スキー・スノボで滑降中に「人と衝突」逃げたら傷害罪の可能性も… 事故発生時に最優先で“すべき行動”は?

弁護士JP編集部

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スキー・スノボで滑降中に「人と衝突」逃げたら傷害罪の可能性も… 事故発生時に最優先で“すべき行動”は?
「その場から逃げないこと」が結果的に自分を守ることに…(yukiotoko / PIXTA)

冬のレジャーの代表格である「スノースポーツ」がシーズンを迎えている。

1998年に1800万人いたスキーやスノーボード(スノボ)の競技人口は大きく減少し、いまや280万人とも推測される。その一方で、観光庁の集計によれば、スキーやスノボを楽しむ外国人観光客の数はコロナ禍前まで拡大してきた(2018年は約96万人)。

新型コロナが5類感染症に移行され、初めてのシーズンとなる今冬。訪日客数は10月の時点ですでにコロナ禍前の水準を取り戻している。全国のゲレンデは、国内の根強いスノースポーツ愛好者だけでなく、外国人観光客も多く訪れ盛り上がりを見せているのではないだろうか。

しかしそんなスノースポーツをめぐっては、スキーヤーやスノーボーダー同士の接触や遭難といった“事故”の報道など、その“リスク”を見聞きする機会もあるだろう。

1か月の受傷者2885人

スノースポーツの普及と安全性向上を目的とした「全国スキー安全対策協議会」が全国46スキー場を調べたところ、2023年2月(1か月間)の事故による受傷者は2885人に上ったという。さらに、そのうち14.7%となる421人は、「人との衝突」が原因で受傷していたこともわかった。

赤のグラフが「人との衝突」割合(全国スキー安全対策協議会「2022/2023シーズンスキー場傷害報告書」より)

また、受傷者に対する聞き取りからは、傷害保険や賠償責任保険に「加入していない/加入しているかわからない」と答えた人がそれぞれ7割以上いたことも明らかになった。

事故の考え方「交通事故と同じ」

このように、スキー・スノボには、事故やケガのリスクはつきものとなっている。もし滑降中に他の人と接触してケガを負わせてしまったらどうなるのか…。

自身もスノボを趣味にする河合淳志弁護士によれば、事故が起きた際の対応や考え方は基本的には「交通事故と同じ」だという。

「まず、相手が怪我を負っていたら救護するのは当然です。警察への報告義務まではありませんが、基本的にはスキー場の管理人には事故が起きたことを伝えるべきでしょう」(河合弁護士)

そして、相手にケガを負わせてしまった場合は、治療費用などを含めた損害賠償金を支払わなければならないケースもある。この賠償金が「過失割合(※事故の当事者それぞれが負う責任の割合)」によって算出されるところも、交通事故と重なる部分だ。

過失割合は、お互いの技量、ゲレンデの混雑状況、当日の天候など事故時の状況によって総合的に判断されるが、「基本的には、過去に最高裁が出した『上から滑ってくる人の方が、下にいる人より過失割合が高い』という判決をベースに考えていくことになります」(河合弁護士)。

ただ過失割合の算出のされ方は交通事故ほど定型化されておらず、個別の事案によって変わるという。ゲレンデで事故が発生した際、当事者同士の話し合いや、相手側の保険会社からの提案に納得がいかない場合などのために、弁護士への相談も検討したい。

なお、万が一の事故に備え、ゲレンデに行く前に保険への加入はすませておくべきと河合弁護士は説明する。

「保険のデメリットは基本的に“保険料”だけです。それに火災保険や自動車保険の特約で入れば、保険料も高くなく、デメリットはほぼないと言ってもいいと思います。特に賠償責任保険は事故を起こしてしまった場合に、相手に賠償・補償ができますので、加入しておくことをおすすめします」

事故が起きたら“まず”すべきこと

その上で河合弁護士は、もし事故が起きてしまった場合、被害者・加害者問わず、現場の状況を撮影しておくことや、お互いに事故状況を確認しておくことが何より大切になるという。

「ケガの具合や衝突時の状況・体勢などきちんとその場で確認しておきましょう。また、現場の写真をスマホなどで撮影しておくと無難です。被害の状況を証拠として残しておけば、後になって『ここも痛くなってきた』『ボードにも傷がついていた』などいわれのない請求をされる等のトラブルを未然に防ぐことが可能です」(河合弁護士)

「当て逃げ」で“傷害罪”に問われる可能性も

ちなみに前出の「全国スキー安全対策協議会」の調査結果では、「人との衝突」によって受傷した人のうち、「相手の確認」の有無を回答した130件中41件が衝突の相手を「不明」と回答。このことから、衝突事故のうち3割程度が、交通事故で言う「当て逃げ」状態となっていることがわかる。

衝突の相手を問う調査票(全国スキー安全対策協議会「2022/2023シーズンスキー場傷害報告書」より ※赤枠は編集部)

河合弁護士はこうした当て逃げ事故が起きている現状に、「(事故の当事者は)絶対にその場から逃げるべきではない」とそのリスクを説明する。

「これも交通事故と同じで、『当て逃げ』や『飲酒』など悪質性が高い事案は、慰謝料つまり賠償金が高額になる可能性が考えられます。

さらに当て逃げの場合、相手の怪我の重大さによっては当然、刑事事件化することも考えられます。もちろん誠意をもって対応しても、ケガが重い場合には過失致傷や重過失致傷といった罪に問われることは考えられますが、『当て逃げ』のように悪質性が高い場合には、傷害事件として捜査される可能性も十分にあると思います」

加害者になったとしても「その場から逃げないこと」が、“自分へのダメージ”も減らす最善の方法のようだ。

「人が多い所ではスピードを出しすぎないとか、他人に注意して走行するのは当然のこと。車の運転と同様に仮想して、モラルに従った上で、スノースポーツを楽しんでほしいと思います」(河合弁護士)

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