「レイシャル・プロファイリング」の問題を追及する「人種差別的な職務質問をやめさせよう!」訴訟が始まる

1月29日、外国系のルーツを持つ日本国籍者や永住者など3名の原告と弁護団が、「人種差別的な職務質問をやめさせよう!」訴訟を東京地裁に提起した。
外国人であることを理由にした職務質問は「憲法違反」と訴え
「レイシャル・プロファイリング」とは、警察などの捜査機関が、人種や肌の色、国籍や民族的な出身に基づいて、職務質問や捜査の対象を選定すること。
2021年にはX(旧Twitter)の在日アメリカ大使館の公式アカウントが、アメリカ国民に向けて日本国内の警察によるレイシャル・プロファイリングを警告するツイートを投稿した。
本訴訟は、国と東京都および愛知県に対して、外国系の外見を理由にして職務質問を繰り返し受け続けたことによる精神的損害について、原告1人につき330万円の慰謝料(うち弁護士費用が30万円)を請求するもの。
弁護団の谷口太規弁護士によると、訴訟の趣旨は、東京都や愛知県警による職務質問運用の違法性を確認、およびそれらの運用の是正について国の指揮監督義務を確認すること。
請求の法的根拠は、憲法14条に定められた「人種差別の禁止」違反、および憲法13条で定められた「私生活の自由」の一種と解される「みだりに職務質問を受けない自由」の侵害。また、「人種差別撤廃条約」および「自由権規約」の国際条約違反も根拠とされている。
警察が職務質問をするためには、対象となる者に「異常な挙動」が見られたり、「犯罪の疑い」があったりするなどの「不審事由」の存在が要件とされる。しかし、外国系のルーツや見た目を持つことは不審事由として認められないため人種に基づく職務質問は不当である、と提訴後の会見で谷口弁護士は訴えた。
国内におけるレイシャル・プロファイリングの実態
裁判所に提出された訴状には、2022年に東京弁護士会の「外国人の権利に関する委員会」が行った、レイシャル・プロファイリングに関する実態調査が引用されていた。
「同調査によると、過去5年間に職務質問を受けた[外国にルーツを持つ]人は62.9%にのぼり、うち76.9%が警職法上の不審事由がないのに職務質問を受けたと回答している。職務質問を行う警察官の態度については「外国人だと分かった途端に態度や言葉遣いが横柄になった」という回答が多く、中には、『お前ら外国人は国に帰れや、外人に人権などない』等怒鳴り付けられ、精神的に参ってしまった」といった回答もある。」(訴状要約版より)
また、愛知県警が若手警察官のため作成したマニュアルも、人種差別的な職務質問が警察組織において運用されている証拠として引用されていた。
「◎外国人は入管法、薬物事犯、銃刀法等 何でもあり!!」
「一見して外国人と判明し、日本語を話さない者は必ず何らかの不法行為があるとの固い信念を持ち、徹底的した追及、所持品検査を行う。(原文ママ)」(訴状要約版より)
原告たちの経験とメッセージ
会見では、原告たちがそれぞれの経験や訴訟に対する思いを語った。
愛知県在住のゼインさんは8歳で来日、13歳に家族とともに日本国籍を取得。警察官に職務質問をされた際、在留カード(※)を提示されるように求められたが、「自分は日本国籍であるから在留カードを持っていない」と説明しても警察官が納得せず所持品検査を受ける、という経験が数度あった。
(※)在留カード:日本に暮らす外国籍の人に発行される身分証明書。国籍や在留資格などが記載されており、携帯が義務付けられている。
マイナンバーカードや免許証などの身分証明書には「日本国籍であること」は記載されておらず、証明するためにはパスポートを持ち歩くしかない。「職務質問には何度受けようと協力する姿勢ですし、日本の治安のために非常に大事なものであり、僕たちはそれに参加する義務があると考えています」としたうえで「職務質問のあり方を考え直す時なのではないか」とゼインさんは語った。
東京都在住のマシューさんは南太平洋諸島の国で生まれ、2002年に日本国籍の配偶者と結婚して日本に移住、永住権を取得。来日後、現在に至るまで70回~100回の職務質問を受けた経験がある。新宿で受けた後に池袋に移動したら別の警官に職務質問をされるなど、1日に2度の職務質問をされたことも4回あるという。
「すごくつらいです。(日本という)国や(日本の)人間が大好きなのに」。外出しているといつ職務質問を受けるかわからないという不安から、引きこもり気味になる時期もあった。「この訴訟は自分のためにしているのではない。自信をなくして引きこもりになった人やハラスメントを受けている人たちを勇気づけるために戦っている」(マシューさん)
同じく東京都在住のアフリカ系アメリカ人のモーリスさんは10年近く日本に居住しており、永住権も有する。2021年にバイクを運転していたところ、交通違反がないにもかかわらず2人組の警察官に停止を命じられて職務質問を受けた。理不尽に感じてスマートフォンで職務質問の様子を撮影したところ、警察官は慌てて質問を中断してモーリスさんを解放した。
「肌の色やジェンダーの違い、労働者であることなどが原因でハラスメントを受けている人たちすべてのために、この訴訟に参加した。あなたはひとりではない、この社会のなかで間違ったことが起きているなら声を上げて立ち向かうことができる、ということを示したい」(モーリスさん)
民族的ルーツの差
前述した弁護士会の調査によると、「過去5年間で職務質問を受けた経験を持つ」と答えた人の割合の民族的ルーツごとの集計は、中南米系が最多の83.5%、次いでアフリカ系が82.9%、中東系が75.6%、オセアニア系が74.6%。一方で最少は北東アジア系の50.0%、次いで東南アジア系が57.7%、北アメリカ系が59.7%、ヨーロッパ系の60.4%。
日本におけるレイシャル・プロファイリングは「外国人」を一律に対象にしているのではなく、有色人種の人を特に対象としている可能性は以前から指摘されてきた。
2020年にはアメリカで白人警官が黒人男性を死に至らしめた事件をきっかけに「ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命は大切だ)運動」が起こり、同運動は世界に広がった。日本にもレイシャル・プロファイリングの実態が存在するとすれば、世界から批判を浴びることは避けられないだろう。
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