妊娠発覚後、女性院長の嫌がらせ… 歯科医が「マタハラ被害」訴え、裁判所が「600万円超」支払いを命じるに至った決定的証拠

林 孝匡

林 孝匡

妊娠発覚後、女性院長の嫌がらせ… 歯科医が「マタハラ被害」訴え、裁判所が「600万円超」支払いを命じるに至った決定的証拠
妊娠後に院長らからマタハラを受けたものの、医院は何の措置もとらなかった…(polkadot / PIXTA)

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。女性歯科医師が受けたマタハラ事件です。

ーー 妊娠したらどんな嫌がらせを?

歯科医師のXさん
「患者さんを配転してくれなくなりました...。そして、歩合が減ってしまいました。医院がマタハラを改善してくれないので育休後に復職できない状況です」

ーー 裁判所さん、鉄槌を。

裁判所
「働けない原因は医院にあり。バックペイ600万円超を払え!」(東京地裁 R5.3.15)

バックペイとは過去の給料です。以下、わかりやすく解説します。

※ 争いを簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています

登場人物

▼ 会社
・西條麗子歯科医院(仮名)
・医療法人
・従業員21名

▼ 西條麗子(仮名)
・院長

▼ Xさん
・歯科医師

事件の概要

令和元年5月、Xさんが医院で働き始めます。

▼ 妊娠
令和2年9月18日、Xさんが院長に妊娠したことを伝えました。そして「つわりがひどいので1か月ほど休職したい」と申し入れました。

▼ 休職
そして、9月19日から10月30日まで休職しました。9月25日付の診断書には「1か月の休職が必要」との記載があります。

▼ 復職
11月1日、Xさんは復職します。

▼ 院長からの通告!
令和3年1月15日、院長がXさんに対して以下の連絡をしました。

「貴殿の母性健康管理措置による休暇に伴い、当院患者さんへの連絡については、当院が責任を持って行いますので、貴殿から当院の許可なく連絡することを禁止いたします。(中略)本件は個人情報管理責任もございますので、個人的な連絡は行わないよう厳守お願いいたします」

▼ マタハラ

ーー 妊娠が判明してからどんなことをされたんですか?

Xさん
患者さんを配転してくれなくなったんです。なので歩合が減ってしまいました...」

ーー 具体的には?

Xさん
「①診療予約の時間を実際より30分延長されて記載されていたので、その30分の間に予約が入らなかった可能性があるんです。また、②実際に担当することのない矯正の患者の予約を入れられていたので、その時間帯について予約が入らなかった可能性があるんです」

Xさん
「あと、院長や他の職員は、私の妊娠をやゆ、嫌悪する発言をしてきました...」

▼ その後の経緯は以下のとおりです。
1月18日
産婦人科から「自宅療養が必要」との診断が出たので2か月休職
3月30日
産前休業
5月14日
  出産 → 産後休業
7月10日〜
  育児休業

ーー 復職する意思はあったんですか?

Xさん
「はい。『翌年の令和4年5月14日から復職します』とお伝えしましたが、働けていません...」

ーー なぜ働けないんですか?

Xさん
「医院がマタハラを認めず、私の妊娠をやゆ、嫌悪する発言をしていた人たちに何の措置もとらないんです。院長にもやゆされました。このような医院の不作為は安全配慮義務に違反しています。私が働けない原因は医院側にあるんです」

▼ 提訴
Xさんは「働けない原因は医院側にある」として、働けない期間の給料などを求めて提訴しました。

ジャッジ

弁護士JP編集部

Xさんの勝訴です。

裁判所は、Xさんが働けない原因は医院側にあるとして600万円を超えるバックペイを命じました(月額約83万円×8か月)。

バックペイとは【働けなくなった日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】のことです(民法536条2項)。働いていなくてももらえます。会社からすればキョーレツです。

医院
「ちょっと待ってください! Xさんが復職できないことについて私どもに責任はありません。なぜならXさんが復職したとしても院長がXさんに対して指揮命令する場面はないからです。院長は訪問診療に関わっていますので院長とXさんが接触する時間は限定的なのです」

裁判所
「いや、医院に責任がありますね。院長は週1〜2回は医院に出勤する必要があるのですから、現時点においては安全配慮義務が尽くされているとは言えません」

▼ 録音はOK?

医院
「ちょっと待ってください! Xさんが提出した証拠は問題ありです。控室でのスタッフの会話や診療ブースでの患者との会話をこっそり録音しているからです。あと、診療録や予約表も勝手に写真撮影して裁判所に提出しています」

裁判所
「無問題。OKです。証拠としてアウトなのは著しく反社会的な手段を用いて集めてきた場合だけです。今回はそのようなケースに該当しません」

■ 補足
裁判所は、さすがに患者との会話をこっそり録音していたことについては「当該患者の人格権に関する侵害の度合いは高いことは否定できないが」と悩みを見せていました。が! 結論としては「著しく反社会的な手段を用いて採集されてものとまでは言えない」としてOKにしました。

こういうギリギリのケースはありますが、たとえば上司のパワハラ発言などは遠慮なく録音して裁判所に提出してOKです。

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最後に

妊娠、出産、育児休業などを理由に嫌がらせされそうなときは労働局雇用均等室に助けを求めてみましょう。

今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!

取材協力弁護士

林 孝匡 弁護士
林 孝匡 弁護士

【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。 HP:https://hayashi-jurist.jp X:https://twitter.com/hayashitakamas1

所属: PLeX法律事務所

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