「一生ヒラ社員」労働組合員を“6畳部屋”に配属&会議から追い出し…裁判所が退職勧奨を“やりすぎ”と判断する基準

林 孝匡

林 孝匡

「一生ヒラ社員」労働組合員を“6畳部屋”に配属&会議から追い出し…裁判所が退職勧奨を“やりすぎ”と判断する基準
組合員のXさんは厄介者として扱われ、6畳の狭い部屋に追いやられた。(Graphs / PIXTA)

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。

【労働組合 vs 会社】の様相を呈した裁判事件を解説します。

ーー 会社さん、労働組合ってウザイですか?

会社
「・・・・・・」

ーー Xさん、会社側から何て言われたんですか?

Xさん
「専務から『組合員を通すのであれば一生ヒラ社員である』とか、組合を辞めなければ『どこのオーナーでもそうだが、一般論として本格的な報復に入ると思う』とか言われました...」

ーー 裁判所さん、雷を。

裁判所
「違法! 慰謝料30万円〜50万円払え」(堀川化成事件:大阪地裁 R5.9.14)

労働組合を切り崩しにかかっちゃダメです。以下、分かりやすく解説します。

※ 争いを簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています

登場人物

▼ 会社
・有機溶剤のリサイクル事業を行う会社
・従業員:約50名

▼ Xさん
・労働組合の副分会長

▼ 専務取締役C
・Xさんを組合から脱退させるためにアレコレ手を尽くす

▼ 代表者B
・専務と同じ気持ちを持っていた

事件の概要

Xさんは、平成21年に入社して、令和3年1月に退職しています。それまでの模様をお届けします。

▼ 労働組合を結成
平成28年、労働組合が結成されます。Xさんはいろいろな役職を経て、令和2年5月には副分会長に就任しています。この労働組合が、会社からすればヤッカイな存在だったのでしょう。

▼ 助けて! vol.1.2
労働組合は2度、労働委員会に救済を申し立てました。申し立ての趣旨は、社員のボーナスが減額された、会社が支給基準を明らかにしない、会社が誠実に交渉に応じないなどです。1回目は和解で終わり、2回目は会社は労働委員会からお叱りを受けます。誠実に団体交渉せよ、文書を組合に提示せよというお叱りです。

▼ 専務取締役とXさんの面談(4回)
会社は組合が非常にウザかったのでしょう。取り崩しにかかります。専務はXさんと4回面談しました。判決から会話を一部抜粋して要約すると以下のとおりです。

Xさん
「組合をほどほどのタイミングで辞めようと思っている」

専務
「組合員を通すのであれば一生ヒラ社員である」
「だんだん多勢に無勢になり、そうなったときに何もなくて辞めるよりも、社長が引き上げたいと言っているときに辞めておく方が賢明な判断である」
「組合にしがみついていても、この会社は基本的にオーナー企業である」
「サラリーマンはどこに行っても派閥があり、結果を出してもラインに乗らなければアウトである」
「何も組合に入っているから批判しているのではない」
どこのオーナーでもそうだが、一般論として本格的な報復に入ると思う」

専務
「Twitterに会社のこと書きましたか」

Xさん
「いいえ」

専務
「ほんで専従でメシ食えるようなところ行きいな、勉強して」
「もっと中小企業の悲惨なところに行って組合活動しておいで。いっぱいあるか。ここではそぐわない」

▼ 助けて vol.3
組合は再び労働委員会に救済を求めます。労働委員会は「専務の面談での発言は労働組合に対する支配介入であり不当労働行為だ」と会社にお叱りを出しました。

ーー そのあと、どうなりましたか?

Xさん
人間関係の切り離しを受けました...」

ーー と申しますと?

Xさん
必要のない営業2課というものが作られ、そこへ配属されました。2名だけです。執務スペースは6畳です...。そこに常務取締役が監視役として配置されました。あと、会議にも参加できなくなりました...」

Xさんは損害賠償を求めて提訴しました。

ジャッジ

弁護士JP編集部

Xさんの勝訴です。裁判所が命じた金額は以下のとおりです。

■ 会社と社長
 組合からの脱退勧奨、退職勧奨 20万円
 営業2課への配属、会議への参加禁止 30万円

■ 専務
 組合からの脱退勧奨、退職勧奨 20万円
 会議への参加禁止 10万円

順番に見ていきましょう。

▼ 組合活動から脱退勧奨、退職勧奨

■ 専務の責任
裁判所
「専務の発言は、組合活動を嫌悪してなされたと推定でき、組合に対する支配介入の不当労働行為にあたるので、労働組合からの脱退勧奨は違法です。退職勧奨も違法です」
〈理由〉
 ・組合を脱退すると昇進し、組合員のままだと昇進できないことを示唆している
 ・組合員を続けていると社長からよく思われないですよ、と告げている
 ・組合活動をしたいのであれば別の会社へ行くよう勧めている
 ・組合を脱退した社員を特別扱いした例を示して、あなたも脱退すれば将来昇格することを示唆して脱退を勧めた

■ 社長の責任
裁判所
「専務は社長と意を通じてさまざまな発言をしたと推認できる。よって、専務の不法行為については社長も共同不法行為責任を負う」

▼ 営業2課へ配属
裁判所
「会社がXさんを営業2課へ配属したのは、退職に導くという不当な動機・目的があったと推認できるので、人事権を濫用しており違法!」
〈理由〉
 ・営業部を分割する必要性があったか疑問を差し挟む余地がある
 ・執務場所には常務取締役を配置させXさんほか1名を監視させていた
 ・常務取締役を配置する必要性・合理的理由を見出し難い
 ・執務スペースが6畳程度しかなく極めて異例な執務環境である

▼ 会議へ参加させず
裁判所
「会議に参加させなかったことも違法である。Xさんが組合員であることを理由として参加させておらず、Xさんを差別的に取り扱うものだからである」

マメ知識

■ 労働組合の権利サイキョー
労働組合は、会社と対抗していくための組織なのでカナリ強力に守られています。労働組合法がありますし、最高法規である憲法にも明記されているくらいです(28条で「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」が認められています)。今回は、組合の切り崩しにかかった専務の行為が違法と判断されたケースでした。

■ 人間関係の切り離し
人間関係の切り離しは、パワハラの第3類型にもあたります。厚生労働省の指針では以下の行為は違法な人間関係の切り離しとされています。
・意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること
・1人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること

今回は1つ目のケースに近い事件でした。

■ 退職強要
「ユー、辞めない?」くらいの勧奨ならセーフなんですが、強要するとアウトです。今回の事件は退職強要と認定されました。良ければこちらの裁判解説もどうぞ。
「雑魚はいらねえんだよ」人格否定の“退職強要”にうつ病発症…会社の“業務上の指導”が違法とされたワケ

今回は以上です。また次の記事でお会いしましょう!

取材協力弁護士

林 孝匡 弁護士
林 孝匡 弁護士

【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。 HP:https://hayashi-jurist.jp X:https://twitter.com/hayashitakamas1

所属: PLeX法律事務所

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