「ガッカリしました…」盗撮犯罪を追跡する国内唯一の団体代表が指摘、23年7月施行「撮影罪」の“重大欠陥”とは

弁護士JP編集部

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「ガッカリしました…」盗撮犯罪を追跡する国内唯一の団体代表が指摘、23年7月施行「撮影罪」の“重大欠陥”とは
いついかなる場所で盗撮が行われても何ら不思議はないのが実状…(Graphs / PIXTA)

<自宅で知人女性4人盗撮など 県農地整備課技師を懲戒免職><県立高校教諭が生徒を盗撮か 再逮捕><10代女性のスカート内盗撮容疑で男逮捕><成人式や結婚式の前撮り女性盗撮疑い、写真スタジオ元経営者再逮捕>

これらは3月初旬に「盗撮」のキーワードでニュース検索した結果のほんの一部だ。ニュースになっているのは、教諭、県職員、スタジオ元経営者という点が悪質さを際立たせるためと考えられ、これ以外にも「盗撮」は日常的に行われている。

警察庁の発表では、令和4年の盗撮検挙人員は3982人、令和3年は3501人、令和2年は3024人と年々増加。その発生時間は、6時~24時を3時間ごとに区切ったほとんどの時間帯で10%を超えており、昼夜問わず行われていることがわかる。発生場所については、便所・更衣室・浴場等が31.5%、駅構内、ショッピングモール等商業施設が20%前後で続き、着衣をつけない場所や人が集まるところがターゲットにされていることが鮮明だ。

「性的盗撮は日々全国、あらゆる場所で行われているのが実状です。簡単に小型カメラを入手でき、外国サーバー経由で個人でも配信販売でき、稼ぐ場もある。対策をしなければ減ることはないでしょう」

こう明言するのは、一般社団法人全国盗撮犯罪防止ネットワーク理事の平松直哉氏だ。2000年12月から個人で地元和歌山県下の盗撮犯罪について調査活動をはじめ、唯一の盗撮犯罪対策専門組織として活動をスタートし、24年になる。

一元化しないと意味がない

そんな平松氏は組織設立当時から、盗撮対策および被害者支援に注力しつつ、「性的盗撮防止法」の制定を願ってきた。それだけに違う形になったものの、23年7月から施行された撮影罪(性的姿態等撮影罪)の成立を歓迎し、評価していると思われたが、表情は浮かない…。

「正直言って、失望しました。法律に全く現場の意向が反映されていないからです。本当に盗撮被害のことを分かっている人がつくったのかと。これまでは全国一律で取り締まる法律はなく、条例等による取り締まりのみでばらつきがありましたから、その点は評価できます。ただ、それらを一元化したものでないと意味がないんです」と平松氏は失望感をあらわにする。

なにが問題なのか。平松氏が指摘する”欠陥”は次の3点だ。

・盗撮が起こらないための視点がない
・盗撮が起こった後に円滑に被害に対応する設計がされていない
・被害者目線がない

「法律をつくって罪を重くするんじゃなく、盗撮が起こらないためにどうすべきか、盗撮された後に円滑に被害に対応できるよう設計されていなければ意味がありません。事前事後の対策が法律によって定められていませんので、たとえ摘発されても被害者は安心できません」(平松氏)

施設等への「させない体制」の構築が肝要

では、どうすればいいのか。平松氏が要望するのは、盗撮現場となり得る施設や会社などの盗撮防止体制の義務付けや小型カメラなどの販売側へまで踏み込んだ規制など、盗撮発生の抑止につながるような抜本的な施策の盛り込みだ。

再犯が後を絶たない犯罪であり、加害者への衛星利用測位システム(GPS)埋め込みも、過去の事例を踏まえると「不可欠だ」と平松氏は提言する。

20年以上、盗撮を抑止する法案の成立を望み、政治家にも働きかけてきた平松氏。それだけに、重要なことがすっぽりと抜け落ちたような立てつけになっていることが残念でならなかった。

法人なりし、デジタル鑑識を導入などで体制強化

一方で平松氏は撮影法施行開始の3か月後の2023年10月、大きく動いた。組織を民間団体から一般社団法人とし、法人なりしたのだ。

「24年の活動で蓄積した知見・ノウハウを最大限に活用し、より効果的な盗撮被害者への支援を実現すべく、一般社団法人化しました」(平松氏)。

今後は、防犯アドバイザーやエンジニア、元テレビマンのコアメンバーらとより踏み込んだ盗撮被害者の支援やネットワーク強化のための研修事業、法曹界との強固なパイプ構築なども精力的に行っていくという。

法人化に伴い、進化する盗撮犯罪への対応力も大幅に強化する。最大の目玉は、デジタルフォレンジックとよばれるデジタル鑑識の導入だ。

デジタルフォレンジックは法科学の一分野で、コンピューターなどの電子機器に残る記録の調査、分析を行う技術の総称。対象となるのは、PCやサーバー、ネットワーク機器、スマートフォン、USBメモリやSDカードなどだ。盗撮犯からデジタルデータを押収できれば、証拠となる記録を特定したり、消されたデータを復元できたりし、犯人特定や犯罪立証を推進できる。

さらに、組織のネットワークを強化するため、人材育成にも注力。オンライン等でセミナーや研修を実施し、全国に盗撮事件に対応できる人材を配置できるよう体制を強化。より迅速できめ細やかな盗撮対応、被害者支援を実現する。

なぜ「盗撮させない意識」が重要なのか

四半世紀近い盗撮事件への対応の蓄積で、ほぼあらゆるパターンを熟知する平松氏にとって、個別の対策は不要とはいわないまでもその場しのぎに近いと考えている。だからこそ重要なことは、「『盗撮させない』という強い意識を持つことなんです」と力説する。

盗撮のターゲットとなるスポットでも施設側の「させない意識」で抑止は可能という(わおん / PIXTA)

「盗撮のターゲットにされるスポットに温泉がありますが、ある有名な温泉街はまちをあげて、見回りや施設チェックを徹底しています。危ない場所はくまなくつぶし、盗撮の余地を与えない。逆に、意識の低い温泉地は、コストを理由に明らかに盗撮の温床となっているスポットを指摘しても適切な改善を施さない。とうてい盗撮の深刻さを理解しているとは思えませんし、盗撮の対策をしていることがひいては来訪者に対する付加価値になるという感覚もないんです」

昨今は、職場や学習塾などで、内部の人間が加害者になるケースも増えている。だからこそ平松氏は、施設側の主体的な盗撮をさせない仕組みづくりの重要性を訴える。

「まだまだそうした考えのところは少ない」といいつつも、平松氏は今後、施設に対し、盗撮対策のお墨つきを与える認証マークのような仕組みの創設も検討しているという。これまでは、どうしても「点」での対応になりがちだったが、今後は、盗撮をされないような抜本的な対策をカリキュラム化するなどで浸透させていくことも視野に入れる。

近日中に活動計画のお披露目も予定

近日中をめどに、法人なり後の活動計画を公開するプレスカンファレンスの準備も進めている。激化する盗撮犯罪を追跡する唯一の国内団体として、「ノー盗撮」を掲げ、これまで以上に精力的に活動していく。

「家が数軒建つほど身銭を切ってやってきました」と、これまでボランティアで活動を続けてきた平松氏。その最大のモチベーションは、「性的な目的で撮影された盗撮犯罪は、被害者の性的尊厳を著しく侵害するもの。私は1人でも多くの被害者を救いたい」という思いだ。

盗撮撲滅に半生をささげてきたスペシャリストが、これからはデジタルツールも最大限に活用し、盗撮を心配せず、安心して暮らせる社会づくりへまい進する――。

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