独居高齢者宅のゴミ屋敷化が加速する明快なワケ “断捨離”“終の住処”選びの「タイムリミット」とは?
国立社会保障・人口問題研究所が公表した将来推計によれば、2025年、総人口に占める1人暮らしの割合は16%となり、「6人に1人が1人暮らし」となる。人生100年時代と言われて久しいが、家族がいても死別や子どもの独立などで、誰しもが「おひとりさま」になり得る時代でもある。しかし、自分や自分の親だけは「ボケない、死なない」と思っている人も多いのではないだろうか。
この連載では、そんな「おひとりさま」生活に備えて、体の自由がきくうち、頭がはっきりしている間に…まさに“今”から準備しておくべきことについて司法書士の太田垣章子氏が解説する。
第4回は、答えの出ない「マンションか一軒家か論争」を“老い”という視点から考える。(全5回)
※【第3回】司法書士が教える“完璧をめざさない”「エンディングノート」活用術 書き残すべき “必須”項目とは?
※ この記事は太田垣章子さんの書籍『あなたが独りで倒れて困ること30』(ポプラ社)より一部抜粋・構成しています。
一戸建てを購入したり建てたりする際、将来的に夫婦ふたり、もしくはひとりで住むことを想定する人はいるでしょうか?
基本は今、家族で住むために一戸建てを選ぶ人が大半だと思います。
ところが月日が流れると、家族構成も変わってきます。そうなると必然的に、使わない部屋も増えてきます。
よくあるのが、高齢になり膝が痛くなって、寝る部屋を1階に移したら、2階には何年も上がっていないという話。1階にあるキッチンやトイレ、バスルームといった設備が生きるのに必要なものなので、それが揃っているエリアだけで生活が成り立つというのです。
特に男性にその傾向が強く、広い一戸建てであっても、結局のところ水回りと寝るスペースだけで過ごしている、私もそんなケースをたくさん見てきました。
人から見れば“ゴミ”屋敷かも…
譲さん(仮名・76歳)もその中のひとりです。
一人住まいになって、15年以上になりました。奥さんが長年の闘病の末に亡くなってから、嫁いだ娘二人も家に近づかなくなってしまいました。
その理由は二つ。
一つは、昭和スタイルの「誰の金で生活できてきたと思っているんだ」的な態度を、この令和の時代に妻ではなく娘たちにしてしまい、彼女たちから敬遠されてしまったこと。
二つめは、譲さんの家が片付いておらず、それを娘たちに見られたくなくて、娘たちを自分から遠ざけてしまったこと。
これらに加えて、娘さんたちも子育てに忙しく、最近では、娘家族たちとは年に数回、外で食事をするだけになってしまっていました。
譲さんは、大学で建築を教えていました。そのため家の中にはたくさんの本や資料があり、それらが山のように積まれているため、今にも崩れ落ちそうです。
傍からすると、その資料っていつ見るの? 捨てても良いのでは? と思ってしまいますが、譲さん自身は「どこにどの資料がある」か、ちゃんと分かっています。捨てるという選択肢がないため、どんどん床が見えなくなってしまっていました。
さらに、ゴミを分別して捨てるのが面倒なため、どんどん家中に溜まっていくのです。これはゴミ屋敷にありがちな状況です。
“ゴミ出し”のストレスからゴミ屋敷化が加速…
ゴミを出すにしても、家の前に出すのがルールなため、ある程度、出せる時間が限られてしまいます。つまり、あまり早く出しすぎると、カラスにいたずらされたりする可能性があり、ご近所の方は大きなゴミバケツに入れて出しているのですが、収集が終わった後、そのゴミバケツは片付けなければなりません。譲さんは、どうしてもそれが面倒なのです。
そのまま出しっぱなしにしていたら、ゴミが取り除かれて軽くなったバケツが風で倒され、かなり遠くまで転がっていってしまったこともありました。その時は、ご近所の方がバケツを譲さん宅に戻してくれましたが、大きな張り紙で「きちんと管理してください」と書かれてしまいました。
その一件以来、譲さんはゴミをそのまま出すようにしたのですが、そうするとゴミをカラスに散らかされてしまって、またご近所からクレームを受けるというマイナススパイラルに陥ってしまいました。
こうしたゴミ出しのストレスを避けることが、結果として家の中のゴミを溜めてしまうことに繋がったのです。
ここまで来てしまうと、家の中がこの先片付いていくことはなく、ただただゴミは増えるだけになってしまいます。
ゴミ屋敷を「知られたくない」心理
いちばん良いのは、業者にお金を払って処分してもらうことなのですが、ゴミ屋敷にしてしまった人の大半はそれを人に知られたくないのです。そのため不衛生な状態が続いていながら、ゴールが見えないという状況に陥ってしまいます。
そんな事態が大きく動いたのは、予想もしていなかったことからでした。夏に気温が高くなり、ご近所から譲さん宅から悪臭がすると役所にクレームが入ったのです。一人住まいを把握していたので、福祉の人と行政が訪問。すると家の中から熱中症気味で意識が朦朧としている譲さんが出てきたのです。
すぐに救急車が呼ばれて、譲さんはレスキューされました。お嬢さん二人にも連絡がいき、結果としてゴミ屋敷が知られることになりました。
救急隊も「これ以上ゴミが増えていたら、ご本人も玄関まで出ることができず、せっかくの訪問も留守で片付けられてしまったかもしれない。強運でしたね」と逆に褒めてくれたほどです。
病院に搬送され、譲さんは有料老人ホームに入所することを決めました。
終の住処を考えるタイミングは?
「庭いじりが趣味ならいいが、年をとると大きな一戸建ては持て余すだけ。ゴミ出しひとつがストレスになってしまい、自分でもどうしていいのか分からなくなってしまった。本当はもっと早くに引っ越せば良かったのだが、荷物を処分しなければと考えるだけで億劫になってしまった。高齢になると、身軽になるのがいちばんだと実感した」
譲さんは、自分で家を片付けることはできないと断念。必要最小限の物だけを持ち出し、あとは全て業者に片付けてもらいました。
高齢になっても多くの人は、ついつい「自分で片付けなければ」と思いがちですが、断捨離が自力でできるのは60代前半まで。荷物の整理は、明るい未来があるからできるもの。この先の生活にワクワクするから、処分することができるのです。「片付けなければ」の思いからは、もはや前には進めません。上手に業者を使う術を、学んで欲しいと思います。
また戸建てかマンションかによっても違ってきますが、半径2メートルほどで生活されている高齢者は、本当にたくさんいます。戸建てとマンションの良さはそれぞれ一長一短ですが、そもそもそれほどの広さは必要でしょうか。
庭いじりやDIYが趣味なら戸建てでも良いかもしれませんが、高齢者になると座っている時間が増えるので、結果として簡単にゴミ屋敷になりやすいのです。
まだまだ明るい未来がある間に断捨離をして、終の住処をどうするか、クリアな頭で考えていきましょう!
◎まとめ◎
引っ越しのリミットは「60代前半まで」と覚えておきましょう
(#5に続く)
■太田垣章子(おおたがき・あやこ)プロフィール
OAG司法書士法人代表司法書士。専業主婦であった30歳のときに、乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。常に現場へ足を運び、滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。住まいという観点から、「人生100年時代における家族に頼らないおひとりさまの終活」支援にも活動の場を広げている。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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