「鬼滅の刃」海賊版DVD販売で「故意認められず」無罪判決に…なぜおとがめなし?
人気アニメ「鬼滅の刃」の海賊版DVDを著作権者の許諾を受けずに販売し、輸入しようとして著作権法違反と関税法違反の罪に問われた被告人の裁判で、水戸地裁下妻支部は2月28日、無罪を言い渡した。求刑は懲役1年6か月、罰金50万円だった。このニュースにネット上は「商売でやっていて知らなかったで無罪?」と疑問の声も多くあがった。過去にはDVDではないものの、現地で違法でないといわれて輸入し、関税法違反で有罪となっている事例もあるため、今回の裁判が注目されることとなった。
被告人である43歳男性は、2020年3月ごろ、マレーシアで複製されたテレビ放送用アニメ「鬼滅の刃」全26話が収録されたDVD計6枚を、著作権者である会社の許諾を得ずに代金計約2万円で販売。さらに同じ内容のDVDを計200箱マレーシアから輸入しようとしたとして起訴されていた。
争点は、男性が著作権法および関税法に違反する「故意があったのか」だったが、裁判長は「著作権者の許諾なく複製されたものであるかもしれないとの認識があったとはいえない」として無罪とした。その根拠として、男性が輸入元に商品が海賊版でないかを問い合わせ、「正規版だ」と回答されたことなどをあげている。
大人気アニメだけに無罪判決に疑問の声も
仮にそれが事実だとしても、海賊版DVDの販売および輸入を「無罪」とすることが妥当といえるのか。なぜなら、鬼滅の刃は原作の単行本の累計発行部数が1億5000万部を突破し、映画の興行収益は全世界で500億円を超えるメガヒットアニメ。コピー品や二次創作品も大量に出回っており、事業者なら十分に著作権法や関税法を意識し、警戒しておくべきだからだ。
ところが判決は、前述の理由で無罪。ニュースのコメント欄には、賛否の声があふれた。
「悪い判例残したらあかん、知らなかったといえば偽物でも無罪になる」「販売元が偽物ですっていうわけないでしょ」「200箱買おうとして転売する気満々。こういう事して無罪とか日本は犯罪に甘い」など、否定的な意見も多い。
なかには「怪しくても証拠がなければどうしようもない」といった声もあったが、ごく少数だった。
弁護士も「注目すべき裁判例」
著作権問題にも詳しい荒木謙人弁護士は、「注目すべき裁判例」と感想を述べた。その理由として次のように解説した。
「刑法第38条1項は『罪を犯す意思がない行為は、罰しない。』と定められています。そのため、罪を犯す意思、すなわち『故意』が認められる場合のみ処罰されることになります。
そして、故意は、未必の故意がある場合には認められており、未必の故意とは、犯罪事実実現の可能性を認識して、それを認容していた場合をいいます。
今回の事件にあてはめると、マレーシアの仕入れ先から購入する『鬼滅の刃』のDVDが、著作権者の許諾なく複製されたものであるかもしれないが、それでよいと考えていた場合には、未必の故意が認められ、処罰されることになります」
全く何の商売経験もない素人の一個人の行為なら、百歩譲って理解できるとしても、日本でDVDを販売しようとする事業者が、海外の事業者が扱うDVDを言われるまま正規品と信じ、輸入しようとすることはあり得るのか…。
「本件では仕入れ先がどのような者であったのか不明ですが、仕入れ先が信用に値すると評価できるのであれば、その担当者の発言を信じることについて、一定程度、合理性が認められます。一般的には、仕入れ先が継続的に正規品のDVDを輸出していたり、日本における他の事業者も同様の取引をしていたりするような場合は、信用に値すると評価できます」(荒木弁護士)
刑事訴訟では「疑わしきは罰せず」として、犯罪事実がはっきり証明されないときは被告人の利益になるように決定すべきであるという原則がある。それにしても…とこのケースでは疑念がぬぐえない。
なぜ”無罪”判決となったのか
荒木弁護士は、無罪となった背景を次のように推察する。
「報道の内容を見る限りですが、輸入したDVDが正規品と全く変わらない見た目であったり、販売価格が不自然に安い金額での取引ではなかったりといった事情を考慮すれば、裁判官としては、被告人は海賊版だと思って購入していないと判断して、無罪判決になったのだと考えられます」
実際、見た目は不明だが、2万円で販売したという値段については、国内ネット通販で購入できる北米版の正規品と大きく変わらない。その意味では、不当に安く仕入れ、国内で利益を得ようとしたという悪質性はうかがわれない。
海賊版輸入が常に無罪になることはない
とはいえ、海賊版のDVDを輸入したうえで、故意が認められず無罪になったという裁判例は希少だ。荒木弁護士が補足する。
「今回はあくまでも事例判断のため、今後、海賊版を輸入して起訴された者に対して無罪判決が出やすくなるということにはなりません。特にDVDなどの電子媒体については、海賊版を容易に作成することができますので、海外からの輸入を検討されている方は、海賊版ではないか、十分に注意したうえで輸入する必要があります」
その上で、海外からの商品輸入全般についても、次のように注意喚起した。
「今回は海賊版DVDが問題となっていますが、近時の薬物事案では、海外の事業者から適法なCBDオイルと説明されて商品を輸入したところ、違法薬物が検出されて罪に問われるといった事案もあります。海外の事業者から輸入する際には、相手方が信用に値する者か、よく調べたうえで取引をするようにしましょう」(荒木弁護士)
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