アメリカ極悪刑務所で「自由感じた」…日本人元受刑者が語る日米刑務所の“違い”

弁護士JP編集部

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アメリカ極悪刑務所で「自由感じた」…日本人元受刑者が語る日米刑務所の“違い”
日本の刑務所にはない、看守のフレンドリーさや、自由さがあったという(Andrea Izzotti / PIXTA)

映画「HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~」や連載中の漫画「チカーノKEI〜米国極悪刑務所を生き抜いた日本人〜」などで知られるKEIさん。

現在はボランティア活動や、ファッションなどのプロデュースを手がけているが、かつては「ヤクザ」として悪の道を突き進んでいた。

その結果、KEIさんは覚醒剤密売の容疑によってFBIのおとり捜査で逮捕され、アメリカの刑務所の中でも凶悪犯罪者が集まる「レベル4」や、終身刑を受けた囚人だらけの「レベル5」の刑務所で計10年以上収監されることになった。

本記事では、KEIさんが実体験したアメリカ極悪刑務所内の文化や出来事などを紹介。連載第1回目は、KEIさんが実感した、「日本とアメリカでの刑務所の違い」について、取り上げる(全5回)。

(#2に続く)

※この記事はKEIさんの書籍『アメリカ極悪刑務所を生き抜いた日本人 改訂版』(東京キララ社)より一部抜粋・構成。

日本の刑務所に比べて、自由を感じた

刑務所に向かうバスのなか、自分は「いよいよ刑務所に入るのか」ってウキウキしていた。それまでの拘置所はビルのなかにあって、空を拝むこともできなかったから。

レベル4の刑務所だが、開放感があったという(提供:書籍『アメリカ極悪刑務所を生き抜いた日本人 改訂版』より )

トミノアイランドは名前通り、四方を海に囲まれていた。刑務所のなかは開放感があって自由な雰囲気に溢れている。野球場にサッカー場、新作映画が見られる映画館、スーパーマーケットとレジャー施設なども充実していた。

日本の刑務所との一番の違いは、お巡りがフレンドリーだということ。日本では、看守は懲役を奴隷扱いだが、ここではフラットな関係だった。こっちが作業なんかしてると、親しげに「よう! KEI」なんて話しかけてくる。

日本の刑務所は規則でがんじがらめにされ、部屋のなかで寝返りひとつ自由にできない。名前も呼ばれず番号で点呼され、思想や宗教の自由も許されない。まるでロボットのように管理される。

アメリカの刑務所で同じことをしたら、大暴動が起こって、とんでもないことになるだろう。アメリカでは、各個人が信仰する宗教が定めた休みの日は、刑務所内の作業も休んでいい。こういったルール作りをしないと、人種も宗教もバラバラな犯罪者たちをコントロールできないからだ。

アメリカの刑務所の自由を肌で知った自分は、トミノアイランドを本当に気に入った。入所してすぐに野球チームに入ったが、それだけでは飽き足らず、自分のチームまで発足させた。拘置所と違って青い大きな空が頭上に広がっている。西海岸の風を受けてグラウンドで思い切り野球をしてるときなんて、「もう、一生ここにいてもいいや」って考えたりもした。

刑務所から渡されるIDカードで買い物も自由にできた。買い物の際、IDカードのバーコードをかざすとそこにプールされている金から引き落とされる。自分は、日本に残してきた女や舎弟に金を入れてもらって、好きに買い物していた。

KEIさんが使用していたIDカード(提供:書籍『アメリカ極悪刑務所を生き抜いた日本人 改訂版』より)

コーラやサンドイッチ、チョコレートにアイスクリームなど様々な自動販売機があって、それもIDカードで買うことができた。なぜアメリカの刑務所でIDカードを使うかというと、元々、囚人も現金でやり取りしていたんだけど、それだと金を奪い合ったりとトラブルが絶えないからだ。だから、刑務所で働いた給料もこのIDカードにプールされる。

“だらしない”日本人受刑者の破滅を目撃

アメリカの刑務所は自由に生きていける反面、危険とも常に隣合わせだ。喧嘩や暴動が危険なのはもちろんだが、それ以外にも、いくつもの破滅への落とし穴が潜んでいる。その最たるモノがギャンブルだ。

刑務所ではもちろんギャンブルはご法度だが、はいそうですか、と律儀に守る人間なんかいない。皆、気が遠くなるような懲役期間をしのぐ最高の遊びとして、賭け事に熱狂している。

自分がトミノアイランドにいたとき、フルカワって名前の日系人が新たな懲役として入ってきた。プリズンには世界中の人種、国籍の囚人が存在したが、日本人はめったに来ない。必然的に自分が世話することになった。

ところがこいつがだらしないヤツで、入所してすぐにギャンブルにハマった。トミノアイランドでの賭け事は、現金の代わりに「ベネジェリーアイス」がチップとして使われていた。日本でも「ベン & ジェリー」ってブランド名で売られてる高級アイスだ。

当時280円ほどだったこのアイスを、フルカワは1万個分も負けた。つまり280万円だ。アイス1個の負けから熱くなり、気が付けば払い切れない金額の負債を背負っていた。

フルカワに300万円近い借金を背負わせたギャングたちは、「支払えないんなら見せしめに殺そうか」って勢いだった。連中にしても、これだけの金額を踏み倒されたらメンツが立たないし、他の囚人たちからもナメられて借金を踏み倒されることになる。フルカワを殺す以外、解決方法はなかった。

「助けてください。何とかお金を工面してください!」

殺されると分かったフルカワは、半狂乱になって自分にすがりついてきた。自分はまずPCと呼ばれる保護対象囚人としてフルカワを独居房に入れてもらうよう、お巡りに掛け合った。次に日本に連絡を取り、舎弟たちに280万円を用意させ、博打の胴元のギャングに支払った。赤の他人のために用立てるには高い金だったが、同じ日本人が殺される姿を見るよりはマシだった。

これで殺される心配はなくなったフルカワだが、自分はあとでやっかいなことを知った。一度でもPCとしてお巡りに保護を求めた囚人は、そのあとどこの刑務所に移送されても、「こいつはPCだ!」と知れ渡ってしまうという。

こうなったら、もうアメリカの刑務所ではまともに生きていけない。お巡りに守ってもらった「オカマ野郎」として、強制的に荒くれ囚人たちのホモ売春婦にさせられる。個人の意志なんて関係ない。どんなに嫌がろうが、代わる代わる尻の穴を貸すハメになるのだ。

独居房から出て他の刑務所に移送されたフルカワだが、それからどうなったかは知らない。無事に懲役を終えた可能性は限りなくゼロに近いだろう。

(第2回目に続く)

  • この記事は、書籍発刊時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
書籍画像

アメリカ極悪刑務所を生き抜いた日本人 改訂版

KEI
東京キララ社

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