“管理職”には「残業代を払わない」… 納得できず会社を訴え “912万円”ゲットの内訳
いわゆる管理職は、残業代をもらえないのか?
この仕打ちに納得できず会社を訴えた管理職の事件を解説します。(弁護士・林 孝匡)
会社
「Xさんは【管理監督者】(労働基準法41条2号)なので残業代を払わなくていいはずです」
裁判所
「いや。この権限じゃ【管理監督者】って言えないわ」
「会社は残業代538万円を払え」
「お仕置きとして374万円も払え(付加金)」
以下、詳しく解説します。(大阪地裁 R5.3.27)
※ 争いを簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています
どんな事件か
登場人物は以下のとおりです。
▼ 会社
・建築現場へ生コンクリートを搬入するなどを行っている会社
▼ Xさん
・【練り】という仕事の責任者
・工場長などに次ぐ地位にあった
・入社約12年目
ーーー【練り】の責任者とは、どのレベルの地位にあったんですか?
Xさん
「組織図を上からザッと説明すると、役員 → 工場部門であり、工場部門には総責任者と【練り】の責任者が置かれていました。総責任者は役員なのですが、【練り】の責任者(私)は役員ではありませんでした」
ーーー 【練り】の責任者のお仕事内容は、どういったものでしたか?
Xさん
「主に顧客からの発注に対する電話対応、生コン運転手への配送指示、生コンの機械操作などです。他の従業員に対しても業務上の指示をしていました」
ーーー 会社さんは、このようなXさんの地位に鑑みて残業代を払わなかったんですね?
会社
「はい。Xさんは【管理監督者】(労働基準法41条2号)にあたるので残業代を支払う必要はありません。その代わりに職務手当を月15万払っていましたよ」
Xさんは納得できずに提訴。
ジャッジ
Xさんの完勝です。
裁判所
「会社は残業代538万円を払え。Xさんは管理監督者じゃない」
「職務手当は残業代とはいえない」
▼ 管理監督者って、何?
Xさんが法律上の【管理監督者】にあたれば残業代の請求はできませんでした。以下の規定があるからです。
労働基準法 第41条
この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
2 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
管理監督者かどうかは以下の3つを考慮して判断されます。
・実質的に経営者と一体的な立場といえるような権限があるか
・自分の裁量で労働時間を管理できるか
・管理監督者にふさわしい収入か
ここで注意が必要なのは、ちまたの管理職=管理監督者【じゃない】ということです。多くの会社は「チミは管理職になったんだから残業代は出ないよ〜」とホザいていますが、間違っているんです。
▼ 今回のケース
今回の事件でも裁判所は上記3つの要素を総合考慮して「Xさんは管理監督者じゃねー」と判断しました。
■ 経営者との一体性の有無
裁判所
「Xさんは経営者と一体的な立場にあったとは認められない」
〈理由〉
・たしかに練りの責任者の地位は、工場長や業務部の長である総責任者に次ぐ地位
・でもXさんは幹部会議に一度も出席したことがない(出席者は会長、社長、専務その他の役員だけ)
・Xさんは労務管理や人事の権限を持っていなかった
会社
「ちょっと待ってください! Xさんは製造部門の中核かつ最も重い責任のある立場にあったんですよ。これは管理監督者であることを基礎づける事実です」
ーーー 「管理職なんだから」みたいな主張ですね。裁判所さん、いかがですか?
裁判所
「シャラップですね。Xさんは会社が出荷する生コンの、質の良し悪しを決定づける、という意味においてその立場が重視されていたにすぎません。また、Xさんが他の従業員に指示を行う立場にあったことをもってXさんが経営者と一体的な立場にあったともいえません」
■ 勤務時間の自由裁量の有無
裁判所
「Xさんが勤務時間に関する裁量を有していたとは認め難い」
〈理由〉
・Xさんの労働時間はタイムカードで管理されていた
・仕事中に中抜けして歯医者にいったことがバレて始末書を提出している
(管理監督者レベルであれば自由に働けるので始末書など提出する必要なし)
■ ふさわしい待遇の有無
裁判所
「Xさんが管理監督者として相応の待遇を得ていたとまでは言い難い。年収700万円近くはそれなりに高額だが、他の従業員と比較しても特に高額であったとは認められない」
というわけで、Xさんは管理監督者じゃないと判断されました。残業代約538万円が認められました。
▼ お仕置き(付加金)
それだけではありません。裁判所は【倍返し】のお仕置きも命じています。裁判所が「残業代の不払いが悪質だなぁ〜」と判断すればお仕置きを命じるんです(付加金・労働基準法114条)。
付加金をいくらにするかは裁判所のサジ加減一つなのですが、今回は最大の倍返しでしたね(一部除斥期間にかかってしまったので約374万円です)。すなわち、裁判所は残業代538万円+付加金374万円=912万円の支払いを命じました。
ーーー 今回はどのような悪質性を基礎に算定したんですか?
裁判所
「労基法違反の程度、対応および労働者の不利益の程度に照らして算定しました」
・・・出た! 伝家の宝刀「諸事情を考慮した結果」。付加金の算定方法はブラックボックスです。
最後に
これは押さえておいてください。管理職=法律上の管理監督者【じゃありません】。多くの管理職は残業代を請求できると思います。
▼ 相談するところ
労働局に申し入れる方法があります(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
関連ニュース
-
「60歳の誕生日に雇用打ち切り」就業規則の変更は無効 控訴審でも原告の女子高教諭ら勝訴
2024年11月27日 18:36
-
19歳飲酒・喫煙で五輪辞退は妥当なのか…一大スポーツイベントを支配するスポンサー“無言の圧”の重み
2024年07月26日 15:33
-
“就職祝い金”の禁止対象拡大検討 「それよりも大丈夫?」知人・友人紹介する“リファラル採用”が違法になるケースも
2024年06月13日 10:38