「認知症」発症で“自分の銀行口座”がブロックのまさか… 「頼れる家族」なければ“最期”までお金を引き出せない絶望
国立社会保障・人口問題研究所が公表した将来推計によれば、2025年、総人口に占める1人暮らしの割合は16%となり、「6人に1人が1人暮らし」となる。人生100年時代と言われて久しいが、家族がいても死別や子どもの独立などで、誰しもが「おひとりさま」になり得る時代でもある。しかし、自分や自分の親だけは「ボケない、死なない」と思っている人も多いのではないだろうか。
この連載では、そんな「おひとりさま」生活に備えて、体の自由がきくうち、頭がはっきりしている間に…まさに“今”から準備しておくべきことについて司法書士の太田垣章子氏が解説する。第1回は、自分や親が倒れた後に「貯めていたお金はどうなるのか」紹介する。(全5回)
※ この記事は太田垣章子さんの書籍『あなたが独りで倒れて困ること30』(ポプラ社)より一部抜粋・構成しています。
多くの人が想定する「ほぼあり得ない将来」
一生懸命にお金を貯めて来て、そのお金が自由に使えなくなるだなんて、考えたこともないと思います。誰だって、今の元気な自分を基準に考えますよね?
でもちょっと待って。
死ぬ寸前まで、自分の足で銀行に行けるとか、頭がはっきりしている人なんて、そんな方がもしいらっしゃるなら私がお会いしてみたい! 多くの方々が、判断能力が鈍ってきたり、自分では銀行に行けなくなってしまいます。
そう、それが当たり前の世界なのです。でも多くの方々は、その「ほぼあり得ない」将来を想定して生きています。
以前は親の預金口座から子どもが代わりに預金を引き出したりもできましたが、今や本当に厳しくなってしまったのが「本人の意思の有無」で、これがとても重要視されるのです。
それはそれで勝手に使われないというメリットもある反面、親族であっても、自由に預金の出し入れができなくなってしまいました。
そうなると、どうなるのでしょうか。
“親のため”でもダメなんですか?
金融機関は名義人が認知症になったと分かった段階で、口座をブロックしてしまいます。つまりその口座のお金は、もう使えなくなるのです。
「親が施設に入ることになって、そのお金を親の口座から使いたいんです。だって親のために使うのですから!自分たちが勝手に遊ぶお金じゃありません。それでもダメなんですか?」
そんな状況に置かれて、困ったご家族の口から、半ば憤りにも似た、そしてすがるような思いがこぼれます。
でもダメなんです……。
ご本人の意思が確認できなければ、お亡くなりになるまでご家族がその費用を立て替えるか、法定後見制度(※)を利用するしかなくなってしまいます。それなのに未だに自分は「ボケない、死なない」と備えることを先延ばしにしている人が後を絶ちません。
※家庭裁判所によって、成年後見人等が選ばれる制度。欠格事由がなければ家族も成年後見人になれる。
子育てと違い、ゴールがいつか分からないのが、この問題の難しいところ。だからこそ、自分のお金を、自分のために、きちんと使えるようにしておく必要があるのです。
「代理人指定制度」のメリットとデメリット
ここでひとつ、簡単にできる方法をお伝えしましょう。
それが「代理人指定制度」です。各金融機関で呼び方は違うでしょうが、自身の口座に関して代理人を決めておくことができるという制度です。
この代理人を決めておけば、自分で銀行に行けなくなった等の場合には、予め決めておいた代理人が本人の口座から出金をすることができます。
ただこの制度、残念ながら、万能ではありません。
通常、指定できる代理人は、2親等や3親等内の親族に限られます。そうなると「頼れる家族がいる」ことが前提になってしまうのです。2親等といえば親子や夫婦、兄弟の間なので、甥っ子、姪っ子を頼ることもできません。当然にして「頼れる家族」がいなければ、この手続きさえも利用できないのです。
さらに利用できたとしても、出金額が多かったり、長期になると、金融機関側から正式な「成年後見制度」を利用するよう促されることもあります。短期間なら良いのでしょうが、何年もとなると、延々と口座からお金が引き出されることに金融機関も不安を感じるのでしょう。
こうなるとせっかく節約して貯めたお金も、自分の最期まで自分の思うように使えない、ということになってしまいます。
ぴんぴんころりなら、上等です。でも確率的には、宝くじに当選するくらいのレベルです。
そうならなかったとしても、自分のお金を自分のために使えるように備えることが必要です。せっかく貯めたお金は、相続人を豊かにするためではなく、ご自身のために有意義に使いましょう。
◎まとめ◎
自分の貯めたお金は最期まで自分のために使えるようにしておきましょう!
(#2に続く)
■太田垣章子(おおたがき・あやこ)プロフィール
OAG司法書士法人代表司法書士。専業主婦であった30歳のときに、乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。常に現場へ足を運び、滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。住まいという観点から、「人生100年時代における家族に頼らないおひとりさまの終活」支援にも活動の場を広げている。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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