ベトナムの高級ホテルで日本企業を“接待” 技能実習生に「借金100万円」強いる“闇深すぎ”なシステム

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

ベトナムの高級ホテルで日本企業を“接待” 技能実習生に「借金100万円」強いる“闇深すぎ”なシステム
高級接待の“ツケ”は技能実習生たちが払っている(izolabo / PIXTA)

出入国在留管理庁によれば、昨年失踪した外国人技能実習生は9006人と過去2番目に多かったといいます。日本には約32万人の技能実習生がおり、“失踪率”でいえば約2.8%。これを多いと見るか少ないと見るかは、人ぞれぞれかもしれません。

失踪の原因はさまざま考えられますが、その原因は必ずしも、一般的にイメージされる「劣悪な労働環境」ではなく、「思うように稼げない」状況も大きく影響していると言われています。

技能実習をきっかけに祖国で“勝ち組”の人生を手に入れた人、失踪せざるを得ない状況におちいった人、“技能実習マネー”に群がる有象無象…。多様な立場から見つめると、日本が生み出したこの制度がいかに“複雑怪奇”であるか分かります。

第5回目は、技能実習生が来日前に多額の借金をする理由であり、「一人100万円」とも言われる派遣費用(現地の送り出し機関に支払う手数料)が「なぜそんなにかかるのか」を、筆者が現地で見た“接待”の現場から垣間見ます。

(#6に続く)

※この記事はジャーナリスト・澤田晃宏氏による書籍『ルポ 技能実習生』(筑摩書房)より一部抜粋・構成しています。

日本語飛び交う売春クラブ

ベトナムの首都・ハノイ市内にあるその高級ホテルの名前を、ベトナムの実習生に関わる人であれば、一度は聞いたことがあるという。そのホテルに足を運んだのは、水曜日の午後7時頃だった。正面玄関から距離を置き、出入りの様子を窺った。

ホテルの正面の車寄せに、フォード社のトランジットが止まる。なかから、片手にビジネスバッグを持ち、白いワイシャツを着たベトナム人が、日本人を引き連れ、ホテルに入っていく。

一目で、それが送り出し機関ご一行様とわかる。ホテルに入った正面にフロントがあるが、集団は入り口横にある地下へと続く階段に吸い込まれていく。約30分の間に、そんな光景を2回見た。

筆者も階段を降りる。胸元を露わにしたドレスをまとう若い女性たちに「イラッシャイマセ」と出迎えられた。店内は暗く、正面にあるステージでは、艶っぽい衣装を着た女性が歌い、男性客がその様子を眺めながらお酒を飲んでいる。

その正面にあるステージをはさむように、左右にカラオケ付きの個室が並んでいた。店のスタッフに、その一つに案内してくれるように頼んだ。スタッフの後に続きながら、ほかの部屋の入口にある小窓からなかの様子を窺う。日本人とおぼしき男性が、またぐらに女性を座らせ、後ろから抱きかかえるようにしてマイクを握っていた。

個室に案内されると、スタッフが女性を10人ほど連れて入ってきた。お酒を飲む相手を選べと言う。店は東南アジアにはよくある「KTV」(カラオケ・テレビ)と呼ばれるお店で、女性が隣に座り、一緒にカラオケやお酒を楽しむ。

ずらりと立ち並ぶ女性から一人を選ぶ。女性は一礼し、筆者の横に体を密着させるように座った。単なるKTVではないことは、すぐにわかった。

「オニイイサン、カッコイイネ」
「ワタシ、トテモ、スケベデス」

事前にこの店の女の子はたいてい日本語が話せると聞いていたが、その語彙はひどく偏っていた。英語は通じず、ベトナム語がわからなければ、会話が成り立たない。それでも、女性の肩に腕を回すと、こちらに体を預けてきた。

その店で「ママ」と呼ばれる年配の女性スタッフは、筆者にこう説明した。

「気に入った女性がいれば、部屋に連れて帰れます。別のホテルでも大丈夫です。ショート(2時間)は150ドル(約1万7000円)、ロング(朝まで)は300ドル(3万3000円)です」

店がある地下1階のエレベーターから、フロントを通ることなく、客室のあるフロアまで女性を連れて行くことができる。ほかのホテルに連れ出すことも可能だが、その場合は追加で50ドルが必要だと説明を受けた。

1時間ほど飲んで店を出た。ベトナム人通訳と筆者の2人で約3万円。女性を連れ出さない場合でも、チップとして68万ドン(約3400円)を女性に払う必要があった。

送り出し機関が日本企業を接待

ベトナムで買売春は禁じられている。買春行為は50万〜100万ドン(約2500〜5000円)の罰金が科される。政府のおひざ元であるハノイ市は、規制が厳しい。ホーチミン市と比べ、風俗店の数も少ない。その数少ない店の一つが、冒頭のホテルというわけだ。

「あなたがジャーナリストなら、ベトナムで何が行われているかを知って欲しい」

ホテルのことを教えてくれたのは、ある送り出し機関の社長だ。ハノイ市内に売春クラブを併設した高級ホテルが二つあり、日本の監理団体や企業の接待場所になっているという。社長は言った。

「売春は非合法ですが、そこだけはベトナム政府公認の売春クラブとも言われています」

社長は、仮に取材として潜入しても、そこのホテルの名前や、店内の撮影はやめたほうがいいと筆者に忠告した。何を大げさなと思ったが、その後、別の複数の送り出し機関の関係者からも同じ指摘を受けた。

社長はこう続けた。

「日本の監理団体や企業が実習生の面接でベトナムに来た時には、送り出し機関が接待をします。売春クラブでの女性の連れ出し費用までは払いませんが、食事、マッサージ、夜のカラオケまでは、送り出し機関が負担しているケースが大半です」

売春クラブでの接待を求める客は一部だが、女性とカラオケを楽しむKTVでの接待程度は珍しくないという。なかには、観光やゴルフツアーの対応を求められることもあるようだ。

(第6回目に続く)

  • この記事は、書籍発刊時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
書籍画像

ルポ 技能実習生

澤田晃宏
筑摩書房

中国にかわり技能実習生の最大の供給国となったベトナム。「労働力輸出」を掲げる政府の後押しもあり、日本を目指す農村部の若者たち。多額の借金を背負ってまで来日した彼らの夢は「三〇〇万円貯金する」こと。故郷に錦を飾る者もいれば、悪徳ブローカーの餌食となる者もいる。劣悪な企業から逃げ出す失踪者は後を絶たない。日越の関係機関、実習生、支援団体を取材し、単純労働者の受け入れ先進国・韓国にも飛んだ。国際的な労働力移動の舞台裏を全部書く。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア