「私は変えませんよ」入社1年で解雇された“自己チュー社員”が会社を提訴も「撃沈」した“もっともな”理由
「私は変えませんよ」
自己チュー社員を解雇した事件を解説します(弁護士・林 孝匡)。
その社員(以下「Xさん」)は以下のような発言をしました。
・課長に向かって「課長の資格はない」と言う
・「社長が人さまの前で頭を下げる日は近い! と思うのは私だけなのでしょうか?」と上司に問いかける
・「私は変えませんよ」「みんな生活がだらしない。そこから変えた方がいいんじゃないですか?」と職場ミーティングでブッ込む
Xさんは入社して1年後に解雇されます。Xさんは解雇無効を求めて提訴。
裁判所
「解雇OK! Xさんの態度は非常識だ」(セコム損害保険事件:東京地裁 H19.9.14)
以下、詳しく解説します。
※ 争いを簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています
登場人物
▼ 会社
・損害保険業を営む会社
▼ Xさん(女性)
・コールセンターに配属
どんな事件か
入社して1か月たったころには、すでに周囲とあつれきが生じていました。Xさんの行動を一部抜粋すると以下のとおりです。
・課長に対して「課長を何年やってるのか」「課長の資格はない」と言う
・同僚とも対立する
・上司に対し「社長が人さまの前で頭を下げる日は近い! と思うのは私だけなのでしょうか?」と問いかける
・Xさんが仕事中に不必要なメールを他部署に送信していた。それを上司が発見して「明日から席を移動するように」と指示を出したが、Xさんは書面で断る
・Xさんが社内のメールで「八つ当たり」「中傷ととれるような言動」という言葉を使ったので、上司が「このような表現はやめるよう」と指導・警告をする
・上司と声高な口論を繰り返す
・上司から「協調性をもって業務にあたるよう」指示されたが改善されない
・面談が終わっていないのに自分勝手に席を立つ
・同僚2名が仕事の話していた際、突然Xさんが声を荒げ騒ぎ始める
・同僚2名はXさんに異常を感じており、同僚とXさんとの確執が深まっていた
▼ 離席時間が長すぎる事件
上司がXさんに「勤務中の離席時間が長すぎる」と指摘したところ、Xさんは「私はトイレに行っているだけだ。あなたはトイレに行くなというのか」と話をすり替えました。そして「トイレに行くなといわれた。恐ろしい会社だ!」と騒ぎ、大声で 「不払い事案を隠している。この会社は問題だ」と発言しました。
▼ 私は変えませんよ
入社から約1年たったころの職場ミーティングでのこと。Xさんは「私は変えませんよ」「みんな生活がだらしない。そこから変えた方がいいんじゃないですか?」と発言。
▼ こりゃダメだ
と会社は見切りをつけたのでしょう。Xさんを解雇します。解雇理由は以下のとおりです。
・礼儀と協調性に欠ける言動により職場の秩序が乱れ、他の職員に甚大な悪影響を及ぼした
・良好な人間関係を回復することが回復不能な状態に陥っている
・再三の注意を行ってきたが改善されない
Xさんが「こんな解雇は無効だ」と提訴。
ジャッジ
裁判所
「解雇はOKです。上で挙げたようなXさんの言動は、職場での調和を無視しており周囲の人間関係への配慮に著しく欠けるからです」
ーーー Xさんは「私は変えませんよ」と言っており、自分は正しいんだと主張していますが?
裁判所
「そこですよ。Xさんの思考は【自分の考え方及びそれに基づく物言いが正しければ上司や同僚が改めるべき筋合いのものである】というものです。コレはダメ。会社の組織・体制の一員として円滑かつ柔軟に適応していこうとする考えがない」
「Xさんががこのような態度を入社直後からあからさまにしており、上司からの指導・ 警告および業務指示にもかかわらず会社批判あるいは職場の人間とのあつれきを招く勤務態度からすると、信頼関係は採用当初から成り立っておらず、少なくとも1年経過した時点で、もはや回復困難な程度に破壊されています。よって、解雇は合理的かつ相当なものとして有効!」
ーーー Xさん、不服そうですが。
Xさん
「会社の主張するトラブル局面において、私には非がありませんでした。他の社員に問題があったのです」
裁判所
「まだ言ってるんですか...。どちらが正しいとか悪いとか、そういう話じゃないのよ。アナタの言い分がある程度正論であったり、あるいは会社を良くするためという意思に発したものだとしても、その物の言い方なり行動がダメなのよ。自分の言っていることが正しければ何を言ってもいいの? 違うじゃん。それは社会人としての常識でしょ。アナタの勤務態度は客観的に見て自己中心的で、非常識と評価せざるを得ないレベルにあります」
というわけで、裁判所から、かなりケチョンケチョンにたたきのめされました。
こぼれ話
相当イタイXさんなんですが、Xさんの言い分が正しいでしょと思われる場面もありました。「新人なのに酒飲まねーのかよ」事件です。裁判所は解雇事由としては取り上げなかったんですが、以下のような事実認定がされていました。
Xさんが入社してすぐの新人歓迎会でのことです。Xさんは歓迎会でお酒を断り、1時間ほどで退席したのです。歓迎会での空気がウザかったのでしょう。
すると後日、上司(センター長)はXさんに対し「なぜ飲まないのか? 1年目のときは声をかけられたら芸をやるものだ」といい、芸をやった他の社員を褒めたのです。
するとXさんは反論。「このような視点で社員を評価したり、業務に格差をつけるような事が今後起こるようなら、会社に対し私も相当の考えをもっていこうと考えています。会社の品位の問題だと思いますが、今後、このような会に出席することができなくなりますし、今時このようなことを言うような会社は成長できないのではないでしょうか。社員のメンタルヘルスに力を入れてください」と反論しました。
この点は、Xさんに軍配があがるでしょう。この事件は平成17年だったので、酒席での上司のこのような振る舞いや発言が横行していたのでしょう。でも今では完全にアウトだと思います。録音して法廷に持ち込めばパワハラ認定される可能性が高いと思います。
やる気かコラ!
ひとつ別の暴言裁判例を。社員が取締役に「やる気か、コラ!」と言っちゃった事件です。
→「やる気か、コラ」問題社員の“暴言”に怒りの解雇も…会社側に「750万円」の支払いが命じられたワケ
暴言なのですが裁判所は「これで解雇はダメ〜」と判断。暴言=解雇OK【とはなりません】。暴言に至った経緯や理由などを詳細に検討して解雇がOKかどうかが判断されます。
今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。