頂き女子りりちゃんが“貢いだ”ホスト「組織犯罪処罰法違反」で逮捕 “貢がれた側”が罪に問われるケースとは?

倉本 菜生

倉本 菜生

頂き女子りりちゃんが“貢いだ”ホスト「組織犯罪処罰法違反」で逮捕 “貢がれた側”が罪に問われるケースとは?
客から多額の金銭を受け取ることの多いナイトワーカーにとって「りりちゃん事件」は人ごとではない…(west / PIXTA ※写真はイメージ)

「頂き女子りりちゃん」と名乗る女が、自身に好意を寄せる男性をだまし多額の現金を受け取ったとして逮捕された一連の事件。

詐欺で得た金と知りながら、「りりちゃん」こと渡邊真衣被告(25歳)から現金約4000万円を受け取ったとして、歌舞伎町のホストおよびホストクラブの経営者も10月24日に「組織犯罪処罰法」違反の疑いで逮捕された(※11月13日再逮捕)。

今回のように、「貢がれた側」が逮捕されるケースは珍しいのではないか。たとえば「会社の金を横領してキャバ嬢に貢いだ男性」が逮捕される事件などは過去に発生しているが、「貢がれた側」の処罰について、これまで報道などでもあまり取り上げられてこなかったように思われる。

筆者は長年キャバ嬢として勤務していたため、「もし指名客が違法な手段で得た金を貢いでくれたとして、私にも何かおとがめがあるのだろうか……」と想像したことがある。

貢がれた側も罪に問われたり、被害者への弁償の責任が発生したりするのは、どのようなケースなのか。刑事事件に多く対応する杉山大介弁護士に話を聞いた。

ホストが逮捕された「組織犯罪処罰法」とは?

今回再逮捕されたのは、新宿歌舞伎町のホストクラブ「club LATTE」所属のホスト・田中裕志容疑者(26)と、同店責任者・橋本一喜容疑者(34)だ。彼らに適用された「組織犯罪処罰法」とは、どのような法律なのか。一見、暴力団などの“グループ犯罪”に用いられる法のように思えるが……。

「今回適用されたのは、組織犯罪処罰法(正式名称『組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律』)の第11条『犯罪収益等収受』です。この条文には、実は組織がどうのという記述は一切ありません。

事情を知った上で犯罪収益などを受け取った者は、7年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、または両方が科せられるというものです。つまり、犯罪収益だと分かっていて金銭を受け取ったら、この犯罪収益等収受の罪が成立するのです」(杉山弁護士、以下同)

ここでいう犯罪収益とは、どのようなものが該当するのだろうか。

「簡単に言うと、“重い犯罪で得た利益”のことです。今回のケースで警察は詐欺をしたのは女、ホストは詐欺をやらせた側と見ていて、やらせた部分については逮捕してから細かく立証するとして、とりあえず『金を受け取った』で逮捕できる犯罪収益等収受の罪を使ったのではないでしょうか」

ならば、違法な手段で得たお金と知りながら享受した場合、「組織犯罪処罰法」の他にもなんらかの罪に問われる可能性があるということなのか。杉山弁護士は以下のように説明する。

「お金を得る手段として犯罪行為に及んでいるのを具体的に知っていたら、詐欺罪の共犯になってきますね。詐欺罪の方が法定刑も重いです(10年以下の懲役)。警察の狙いも、最初から詐欺罪共犯での立件だと思います」

金塊や薬物などを手渡されるのと違い、現金は貢がれた側も出どころへの違和感を覚えにくいため、犯罪収益の罪や詐欺の共犯にあたるかは「立証しにくい」と杉山弁護士は話す。しかし、今回の事件では、渡邊被告とホストらの間に具体的な計画や指示のやり取りが残っていたことが報道されている。「分かった上で金銭を受け取っていた」ことを裏付ける証拠があったため、逮捕に至ったようだ。

渡邊真衣被告はYouTubeチャンネルも解説していた(『りりちやんはホームレスです』(https://www.youtube.com/watch?v=h2tpe70HZO8))

「貢がれた側」が罪に問われるケース

貢がれた側が捕まった際に「知りませんでした」としらを切り通すことはできるのか。貢がれた側に賠償請求などの法的責任が発生するケースについて、杉山弁護士はこう語る。

「受け取った側がどこまで知っていたか、違法行為に関与しているかが問題となります。本当に『もらっただけ』なら違法にはなりません。ただ、『行為に関わっていた』と分かるような証拠などがあると、違法行為を許容していたと判断されます。刑事であれば共同正犯、民事であれば共同不法行為による損害賠償責任が生じてきます」

しかし、今後もこうした「ホスト」や「キャバ嬢」など、“貢がれる側”の逮捕が続く可能性について、杉山弁護士は「貢がれた側の認識を立証するのは難しいので、早々広がるとは思いません」と話す。

「今回のケースは、損害額だけでなく関与の程度や、具体的なスキームとしても“貢がせる”の領分をかなり逸脱していたところが大きいかと思います」(杉山弁護士)

明らかな証拠さえなければ、たとえ違法行為を知っていたとしても貢がれた側が言い逃れできるのが現状ということだろう。筆者も、もし現役時代に客がグレー、もしくはアウトな方法で金を得ていたとして、「そそのかしたわけではないなら、金の出どころなど知ったことではないし口出しもできない」という気持ちがわいていたかもしれない。

業種を問わず、客から多額の金銭を受け取ることの多いナイトワーカーにとって、今回の「りりちゃん事件」は決して人ごとではないはずだ。

田中容疑者らのように自ら進んで違法行為を客にそそのかしている人間は、明日はわが身と考えておくべきだろう。

大久保公園前に立つ“交縁”女子はホストへの借金という理由も少なくない(弁護士JP編集部)
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