ショート動画フォロワー数220万人超…弁護士インフルエンサーを成功に導いたアノ通販王のSNS運営スタンス
計220万人超のフォロワーを抱え、精鋭クリエイターの表彰イベント「TikTok Creator Awards」で3年連続部門別最優秀賞を受賞の偉業を達成した「アトム法律事務所」代表・岡野タケシ氏。身近な法律問題に関する役立つショート動画を量産し、その内容をまとめた書籍を発刊するなど異色の弁護士インフルエンサーとして多くの支持を受け、その知名度も確実に広がっている。この成功に至るまでは「数多くの失敗」もあったという岡野氏に、動画制作の極意や弁護士としての矜持、こだわりなどについて聞いた。
3年連続で部門別最優秀賞受賞で”キングオブキング”
昨年末のTikTok Creator Awardsで3年連続で部門別最優秀賞を受賞した岡野氏。まずはこれがどれほどの快挙なのかを説明しよう。
同賞は、年間の動画総再生数、おすすめ再生数、いいね数、フォロワー増加数が評価され、部門ごとに5組のノミネート者を決定する。これが第一の関門だ。この時点で、圧倒的に人気がなければ残れないということになる。
このノミネート段階に残るだけでも十分な偉業。ショート動画はトレンドの変遷が激しく、人気の維持が難しい世界だが、岡野氏は3年連続でクリア。これは64組中5組とわずか8パーセントという狭き門だ。
その上で、岡野氏は2021年にTikTok Awardsが初めて開催されてから唯一、3年連続で部門別最高の栄誉に輝いている。つまり、受賞したEducation部門における、正真正銘の”キングオブキング”といっていい。
TikTokとYouTubeの合計フォロワー数は220万人超
TikTokのフォロワー数は68万人。媒体特性もあり、支持層は若者を中心に、老若男女まで幅広く、その発信力は強力だ。先にはじめていたYouTubeもチャンネル登録者数158万人で、インフルエンサーとしての実績は申し分ない。
岡野氏は言う。「動画をはじめたのは2019年ごろですが、当時は社内で不安の声がありました。だって、弁護士事務所の代表がYouTubeやTikTokをやっているなんて恥ずかしいでしょ」。周囲の冷めた声などみじんも気にかけず、我が道を突き進み、岡野氏は偉業を成し遂げた。
約1分のショート動画内の岡野氏は、見事なまでに特有の縦型動画のフォーマットにしっくりはまっている。「質問きてた!」「結論、〇〇」が決まり文句で、身近な法律問題をわかりやすく、滑舌よく、テンポよく、解説する。わずか45~60秒ながら、一度視聴すればクセになるような魅力を画面からあふれさせている。
「コンテンツのシナリオは基本、自分で考えます。これまでに2000本以上は作成してきたので、いまでは例えば時事ネタの台本をつくるときはニュースを見ている間に構成が整いますね。選定の際は、党派性のある話題は深入りしない、迷ったらやらないをひとつの基準にしています」と岡野氏。ショート動画はこの4年ほどでノウハウを蓄積し、スキルを磨き上げた。もはや、”ショート動画職人”と呼んでもなんの違和感もない域だ。
弁護士がインフルエンサーをやる意味
法曹界には、いまだSNSを嫌悪する人も存在する。一方で、有効に活用する弁護士も着実に増加している。ただ、使いこなして成功している法曹人となると、まだほんの一握りだ。一般人でも、SNSでの成功を目指して挫折するのが大半であることを考えれば、岡野氏のインフルエンサーとしての躍動ぶりは際立っている。
「『どうやったらうまくいきますか』という質問をよく受けます。答えはシンプルに『続けること』。でも、同時に『難しいですよ』ともハッキリいいます。だから、興味本位でもやり始めてみて、途中で『オレには向いてない』と感じれば、それも一つのサイン。無理はせず、その感覚を大事にした方がいいと私は助言しています」(岡野氏)
昨年9月に出版した、ショート動画の人気コンテンツをまとめた「おとな六法」が「Amazon書籍総合ランキング」で1位を獲得するなど、弁護士インフルエンサーとしての現在の活躍ぶりは目覚ましい。だが、「その裏では数多くの失敗もしています。たまたまショート動画で成功したので、それが目立っているだけですよ」とどこまでも謙虚な岡野氏。いたってクールで現状にも決して浮かれない。
成功に導いたのはジャパネットたかた式の運営スタンス
生粋の大阪人でトーク力に長け、イケおじの岡野氏。こうした側面も成功の要素になってはいるのだろう。だが、これだけの成功につながるには、もっとなにか秘訣がありそうだ。動画作成に対するこだわりを熱く語り始める中に、そのヒントは隠されていた。
「こうしたケースでは担当に丸投げして、お金と最終決定だけをするトップは少なくないでしょう。でもそれではうまくいかない。なぜなら、自分自身がカメラの前に立たないと、ユーザーの息遣いや熱を感じられないからです。『ジャパネットたかた』が成功したのは、たかたさん(高田明 前社長)が自ら先頭に立ってテレビショッピングの画面に出続け、消費者の反応を肌で感じ続けていたから。私も法律事務所の代表ではありますが、これからもカメラの前に立ち続け、ユーザーの熱やニーズをじかに感じ続けたい」と岡野氏は力説した。
ショート動画の尺は約1分。その制作工程には企画立案、シナリオ作成、動画撮影、動画編集などがある。そのうち、コンテンツの根幹となる企画立案、シナリオ作成は岡野氏が担う。その上で、演者も自身が行う。
動画が完成するとすぐに試写を行う。内容がしっくりこなければ、迷わずボツにする。約1分の動画といっても労力は甚大だが、躊躇はしない。自身がほとんどの工程に関わるからこそのこだわりであり、発信者の独りよがりに陥らないための岡野氏なりの予防策だ。
高卒フリーターからの弁護士人生で描く未来
弁護士になる前は高卒でフリータ―生活をしていた岡野氏。一転、大学を飛ばして法曹界を目指したのは「手に職を付ける必要性を感じる中で、司法試験は文系最難関の国家試験。私にとって大きく生活を変える目標として分かりやすい存在だったんです」と振り返る。これまでの足跡をたどれば、いかにも岡野氏らしい発想だ。
一念発起してからは、司法試験予備校を活用しながら旧司法試験一次試験を経て、4度目の挑戦で旧司法試験二次試験に合格し、法曹界にたどり着いた。司法修習を終えると、法律事務所には所属せず、そのまま独立。人脈に頼れないハンデを、集客ツールとしてのWEBをフル活用することで補ってきた。
「弁護士の仕事は法律という言語を扱う情報産業。そもそも “人が商品”の業界なので、双方向のSNSとは相性がいい。自らが前面に出る情報発信を通じ、いかにして需要と供給のアクセスを改善できるか。それが私の弁護士としてのこだわりです。事務所代表としては、21世紀の弁護士として、型にはまることなく、21世紀の情報技術をフル活用できる業務体制の構築をどこまでも追求していきたいですね」
弁護士の枠にとらわれず、時代の流れに鋭敏にアンテナを張り、アメーバのように柔軟に進化を遂げ、環境に適応し続ける岡野氏。その先には、法曹界の長年の課題ともいえる、相談者が弁護士に対して感じる高いハードルを破壊して、弁護士を活用することが普通になっている未来も透けてみえてくるーー。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。