合でも犯人を警察官に引き渡す義務があり、遅かれ早かれ通報は必須です。
どうしても私人逮捕せざるを得ない場合でも、犯人が逆上する可能性などを考え、幼児や高齢者がいないかなど、周囲の状況にも留意するべきです」。
「理解や協力得られる啓発活動を」
すでに逮捕者が出ていることからもわかるように、私人逮捕の様子を撮影しYouTube等にアップする行為は、前述した以外にも多くのリスクをはらんでいる。
前出のフナイム氏は「人が喜ぶことをしたい。人のために働きたい」と話すが、再生回数アップなどを目的に撮影・投稿がエスカレートすると思わぬ事故などにもつながりかねない。
冒頭に紹介した事件で、杉田容疑者は撮影相手の女性の名誉を毀損(きそん)した容疑で、今野容疑者は撮影相手に覚醒剤を路上に持ってくるようにそそのかしたとして「覚醒剤取締法違反(所持教唆)」の容疑で逮捕されている。
本庄弁護士は、「私人逮捕は自身だけでなく周囲への危険も伴う行為であり、推奨できません。また、YouTuberが私人逮捕を行う動画を投稿することも、一部のチャンネルが停止されたり、鉄道各社が注意喚起したりしていることからも分かる通り、社会的にも歓迎されていません」と指摘する。
「今後は動画投稿にもコンプライアンスをより求められるようになってくると考えられます。過激な行動ではなく、周囲に理解や協力を得られるようなかたちで啓発活動をしていただきたいと思います」(同弁護士)
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