大川原化工機事件 勾留中に貧血“放置”で「進行性胃がん」悪化し死亡も…国の責任認めず
「大川原化工機」の冤罪事件で、勾留中に見つかった胃がんによって亡くなった同社元幹部・相嶋静夫さんの遺族らが、がんが見つかった後も拘置所で適切な治療を受けられず死期が早まったとして国に1000万円の賠償を求めている民事裁判で、3月21日に東京地方裁判所(男澤聡子裁判官)は原告らの請求を棄却した。
「裁判官には想像力を働かせてもらいたかった」
請求棄却の判決後の記者会見で、相嶋静夫さんの長男は「父が拘置所の中でがんがわかってから受けた苦しみについて、裁判所に十分理解してもらえず残念だ。拘置所では医療に関する考え方が一般と違うということを、裁判所が追認してしまった。裁判で『(亡くなったのが)自分の家族だったらどう思うか』と司法関係者に投げかけたつもりだったが、実際に同じ立場にならないとわからないのかもしれない。裁判官には想像力を働かせてもらいたかった」と語った。
代理人の高田剛弁護士は、「拘置所医師の診断・医療行為が不適正だったのではないか。不適切だった場合、相嶋さんの早すぎる死との因果関係があったのではないか、が裁判の争点だった。しかし、今日の判決では因果関係の部分までいかず、そもそも拘置所医師の措置を『不適切とはいえない』と判断し、請求棄却となった」と判決内容を説明。
その上で「先ほど判決を受け取り一通り読んだが、われわれにとって説得的だったとは言えず、判決の理由についても正しいとは受け止めていない」と述べた。
今後について、相嶋さんの長男は「予定はわからない」としつつ、「父の無念を晴らしていけるよう活動していきたい」と話し、高田弁護士は「さまざまな観点から検討していく」と発言。控訴するかは断言しなかった。
相嶋さんは拘置所入所時に「貧血」判明していた
相嶋静夫さんは東京拘置所に入所する際の血液検査(2020年7月7日)でヘモグロビン値が低下しており「貧血」であることが判明していたが、本人にも数値が伝えられないまま放置されていた。
これについて国は、本人に自覚症状がないことや、拘置所では高齢の被収容者が相嶋さんと同程度の血色素の数値を示すのはよく見られることから特別視しなかったと主張していた。
8月28日、相嶋さんが胃痛を訴えた際も、拘置所は問診や身体診察を行わず「健胃薬」を処方。9月25日に貧血症状を発症し、輸血を実施するまで検査・治療は行われなかった。
その後、10月1日に行われた上部消化管内視鏡検査で幽門部付近に大きな潰瘍が発見され、同7日、病理検査の結果悪性腫瘍であったことが相嶋さん本人に告知。10月16日には勾留執行停止を受けて外部病院を受診し「進行胃がん」の診断が下された。
しかし、この間も保釈請求は却下され続けた。
11月5日に再びの勾留執行停止を受けて自宅に移った相嶋さんは、翌6日に入院。すでに肝臓への多発性転移が起こっていた。そして、2021年2月7日、相嶋さんは大川原化工機事件への「公訴取り消し」の報を聞くことなく(※)この世を去った。
※大川原化工機事件の公訴が取り消されたのは2021年7月30日だった。
被疑者は「受け入れ先病院」見つからない実態も…
相嶋さんのようなケース以外でも、勾留中の被疑者が外部の病院で診察・治療を望んでも、受け入れ先の病院が見つかりにくい実態がある。
相嶋さんの長男も21日の会見で、「私は事件を通じて、保釈されないと病院が見つからないことを初めて知った。しかし、その実態を裁判官や検察官は知っていたはずだ。それなのに、がんが見つかっても保釈を認めず『勾留執行停止』にしていたと思うと、悪質性を感じる」と憤った。
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