宝塚歌劇団員死亡 「パワハラの行為者をかばっている」遺族代理人弁護士が劇団の対応批判
華やいだ舞台の影で起きた悲劇。宝塚歌劇団(兵庫県宝塚市)の宙(そら)組娘役として活躍していたAさん(25)が昨年9月に自ら命を絶ってからおよそ半年。
遺族側代理人の弁護士が2月27日、厚生労働省(東京都千代田区)で記者会見を開き、これまで遺族側が劇団と行った4回の交渉の経緯、合意書締結に向けた課題などを語った。
遺族側「全ての責任が劇団にある」
遺族側による会見は、昨年12月7日に厚労省で開いたのに続き2回目。川人博弁護士、井上耕史弁護士の2人が説明した。
当初劇団は、Aさんの自死がパワーハラスメントによるものであることを否定していたが、3回目(1月24日)の交渉時に提出した回答書で、劇団上級生らの行為の多くがハラスメントに該当するとの見解を示し、それが「かかる事態を引き起こしたものであって全ての責任が劇団にあることを認め、深く謝罪する」と記した。
しかし、4回目(2月14日)の交渉で、遺族側と劇団の「合意書」記載の謝罪文の内容、合意書締結の際の公表の方法等について、遺族側の主張に対し、劇団は否定的な姿勢を示した。5回目の交渉は、3月前半に行われる予定。
劇団は「行為者の言い分を代弁している」
ハラスメントにあたると遺族側が主張している15の行為の中には、Aさんの額に、上級生がおよそ180度のヘアアイロンをあてた行為も含まれる。
川人弁護士は、「(劇団側は)15の行為のうち多くがハラスメントに該当するという表現を使っているが、具体的にどの行為がハラスメントに該当し、該当しないかについては言及していない」と述べ、「ハラスメントに該当しないと主張している行為についても、(劇団側による)不適切な行為であり被災者に心理的負荷を与えたと考えている」と弁護団の考えを述べた。
また、「劇団側の言い分は、遺族側の主張を否定し、軽視している。パワハラの行為者の言い分を代弁している」と指摘し、劇団への不信感をあらわにした。
「事情聴取した上級生の言い分をそのまま受け入れ、劇団側の主張とする傾向が強い。本来であれば、(ハラスメントの)行為者の言い分について距離を置き、事実が何であったかをしっかりと把握し、その事実にそってしかるべき謝罪を行い、合意書締結に向かうべきだ。『ある上級生がこのように言っている』ということをもって劇団側の主張とし、『遺族側が述べている謝罪内容には同意できない』という論法は、とても納得できない」とも強調。
「生徒を守るため」という劇団側の“大義名分”にも触れ、「コンプライアンスに基づいた対応が本当の意味で劇団、劇団員を守ることにつながる。事実に即して、コンプライアンスに基づいて対応するべきだ」とも語った。
一方、劇団側トップの角和夫・阪急阪神ホールディングス会長が劇団理事を退任することについては、同会長が「責任を取ることを意味しない」とした。
現役団員の妹「文書」で劇団対応を強く非難
会見では、宝塚歌劇団現役団員でもあるAさんの妹による文書が代読された。
文書の中でAさんの妹は、「宝塚歌劇団は、日常的にパワハラをしている人が当たり前にいる世界です。その世界に今まで在籍してきた私から見ても、姉が受けたパワハラの内容は、そんなレベルとは比べものにならない悪質で強烈にひどい行為です。(中略)宝塚は治外法権の場所ではありません。宝塚だから許される事など一つもないのです」と主張。
さらに「劇団は、『誠意を持って』『真摯(しんし)に』という言葉を繰り返して、世間にアピールしていますが、実際には、現在も遺族に誠意を持って対応しているとは思えません」と続け、そしてこう結んだ。
「大切な姉の命に向き合ってください」
上級生による謝罪について「関係者個々人とは交渉していない」
会見では、宝塚歌劇団の子会社、宝塚クリエイティブアーツが発行する雑誌「宝塚グラフ」(昨年11月号)に掲載された記事についての報告もあった。
Aさんの自死からわずか約20日後の当該記事には、「(稽古へ)ヘアアイロンを持っていこうかな」、「絆創膏など、欲しくなるかもしれないものが沢山入っています(笑)」という遺族の感情を逆なでするかのような記載があったという。
上級生からヘアアイロンをあてられたことによるAさんの額の傷(やけど)は、観客席からでも分かるほど、しばらく消えなかったという。それはもはやハラスメントを超えた傷害ではないのか。記載はあまりに配慮に欠けたものと言わざるを得ない。
ハラスメントを行った上級生らに謝罪を求める予定はないのかという筆者の質問に対し、川人弁護士は「個々人と交渉しているわけではないが、劇団側には関係者の謝罪も求めている」と答えた。
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