米軍事故後の「オスプレイ」飛行停止は解除すべき!? 元自衛隊高官が語る「安全性」の“エビデンス”とは
鹿児島県の屋久島沖で11月29日に墜落した米空軍輸送機V-22「オスプレイ」の捜索活動にあたってきた防衛省・自衛隊は12月23日、陸海空3自衛隊を挙げての活動を終了した。
陸上自衛隊にも配備が進む同機は、過去にも事故が報告される一方、従来の輸送機と比べて性能が大きく上回り、活用が期待される。
有事や災害派遣などの際、各都道府県の上空を飛行する可能性もある同機。陸上自衛隊航空部隊出身の元高官(元陸将)、山口昇・国際大学国際関係学研究科教授に同機の安全性などを聞いた。
オスプレイと現在の主力輸送機の“差”
まず、オスプレイとはどのような航空機なのか。
アメリカで2005年に量産が決定、海兵隊と空軍の各部隊へ配備が進む。日本では14年に導入が決まり、現在、陸上自衛隊第1ヘリコプター団(木更津駐屯地)に14機が配備されている。
固定翼機(双発飛行機)と回転翼機(ヘリコプター)を“合体”させたかのようなフォルムが特徴。全長17.5メートル、プロペラを上に向けた時の全高は6.7メートル。
離陸・着陸時は、機体双方にあるナセル(エンジン部、プロペラ装着)を垂直にして上昇・下降し、飛行時はナセルを水平にして飛ぶ。離島など飛行場がない場所でも離着陸が可能で、プロペラ機並みの速度で飛行できる。
性能は現在の主力輸送機CH47を大きく上回る。巡航速度はCH47の約1.7倍(時速約465キロ)、航続距離は約2.5倍(約2600キロ)になる。
ちなみに、オスプレイの名称は“愛称”で、急降下して魚などを取る猛禽(もうきん)類のミサゴを意味する。
オスプレイに万全の安全性が求められる理由
急速に軍事力を増強させ、また沖縄・尖閣諸島の領有権を主張する中国に対抗するため、陸上自衛隊はロシア(旧ソ連)の侵攻を想定し北方の守りを重視していたかつての方針を大きく転換し、守りの比重を南方へシフトさせている。隊員や物資等を運ぶ輸送機は、その守りの成否の帰すうをも左右しかねない。
災害が発生した際も、救助活動などのため、オスプレイが各都道府県、自治体、居住地の上空を飛行する可能性があり、その安全性は看過できない。
オスプレイは、これまでも事故が報告されているが、果たしてその飛行は安全なのか。
米軍事故の原因は製造過程か
今回の米空軍オスプレイの墜落事故について、米軍が事故の数日後には空軍と海兵隊が保有する約500機全てを飛行停止にしていることを受け、山口教授は「パイロットのミスや部隊の整備のミスではないことは明らか。オスプレイを止める(飛行停止にする)ことは、海兵隊にとっては航空輸送力の半分がなくなること。空軍の特殊部隊もおそらく80%以上が、オスプレイに頼っている。確証がないと(飛行停止は)できない」と、ハードウェアかソフトウェアいずれかの製造過程レベルに原因があることを示唆する。
一方、山口教授はオスプレイが安全な航空機であることも強調する。
アメリカでは開発・試験段階や運用の初期段階で墜落事故が起きたが、現在は安定しているという。
「重大な事故が起きる確率は(米軍の)ほかの飛行機と比べても平均して低い。10万時間あたりの重大事故の件数は米海兵隊で2件、空軍は6件。とても高い、ということはない。より安全な航空機だと言える」(山口教授)。
空軍が海兵隊の3倍と件数が多いのは、海兵隊が輸送機として用いているのに対し、空軍は特殊部隊の潜入等を目的に用い、夜間に低空で木の間を這(は)うような飛行を行っているからである。
「速やかに回復させてほしい」
オスプレイは、有事の際のほかに、災害派遣や急患空輸での活用も期待される。鹿児島県や沖縄県などの離島で重病患者が出た場合、県本土でより高度な医療を受ける必要があるが、その急患空輸は自衛隊も担っている。
「とにかくスピードが速く滑走路がないところでも着陸、離陸できる。独特の能力を持っている」(山口教授)というオスプレイは、迅速に離島へ飛び、学校のグラウンドなどからでも患者を搬送することができる。
山口教授は事故について、「目撃者の証言や管制官とのやり取り、どういう航跡で入り墜落したかなど日本側が持っている情報は多い。全面的に協力してほしい」と語り、こう言葉に力を込める。
「飛行停止が続けば防衛に穴があく。安全かつ速やかに回復させてほしい」
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