「国の責任」は認められず慰謝料の金額は“4割以下”に減額… 「福島県原発被害」東京訴訟の高裁判決が出される

弁護士JP編集部

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「国の責任」は認められず慰謝料の金額は“4割以下”に減額… 「福島県原発被害」東京訴訟の高裁判決が出される
東京高等裁判所(弁護士JP編集部)

12月26日、東京高裁は、原発事故により福島県内から東京都内に避難した原告らによる「福島原発被害東京1陣訴訟」について「国の責任を認めない」とする判決を出した。

全国各地で行われている福島原発事故訴訟

本訴訟は、2011年(平成23年)3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故の被害者が、東京電力株式会社(現東京電力ホールディングス株式会社)と国の責任を求めて提起された。同様の訴訟は全国各地で提起されているが、とくに福島県内から東京都内への避難を行った原告ら17世帯48名への損害賠償を求めたもの(現在は原告が1名死亡して47名)。

2013年(平成25年)3月11日に東京地裁に提起され、2018(平成30)年3月16日に、国の責任を認めたうえで国と東京電力の双方に対して総額5923万9092円の損害賠償を支払うよう命じる一審判決を言い渡した。

しかし、今回の高裁判決では、一審では認められていた国の責任が認められず。東京電力に対して支払いを命じられた損害賠償の金額も総額2346万7532円と、一審で認められていた金額の約4割にまで減額された。

2022年(令和4年)6月17日には、4件の集団訴訟(生業訴訟、群馬訴訟、千葉訴訟、愛媛訴訟)において、福島原発事故に関する国の責任を認めないとする最高裁判決が出されている。その後、2023年(令和5年)3月10日の仙台高裁判決(いわき市民訴訟)や同年12月22日の東京高裁判決(福島原発千葉訴訟)でも国の責任は認められなかった。今回の判決も、令和4年の最高裁判決に倣ったものとなる。

具体的には、防潮堤などによって原子炉施設の津波対策を行うことは当時の知見としては合理的であったこと、マグニチュード9.1という東北地方太平洋沖地震の規模は当時としても想定外であり防潮堤などで防ぐことは困難であったこと、原告らが主張するような「原子炉施設を防護するための水密化の措置」や「電源設備の高所設置等の防護措置」は当時には一般的に行われていなかったことから、国が電気事業法に基づく規制権限を行使して事故予防のための措置を東電に義務付けていたとしても福島原発事故を防げる可能性は低かったという点が、国の責任が認められない理由とされている。

判決文は「コピーアンドペースト」であると原告側弁護士は批判

判決後に行われた記者会見では、福島原発被害首都圏弁護団の共同代表である中川素充弁護士は、東京高裁の判決分は最高裁判決の「コピーアンドペースト」したものになっている、と主張した。

そもそも今回の東京1陣訴訟を含めた各地の集団訴訟は、原発事故当時に指定された「避難指示区域」の区域外に在住していたが自主的に避難を行った原告ら(いわゆる「自主避難者」または「区域外避難者」)が、「放射線被ばくによる健康への侵害の危険性を考慮すると避難は合理的であった」としたうえで、避難に伴う精神的苦痛に対する損害賠償(慰謝料)を国と東京電力に求めたもの。背景には、避難指示区域内に在住していた避難者(いわゆる「強制避難者」)と異なり、自主避難者に対しては損害賠償や公的支援がわずかであったという問題がある。

今回の判決では第一審に引き続き「放射線被ばくによる健康への侵害の危険性」や「避難の合理性」は肯定されており、自主避難者の「平穏生活権」が侵害されたことも認められている。しかし、原告一人当たりの慰謝料の金額は一審の半額以下となった。損害賠償を請求する根拠は変わらないのに減額されていること、また減額の理由も判決では示されていないことから、会見で中川弁護士は「中身のない判決だ」と強く批判した。

会見にて弁護団が配布した資料「福島原発被害東京1陣訴訟東京高裁判決をうけて」でも「福島第一原発事故について国の責任を免責する本判決は、2022年6月17日の最高裁判決の多数意見の結論のみに漫然と従い、国策に追随する硬直的な判断にほかならない。このような判断がなされることは、司法に対する国民の信頼は決定的に失わせるものであり、行政の誤りを司法判断でただすことを規定した日本国憲法が定めている三権分立を切り崩すものでもある。[原文ママ]」と主張されている。

「避難者いじめ」の被害者であった原告は、国の責任を涙ながらに訴えた(手前から原告の鴨下全生(まつき)さん、鴨下裕也さん、中川素充弁護士12月26日/弁護士JP編集部)

「放射性物質は区域内に残っている」「避難者いじめは国の責任」原告の訴え

福島県いわき市から東京に避難してきた原告団長の鴨下祐也さん(工学博士)は、判決では被ばくの影響が認められたことは「前進だ」と肯定したうえで、そのことが損害の評価にはつながっていないと批判した。また、「いまでも放射性物質が区域外に残っている」「どこの原告の生活環境をとっても放射線管理区域に相当している」「(放射性物質を扱う)自分の研究室よりも汚いことになっている環境で生活するのがいかに異常か」といった自分たちの訴えが裁判所に伝わらなかったと落胆を示した。

判決は国の責任を認めないことで「原発安全神話」を肯定しているだけでなく、「被ばくは安全であるかのような論調」も否定していない、と鴨下さんは訴える。「判決で被ばくの危険性を認めてほしかった。わたしたちはそれが明確であると訴えてきたにもかかわらず、そこに言及されなかった」「避難指示地域の外にも汚染被害があるにもかかわらず、賠償金を減額して被害を小さく見せるような判決が出たことは本当に残念である。私たちの被害はそんなものではない、とこれからも訴えていきたい」。

また、祐也さんの息子であり原告の一員である鴨下全生(まつき)さん(大学生)も会見に参加した。事故当時小学2年生であり、避難先の小学校でいじめにあった経験を持つ全生さんは、涙ながらに判決を批判した。

「本当に信じられない。原発は国策で動いていたものであり、国の関与がなければ原発は成り立つわけがない。なのに、その原発を動かしていた責任が国に全くないと司法が言い切る。いじめについても、国が区域外避難者のことを否定する発信をしていなければ、こんなに避難者いじめで苦しむことはなかったはずだ。それに対して、国に責任は全くないと司法は言い切った。わたしたちはどこに対してこの被害を訴えればいいのか。本当に理解ができない」。

全生さんのように避難生活や避難者いじめが原因でPTSDなどを発症した区域外避難者については、控訴審では慰謝料の金額が10万円から20万円上乗せされている。しかし、実際の被害の程度に比べるとあまりに過小評価されている、と中川弁護士は批判する。また、全生さんを含む原告の一部は控訴審での本人尋問を申し出たが、裁判所は拒否。「一審とは異なり控訴審は被害者の生の声を聴かなかった。しかし、損害論においては被害者の声は最善である。被害者のことを本当に理解しようとしていたなら、慰謝料の金額を一審よりも下げることはしなかったのではないか」と中川弁護士は主張する。

全生さんは「国にとって有利な判決を書くためにはわたしの証言がないほうがいい、と司法が判断したのではないかと、疑ってしまう。せめてわたしの声は残してほしかった」と語った。

最高裁への上告を行うか否かは、27日以降、原告団と弁護団が協議したうえで判断される。会見では、中川弁護士も祐也さんも上告する意気込みを見せていた。

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