元自衛官・五ノ井さん、被告有罪判決受け会見で訴え 自衛隊に「根本的な変化」求める
元自衛官の五ノ井里奈さん(元1陸士)が元同僚の男性自衛官3人に性的暴行を受けた事件で12月12日、福島地方裁判所は強制わいせつ罪に問われていた被告の3人に対し、いずれも懲役2年、執行猶予4年(求刑・懲役2年)の判決を言い渡した。これを受け翌13日、五ノ井さんが日本外国特派員協会(東京都千代田区)で会見を開き、防衛省・自衛隊に対し「根本的に変わってほしい」と訴えた。
「生きていけるのだろうか、とさえ考えた」
五ノ井さんは2020年4月に陸上自衛隊に入隊、郡山駐屯地に配属された。21年8月、宴会の場で同僚の男性自衛官3人に抱き付かれるなどのハラスメントを受け、自衛隊内部の警察組織、警務隊に被害届を提出。3人は書類送検されたが、22年5月、福島地検は不起訴処分に。五ノ井さんは「被害をなかったことにしたくない。二度と同じような被害が起きてほしくない」という思いから、3人を刑事告発していた。
福島地裁の判決を受け、五ノ井さんは「自分の命を削って法廷の場に立って、被告と向き合った。前日は寝られなかった。正しい判決が出なかった場合、私は生きていけるのだろうか、とさえ考えた。(主張が)全面的に認められほっとした。やっとの思いで報われた」と語った。
男性自衛官が、五ノ井さんを押し倒し腰を振ったことは周囲の笑いを取るためだった、と主張したことに対し、福島地裁の三浦隆昭裁判長は「性的意味合いが強い」と主張を退けた。これについて、会見に同席した大田愛子弁護士は、「(裁判長の)判断は当然のこと。加害者が笑いを取るため、と考えていたとしても被害者は傷ついている」と力を込めた。
「海外の皆さまに評価していただき、救われた」
勇気をもってハラスメントを訴えたことで、五ノ井さんは、米「TIME」誌の「次世代の100人」(2023年版)などに選出された。
訴えの声を上げた後、「誹謗中傷があったり、言われたくない言葉をたくさん言われた。心を引き裂かれるような批判的な声が届いた」と“二次被害”とも言える言葉の暴力を受けたことを伝えた。
一方で、海外メディアが評価したことに触れ、「声を上げたことに対して、私の行動は間違っていたのか、と自問自答することもあったが、海外の皆さまに評価していただき、救われた。直接、海外の方に『君が行動していることは間違っていない』と言われたこともあり、確信を持てた」と語った。
「告発が正しい戦いだとは思っていない」
五ノ井さんの訴えなどを受け、防衛省・自衛隊は22年9月、特別防衛監察の実施を発表。浜田靖一防衛大臣(当時)は「ハラスメントは基本的人権の侵害であり、あってはならないこと」と述べた。省・自衛隊を挙げてのハラスメント対策が今も続いている。
そうした中、過去に受けた性的発言の被害を訴え、国賠訴訟を戦っている現役女性自衛官Aさんもいる。Aさんに対し五ノ井さんは、「戦うということは、命を削っていることと同じ。自分が信じていることをしっかりと貫いて頑張ってほしい」とエールも送った。
「まだまだ声を上げられない人たちや泣き寝入りしている人がたくさんいる。性暴力とハラスメントは同じ。ハラスメントのほうが軽い、ということはない。ハラスメントだって犯罪。(抱きつくなどの行為が)笑いやコミュニケーションを取るつもりであったとしても犯罪は犯罪。決して良いことではない」(五ノ井さん)
「純粋に自衛隊が好き。感謝している」
政府の「女性の活躍推進」の方針を受け、防衛省・自衛隊でも女性隊員・職員の割合を増加させるなど、各種施策に取り組んでいる。防衛大学校女子1期生(1992年入校)の中からは自衛隊階級トップで部隊の最高指揮官の「将官」も誕生している。
そうした女性自衛官のほとんどは「女性だということは(職務に)関係ない」と口をそろえる。しかし、一方で、筆者は以前「おまえたち(女性)はいらないんだよ、と言われたことがあった」と女性自衛官から打ち明けられたことがあった。実力組織・戦闘組織にあって女性を低く見る風潮があることも否めない。
五ノ井さんは会見で複雑な思いも吐露した。
「(部隊にいたころ)訓練では充実した日々を過ごせていたが、宴会があったとき、女性をモノとして扱うような風潮がある。ただ、全部が全部、そういうこと(ハラスメント)が行われているとは思わない。正義感をもってまじめに働いている人たちがほとんどだと思う」
2011年3月に発生した東日本大震災で被災した経験を持つ五ノ井さん。最後にこう言葉に力を込めた。
「東日本大震災で助けられ、入隊した。(訴えを)組織内で解決してほしかった。純粋に自衛隊が好き。感謝しているからこそ、根本的に変わってほしい」
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