「女性の再婚禁止期間消滅」「医療用大麻利用の解禁」…2024年に改正される“日常生活に関わる”法律の中身とは
2024年にも多くの法改正の施行が控える。法律が変わることで、生活がより快適になるケースもあれば、知らないと不利益を被ることもあり得る。そこで、今年予定されている法改正から、直接日常生活に影響がおよびそうなものを軸にピックアップ。それぞれの分野のポイントについて、弁護士の解説なども交えて見ていく。
120年を経て時代にフィットする形へ
<嫡出推定制度改正>
そもそも「嫡出推定制度」といってもピンと来る人は少ないかもしれない。嫡出とは、「婚姻関係にある男女から生まれること」をいう。これを推定するというのは、嫡出において、子は夫の子、より具体的には、婚姻成立から200日を経過した後または婚姻の解消もしくは取り消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定するということ(民法772条)。この規定を含む仕組みが、嫡出推定制度だ。
この制度が120年ぶりに改正される。なぜか。離婚問題に詳しい安達里美弁護士が解説する。
「最初に理解しておくべきは、民法の原型ができたのが明治時代で、そのころは親子関係をDNA鑑定などの科学的な方法で証明することは不可能だったこと。母親は『分娩』という行為で『この子の母は自分』と証明できましたが、『父が誰か』を証明するのは不可能といってよかった。しかし、夫が妻に対し、『俺の子だと証明するまでは、俺の子(嫡出子)として認めない』ことを許す法律の建て付けにしてしまうと子の父がなかなか確定しないことも想定できます。そこで、子の利益の観点から民法772条に定めた条件に該当する場合は『嫡出子であると法律が推定する』ことにしたのです」。
ところが、時代が変わり、考え方も変わり、この制度では問題が生じるケースも出始める。そこで、より現実に即した内容に改正されたのが新しい嫡出推定制度ということになる。
・夫と別居生活を始めた後、夫と離婚についての協議をしている間に新しいパートナーとの子を妊娠した場合に、離婚後、子の遺伝上の父である新しいパートナーと再婚
→その子が夫との離婚前に出生した場合は当然に「夫の子」として戸籍に記載され、前夫との離婚後に出生しても離婚成立から300日以内の出生であれば、前記した現行民法772条2項の規定により、「出生した子は前夫の子と推定」され、出生届を出せば「戸籍には前夫の子として記載」されることになる
「上記事例の場合、前夫の目線から見れば、『自分の子ではない子が自分の子として戸籍に載る』ことになります。これにより様々な問題が生じること等を懸念して出生届を出さないという選択をされる方もいます。その結果、その子は『無戸籍』という形に。子の無戸籍問題の理由がすべて嫡出推定制度にあるわけではありませんが、この問題を少しでも解消するため、民法が改正されることになったのです」(安達弁護士)。
この改正によって例えば、内縁状態で妊娠が発覚し、なんらかの事情で入籍が遅れたため、入籍して50日で子どもが生まれてしまった場合、現行民法では「夫」が「子の父である」との推定がおよばないが、改正後は、婚姻後に生まれていれば200日経過していなくても嫡出推定されることになる。
また、先ほどの事例にもあったように離婚等により前夫との婚姻を解消した日から300日以内に出生した子については現行民法では前夫の子と推定されていたが、改正後は既に新しいパートナーと再婚していれば再婚後の夫の子と推定されるようになる。
「現行民法では、女性に『再婚禁止期間』が定められており(民法733条)、女性は離婚して100日は再婚できませんでした。しかし、この規定も今回の改正で廃止されるので、離婚してすぐに再婚が可能になります。そうすると前夫との離婚が、子の出生よりも300日以内であっても子の出生時までに新しいパートナーと再婚していれば、この再婚相手の子と推定され、これまでよりも事実に合致した嫡出推定が可能となります」(安達弁護士)。
この改正法は、令和6年4月1日から施行となり、以後に出生した子に適用される。ただし、経過措置もあり、安達弁護士は、「施行日前に生まれた子やその母も施行日から1年間に限り、嫡出否認の訴えを提起することが可能です。現在、無戸籍の方、無戸籍の子をお持ちの方はここでの提訴を検討すべきですから、至急、弁護士に相談されることを強くお勧めします」と助言した。
「任意」から「義務」へ
<改正不動産登記法>
これまでは任意だったものが、「義務化」されるという点で要注意なのが、不動産登記の義務化だ。改正不動産登記法として4月1日から施行される。
「どこが身近なんだ」と思われるかもしれない…。無理もない。関係してくるのは、不動産を所有する被相続人が亡くなった時だからだ。不動産を相続する場合、相続人はその不動産を管轄の法務局で相続登記を申請し、名義を相続人名義に変更する必要がある。
この手続きがこれまでは任意だった。ところが、「お任せ」をいいことに、手続きをしない相続人が増大。結果的に、登記簿等による所有者の調査でも不明の「所有者不明土地」が増え、国交省の調査では日本の国土のほぼ4分の一の24%と推定されるまでになってしまった。
そこで、国としてもこうした状況では環境や治安の悪化を招き、放置できない。きちんと管理するためにも相続登記を任意でなく義務化しようとなり、法改正に至った。
少なくない登記の放置リスク
相続人にしてみれば、「面倒な事務処理が増えた」と思うかもしれない。だが、放置するリスクは少なくない。そのひとつが相続登記の複雑化だ。自分の代で相続登記を怠れば、その子どもの数だけネズミ算式に相続人が増殖する。次の代、さらにその次の代にまで手を煩わせないためにも、自分の代できちんと処理しておく。それが、相続人としての務めであり、円滑な相続には重要なのだ。
そもそも登記をしていなければ、不動産の売却も担保としての提供もできない。義務化によって、従わなければペナルティも発生する。期限は不動産の相続を知ってから3年以内。その間に相続登記を申請しなければ、10万円以下の過料が科せられる。
手続きは煩雑。そのうえ費用もかかり、面倒だが、基本的に例外はない。とはいえ、期間に関する救済策等はあるので、できるだけ早めに動く、専門家に相談するなど、打てる手は打っておいた方が賢明だ。
背景には低賃金・人手不足
<物流業の時間外労働規制>
物流業・建設業・医師の時間外労働規制は、間接的に消費者にのしかかる法改正という点で、注視しておく必要がある。物流業界では”2024年問題”として、不安視されている。
なにが問題か。具体的には、ドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されるなどだ。その結果、一人当たりの走行距離が短くなり、長距離でモノが運べなくなること等が懸念されている。
背景には働き方改革法案による長時間労働改善の”圧力”がある。
労働問題に詳しい向井蘭弁護士が明かす。「ズバリ言うと、値上げ・人員増加をしなければいわゆる『物流の2024年問題』の解決は厳しい。荷主の協力も不可欠です。個別の下請け企業の交渉力には限界があります。こうした状況が広く浸透するような世の中の流れを待つしかないでしょう」。
状況はそこまで厳しく、最悪、消費者にも、配送料値上げや遅配などの形で影響が及ぶ可能性は十分にある。
向井弁護士は、解決策の一つとして、所定労働時間と時間外労働を区別せず、総労働時間に対し、出来高給を支払う”オール歩合”を提言している。
反発も多いが、外国人ドライバー活用案なども浮上している。
ライドシェア解禁
輸送・運送関連では、法改正こそ伴わないものの、4月にライドシェアの解禁が予定されている。輸送・物流業界が労働時間を延ばさざる得ない根源には、人手不足がある。そこで少しでも担い手を増やすべく、一般ドライバーが自家用車を使って有料で客を運ぶ「ライドシェア」を解禁しようというわけだ。
ただし、タクシーが不足する地域や時間帯に限り、タクシー会社が運行を管理するなどの条件がある。タクシー会社の配車アプリのデータを活用し、不足地域や時期、時間帯を明確にし、地方だけでなく、都市部でも早朝や深夜に利用可能となる見込みだが、かなり限定的でもあり、その有効性を疑問視する声もあがっている。
柱は医療用大麻利用の解禁
<改正大麻取締法>
大麻取締法も変わる。大麻草原料の医薬品での利用、大麻草の栽培を医薬品などの原料を採取目的でも認められるようになる。所持法は廃止、かわって使用罪が導入され、7年以下の懲役刑も規定される。
改正の趣旨は、「大麻草の医療や産業における適正な利用を図るとともに、その濫用による保健衛生上の危害の発生を防止するため」とされている。濫用については、22年における大麻関連の検挙人数の約7割が30歳未満という実状がある。
現行法では大麻の所持や栽培の禁止にとどまり、使用を罰する規定はなかったが、主にこうした若年層の濫用対策の色合いも濃いとみられる。
大麻に関しては、アジアではタイが2018年に医療用途の大麻使用を解禁。2022年6月には一部大麻製品の個人使用なども合法化したが、薬物問題が拡大。いまではタイ政府も合法化見直しを検討する事態となっている。
現地のメディア関係者は、「医療用途だとしても、”抜け穴”ができれば、入手ルートが広がることになり、薬物の常習性と相まって歯止めが利かなくなる。それを証明しているのがいまのタイの実状」と明かす。プラス要素があるものの、”部分合法化”には、厳重な取り締まりが不可欠なのはいうまでもない。
<健康保険証とマイナンバーカード一体化>
健康保険証は廃止へ
身近といえば、健康保険証の廃止だろう。12月に廃止され、マイナンバーカードへ一体化した形に切り替えられる。便利になる以前に、「いつの間に…」と感じている人もいるかもしれない。
議論は昨年夏から行われ、法改正によりマイナンバーカードの利用範囲が拡大されたことで、可能になった。とはいえ、そもそも「まだマイナンバーカードを保有していない」という人も27%(23年12月末時点:総務省)いる。そうした人には、「資格確認書」が提供され、健康保険証廃止後、最長1年間は有効とする経過措置も設けられる予定だ。
法律は不変でなく、時代や環境の変化に合わせて変わっていく。だからこそ法改正を通じ、世の中の変化を感じ取るというスタンスも、より豊かに社会生活を営むならば、不可欠といえる。年初めのいまから少しでも意識しておけば、プラスこそあれ、マイナスになることはないはずだ。
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