在宅勤務&オンライン授業の拡がりでトラブル増加? 新生活「隣人ガチャ」の不安を解消するには

弁護士JP編集部

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在宅勤務&オンライン授業の拡がりでトラブル増加?  新生活「隣人ガチャ」の不安を解消するには
隣人からの苦情の手紙が投函されるケースも…(写真:EFA36/PIXTA)

隣の部屋の生活音が聞こえる、下の階の人に身に覚えのない文句を言われた…など賃貸住宅に住む人にとっても無縁ではない「隣人トラブル」。入居するまで隣の人がわからない様子は、昨年の流行語大賞でトップ10に入った「親ガチャ」(※1)をもじり「隣人ガチャ」とも呼ばれている。

(※1)子が親を選べないことを、ガチャガチャから出てくるアイテムのように例えた言葉。親の事情(経済力など)によって子どもの将来が決まっていることを皮肉・揶揄するように使う。

冒頭のような些細なトラブルから大きな事件に発展した例も少なくない。

隣人トラブルの果てに…

隣人トラブルがもとで起きた殺人事件も…(写真:Graphs / PIXTA)

大阪府大東市に住む女子大生が、下の階に住む男によって殺害された事件(2021年4月28日)。男は女子大生を殺害した直後に死亡しているため、詳しい動機はわかっていない。だが直前まで容疑者の隣に住んでいた男性は、壁をたたかれるなどして恐怖を感じていたという。府警は容疑者が過剰に音に敏感になっていた可能性があるとしている。

東京都足立区のアパートでは、刃物を持った60歳の男が隣の部屋に押し入る事件が発生(2021年5月4日)。当時、隣の部屋には住人の男性のほか、遊びにきていた息子夫婦と孫娘がおり、男に応対しようと扉をあけた息子が切りつけられて死亡した。男は「声や物音がうるさく、我慢の限界だった」と供述した。

もちろんこれらは「隣人ガチャ」と揶揄できないほどの恐ろしい隣人の例だが、新型コロナウイルス感染症の拡大により在宅時間が増えたことから、以前までは気にならなかった時間帯の音が聞こえるようになるなど、隣人トラブルが増えているようだ。

一番多い「騒音」トラブル

「リモートワークやリモート授業など、コロナ禍でのあたらしい生活スタイルによるトラブルも増えている」と語るのは、アプリの作成やSNSを活用して賃貸住宅トラブルの予防啓発を行う「NPO法人 賃貸トラブル助け隊」(https://www.t-toraburu.com/)の担当者だ。

「インターネット付きの部屋のはずがネット速度が遅くて使えない」というような管理会社とのトラブルも目立つが、やはり「音」に関するトラブルが一番多いという。

総務省統計局によれば、地方公共団体の「公害苦情相談窓口」が受付した苦情の総件数が前年度のおよそ16%増加。家庭生活(※2)を発生原因とする騒音の苦情件数も大幅に増加している。

家庭生活が原因の公害苦情件数の推移(出典:総務省統計局・公害苦情調査を参考に作成)

(※2)家庭生活が原因の騒音公害には、近隣住宅における空調・音響など機器の使用によるもの、ペットによるもの、浄化槽・生活排水・話し声・自動車の空ぶかしなどによるものが挙げられている。

さらに、悪臭への苦情もコロナ禍以前に比べ増加している。悪臭の原因は野焼きが多いが、ベランダでの喫煙や共有スペースへのごみの放置など、マンションやアパートでも悪臭によるトラブルのケースがある。

「騒音」以外にも「共有スペース」「駐車場」は要注意

マンションやアパートの「共有スペース」は悪臭だけでなくトラブルが起こりやすい場所だ。賃貸トラブル助け隊の担当者は、廊下に大きな荷物が置かれて通行の妨げとなりトラブルに発展するケースを挙げた。このようなトラブルは引っ越しシーズンの今の時期に特に増えるという。

突発的なトラブルは事前に調べて予防することは難しい一方で、「駐車場」のトラブルは比較的予防しやすい。

契約前に「隣の車種」もかならず確認する(写真:Ystudio/PIXTA)

はみ出し駐車や、車幅などが原因で自分のスペースに駐車できないというトラブルが起きる駐車場。駐車時に接触事故が起きる可能性もあるため、賃貸トラブル助け隊では、契約前に隣の車の「車種」を確認しておくことを推奨している。

メールや録音などの「記録」に残すことが重要なワケ

どれだけ気を付けても巻き込まれる可能性がある隣人トラブル。万が一身近でトラブルが起きた際にはどうすればよいのだろうか。

賃貸トラブル助け隊担当者は、「気になることがあっても、絶対に『直接』やりとりしてはいけません。必ず、管理会社や家主にメールなど記録に残るように連絡をしましょう」と呼びかける。

「不動産や賃貸は近隣トラブルはもちろん、入居時にもトラブルが発生しやすいのですが、専門用語も多く素人ではどうしようもないと思うことも多いかもしれません。知識や経験がなくても出来る対策がメールや録音など記録に残すことです。実際、私たちへの相談の8割以上が記録に残すことで改善や解決に繋がっていますし、トラブルが大きくなっても、消費者センターや弁護士にも経緯を正確に伝えることができます」と、記録を残すことが事態を解決するための有効な手段になりうると説明した。

「近隣トラブルは誰に責任が問えるのか?」弁護士が回答

隣人トラブルは、個々のケースで正しい対処法が異なり、解決までの道のりも違う。引っ越しシーズンの今の時期に多い近隣トラブルの悩みについて、桐ヶ谷彩子弁護士に聞いた。

新しい家に入居後、すぐにトラブルが発生した場合でも、賃貸違約金を支払う必要はありますか?

桐ヶ谷弁護士:管理会社≒大家としてお答えします。まずは、賃貸借契約書で、違約金が発生する条件を確認してください。例えば、「解約の申し出は解約予定日の1か月前に行う。ただし、違約金を払えばいつでも解約できる」とのみ記載されている場合、少なくとも1か月以上前に解約を申し出れば、違約金は発生しません。

次に、形式上違約金が発生する状況でも、管理会社に対する支払いを拒否する手段があるかという点です。

原則としては要件に当てはまる以上、支払い義務は生じると考えたほうが良いでしょう。ただし、管理会社の説明義務違反などの責任が認められる場合は別の考慮が必要です。説明義務違反とは、例えばトラブルが予め予測できた場合に入居者への説明を怠った、相談を受けたにもかかわらず対応を放棄したなどです。

近隣トラブルにより引っ越しせざるを得ない状況になった場合、費用を加害者あるいは管理会社に請求することは可能ですか?

桐ヶ谷弁護士:基本的には、加害者に対し、「加害者が引き起こす近隣トラブルによって、自身に精神的・経済的損害が発生した」として、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を行うことになるかと思います。被害の状況にもよりますが、引っ越しもやむを得ないという場合には、引っ越し費用も損害に含めて請求できる可能性があります。

他方、近隣トラブルの原因に、管理会社自体が関わっているケースは少ないかと思います。そのため、管理会社へ損害賠償を求めるには、上記のような説明義務違反など、管理会社自身の義務を怠ったと言える事情が必要でしょう。 もちろん、それだけで請求の可否が決まるわけではありませんが、対応を考える上で大まかな目安にはなるかと思います。

騒音であれば、一般的に我慢できる「受忍限度」の範囲を超えているかどうかが弁護士に依頼するひとつの基準になりえると思うのですが、そのほかに弁護士への依頼の基準になるようなことはありますか?

桐ヶ谷弁護士:隣人トラブルは内容も程度も多種多様ですので、相談の基準を一般化するのはなかなか難しいところです。なので、「何か解決策はないだろうか?」と思ったときに、まずは各方面へご相談に行っていただいた方がよいと思います。今起きていることについて客観的な意見を得、対策を練ることが重要です。

弁護士へ相談する際に、前もって用意・準備しておくと良いことを教えてください。

桐ヶ谷弁護士:まずは、トラブルが生じた経緯・きっかけ、それに加え、実際に加害者から被っている被害があるのであれば、その内容(頻度・程度など)を、時系列に沿って振り返っておきましょう。相談時に、時系列に沿ってお話いただけると、弁護士も話の流れや経過が理解しやすくなります。

また、証拠の準備も重要です。騒音であれば音量を測ったり、継続的な嫌がらせの場合は監視カメラの映像や、記録を日々残しておくと、手続きの選択の幅も広がると思います。

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