地震発生時の負傷者30%以上が「家具転倒」が原因 家具固定“効いた”状態にするための正しい方法とは?
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元日を襲った能登半島地震。犠牲となった241人のうち222人の死因を警察庁が分析した結果、家屋の倒壊や家具の転倒などが原因の圧死が92人(41%)で最も多かったことが明らかになった。
能登半島の地震をきっかけに、慌てて家具固定をした人もいたのではないだろうか。しかし、本当に「正しい」固定ができているのか?
事故防止や災害リスクについて研究する島崎敢・近畿大准教授(安全心理学)が、正しい家具転倒防止策を解説する。
最も効果が高い固定方法とは?
地震に対する備えの基本と言えば家具類の転倒防止である。ただ、ちょっと待ってほしい。その家具固定方法は「正しい」か?
間違った家具固定では、地震のときに十分な効果を発揮しない可能性がある。
だから既に家具固定をしている人は、今の固定方法が正しいかどうか確認しよう。そして、まだ家具固定をしていない人がいたら、正しい固定方法を知った上で、一日も早く転倒防止をしてほしい。
家具固定の方法はいくつかあるが、最も効果が高いと言われているのが、L字金具とビスで家具を壁に固定する方法である。
ただし、この方法が効果を発揮するのは「正しい位置に正しい方法でビスが打たれている場合」に限る。
日本の住宅の壁には、石膏ボードが使われることが多い。しかし、石膏ボードは脆く、打ち込まれたビスをしっかりと保持することができない。
そのため、ビスはボード類の裏にある「柱」などの骨組みに直接打ち込む必要がある。
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打ち込む際には、ビスの長さも重要だ。ボードの厚みも含め、しっかりと骨組みに届くビスを使う必要がある。建物が木造でない場合には、ビスを打つ素材は木ではないかもしれない。この場合は、素材に合わせた適切なビスやアンカーなどを使う必要がある。
家具の側にも同じことが言える。家具の表面はフラットに見えるが、骨組みがある場所と、薄い化粧板だけで覆われている部分がある。十分な強度がある家具の骨組みにビスを打たなければ、やはり期待した固定効果は得られない。
さて、あなたの家のビスは正しい位置に打ち込まれ、しっかりと「効いた」状態になっているだろうか…?
賃貸の味方ポール式「突っ張り棒」の実力
賃貸などで壁に傷をつけられない人にとっては、天井と家具の間で踏ん張る「ポール式」の転倒防止器具が一般的だろう。
ポールは「L字金具とビス」ほどの効果はないが、有効な家具固定の方法と言える。ただし、ポール式も間違った使い方では効果を発揮してくれないので注意が必要だ。
天井も壁と同様に、梁や躯体があって丈夫なところと、ボード類が吊られているだけで強度が不十分なところがある。強度が不十分なところにポールを設置しても、家具は十分に固定されず、地震のときにはポールが天井を突き破るだけになってしまう。
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それどころか、弱い天井にポールを当ててどんどん突っ張っていくと、天井が持ち上がってしまうことがある。間違ったポールの使い方をすると、地震が起きてもいないのに家を壊してしまうかもしれない。
「L字金具とビス」と同様に、ポールが家具の弱いところを押さえていては意味がない。家具側もポールを骨組みに当てる必要がある。
ちなみに、ポール式の家具固定は天井と家具が近いほど効果的だ。家具の背が低い場合や、天井が高い場合には十分な効果が得られないかもしれない。
より“強力”な固定へ
ビスもポールも、目に見えていない壁・天井・家具の裏側の構造を知った上で使う必要がある。裏側の構造は叩いたときの音からもある程度判断できるが、最近は「下地センサー」という柱を探す装置が2000円前後で売られているため、活用してみるのも良いだろう。あるいは、多少お金はかかるが専門業者に固定を依頼するのが安心かもしれない。
他にも、転倒防止グッズとして、ストッパーや粘着マットも売られているが、これらを単独で用いても、大地震に耐えられるような固定効果は期待できない。ただし、これらをポールと併用すると、「L字金具とビス」に近い効果を得られるため、是非組み合わせて使用してほしい。
ところで、意外と忘れがちなのが家具の上下の緊結である。上下に分割できる家具は、上下をしっかり繋いでおかないと、ばらばらになって倒れてしまうことがある。家具が分割式であれば、十分な強度が得られる方法でしっかりと繋いでから固定するようにしよう。
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究極の転倒防止策とは…?
ここまで「家具を固定する」という視点で書いてきたが、実は固定する以外にもできる対策がいくつかある。
まずは寝室やリビングなど、人が長時間居る場所“以外”に家具を移動できないか検討しよう。
また、家具を配置する向きも重要である。家具は長手方向には倒れにくい。人がいる場所に倒れない向きにすることで、下敷きになるリスクを下げられる。ただし、倒れた家具が出口を塞いでしまうように置くと、避難の妨げになる可能性があるので、人が居なくてもこのような場所は避けよう。
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次に家具の中身を軽くすること。重いものは下に、軽いものを上に置くだけでも倒れたときのダメージを減らせる。家具の中に怪我の原因になる割れ物などが入っている場合には、揺れで扉が開かない工夫をしておくと良い。中身を減らせるなら、大きい家具から小さい家具に買い替えても良いだろう。
そして、究極の転倒防止は、「家具をなくすこと」である。「いつか使うかもしれないもの」は「ずっと使わないもの」である。この機会に断捨離をして家具をなくし、部屋を広く使うようにしてはいかがだろうか。
地震で怪我をする人の約3~5割は、倒れてきた家具によって怪我をしている。
大地震の時は同時にたくさんの怪我人が発生するし、病院や医療スタッフも被災しているので、迅速で適切な治療は期待できない。怪我は津波や火災から逃げ遅れる原因にもなる。つまり、普段ならどうってことのない怪我でも、災害時には命取りになる可能性がある。だから災害時は平時よりもずっと「怪我をしない」ことが重要である。
怪我をする人が減れば、その人を助けたり治療したりするリソースを他の被災者に向けられる。あなたが怪我をしないことは、あなた自身を守るだけではなく、他の誰かを助けたり地域の復興を早めたりする。自分が怪我をしないために、そして地域みんなのために、家具の配置や固定方法を今一度見直して、リスクを減らすようにしてほしい。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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