後遺障害の異議申し立て|等級認定に納得できない場合の対処法

  • (更新:2024年12月04日)
  • 交通事故
弁護士JP編集部 弁護士JP編集部
後遺障害の異議申し立て|等級認定に納得できない場合の対処法

交通事故による怪我で後遺症が生じてしまったときは、後遺障害等級申請を行うことができます。しかし、後遺障害等級申請を行ったとしても、納得いく結果が得られないケースも少なくありません。そのような場合には、異議申し立てをすることで当初の認定結果を覆せる可能性があります。

1. 後遺障害等級の異議申し立てとは?

後遺障害等級の異議申し立てとはどのような手続きなのでしょうか。以下では、後遺障害等級の異議申し立ての概要について説明します。

(1)異議申し立てをすべきケース

以下のようなケースに該当する場合、異議申し立てを検討すべきでしょう。

①非該当になった場合

後遺障害等級申請をしたにもかかわらず非該当になってしまうと、後遺障害の存在を前提とする「後遺障害慰謝料」や「後遺障害逸失利益」を請求することができません。後遺障害等級が認定されるか否かにより賠償額は大きく変動するので、異議申し立てを検討した方がよいでしょう。

②想定より低い等級と認定された場合

後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益は、認定された等級に応じて金額が変動し、より重い等級が認められた方が賠償額も大きくなります。

後遺障害等級が認定されたものの、想定よりも低い等級しか認定されなかった場合には、本来得られるはずの賠償金よりも少ない金額しか支払われないので、異議申し立てを検討した方がよいでしょう。

(2)異議申し立ての成功率

損害保険労率算出機構の「自動車保険の概況 2023年度版(2024年4月発行)」によると、令和4年度の審査件数が1万353件あり、そのうち等級変更がなされたものが1111件だったので、異議申し立ての成功率は約11%ということになります。

このような統計結果からもわかるように、異議申し立てをすれば必ず結果が覆るというわけではありません。当初の認定結果を覆すことができるような客観的証拠を準備することが重要になります。

(3)異議申し立てにかかる期間と費用

異議申し立てにかかる期間は、当初の後遺障害等級申請にかかった期間よりも若干長くなるケースが多いです。実際の期間はケースバイケースではありますが、目安としては2~4か月程度になります。

なお、異議申し立ては無料で行うことができます。

(4)異議申し立てはいつまでできる?

後遺障害の異議申し立ては、時効期間内であれば何度でも申し立てができます。

交通事故の被害者による自賠責保険への被害者請求の時効は症状固定から3年とされているので、時効間近の場合には、時効更新なども検討する必要があります。

2. 後遺障害等級の異議申し立て|手続きの流れ

以下では、異議申し立ての種類ごとに手続きの流れを説明します。

(1)異議申し立ての方法は3種類

後遺障害の異議申し立ての方法には、以下の3つの種類があります。

  1. 保険会社への申し立て
  2. 自賠責保険・共済紛争処理機構への申請
  3. 訴訟提起

このうち、保険会社への異議申し立ては、時効期間内であれば何度でもできますが、自賠責保険・共済紛争処理機構への申請は、1回のみしかできませんので注意が必要です。

(2)保険会社への異議申し立ての種類

保険会社への異議申し立てには、「事前認定」と「被害者請求」という2種類の方法があります。

①事前認定と被害者請求

②被害者請求がおすすめである理由

初回の後遺障害申請が「事前認定」だった場合、異議申し立ては「事前認定」と「被害者請求」のどちらでも選択できます。

他方、初回の後遺障害申請が「被害者請求」だった場合、「被害者請求」により異議申し立てを行うことになります。

当初、事前認定を利用した人は、異議申し立ての際に事前認定と被害者請求のどちらも選ぶことができるというメリットはありますが、迷ったときは被害者請求を選択するのがおすすめです。

被害者請求は、提出する書類などをすべて被害者側が準備しなければならないため被害者の負担が大きい手続きではあるものの、当初の認定を覆すために必要になる資料などを被害者が取捨選択できることから、審査の対策がしやすいです。また、被害者請求の場合、等級認定の結果通知とほぼ同時期に加害者側の自賠責保険会社から保険金の一部が支払われ、示談成立後にも加害者側の任意保険からの支払いを受けられるメリットがあります。それらの理由から、事前認定と被害者請求で迷うのであれば、被害者請求を選択することをおすすめします。

③被害者請求は時効に注意

自賠責保険への後遺障害慰謝料や逸失利益の請求には、3年という時効による期限があります。時効期間が経過してしまうと、保険金請求ができなくなってしまうので、それに間に合うように異議申し立てもしておく必要があります。

(3)保険会社への異議申し立ての流れ

①事前認定の流れ

・異議申し立てに必要になる追加書類を収集

異議申し立てにより結果を覆すためには、当初の認定結果や理由を分析し、不足する部分を補うための新たな証拠が必要になります。当初の後遺障害申請と同様の書類しか提出できない場合は結果が覆らないので、まずは異議申し立てに必要になる追加資料を集めましょう。

・異議申立書の作成、提出

追加書類の収集ができたら、それに基づき異議申立書を作成します。

事前認定により異議申し立てを行う場合は、加害者側の任意保険会社に異議申立書と追加資料を提出します。

・自賠責保険調査事務所による再審査

損害保険料算出機構の自賠責保険調査事務所において、異議申し立てを踏まえた再審査が行われます。当初の後遺障害申請と同じ機関により再審査がなされますが、慎重に判断をするために、外部の専門家(弁護士、専門医、学識経験者など)が審理に参加します。

・異議申し立て結果の通知

自賠責保険調査事務所による再審査が終わると、その結果が通知されます。

②被害者請求の流れ

・異議申し立てに必要になる追加書類を収集

事前認定と同様に、被害者請求でもまずは異議申し立てに必要になる追加資料を集めます。

・異議申立書の作成、提出

追加書類の収集ができたら、それに基づき異議申立書を作成します。

被害者認定により異議申し立てを行う場合は、自賠責保険会社に異議申立書と追加資料を直接提出します。

・自賠責保険調査事務所による再審査

損害保険料算出機構の自賠責保険調査事務所において、異議申し立てを踏まえた再審査が行われます。当初の後遺障害申請と同じ機関により再審査がなされますが、慎重に判断をするために、外部の専門家(弁護士、専門医、学識経験者など)が審理に参加します。

・異議申し立て結果の通知

自賠責保険調査事務所による再審査が終わると、その結果が通知されます。

被害者請求による異議申し立てで等級変更がされると、自賠責保険から直接保険金が支払われます。

(4)自賠責保険・共済紛争処理機構への申請の流れ

等級認定に不服があるときは、自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理の申請をすることができます。自賠責保険・共済紛争処理機構の紛争処理制度とは、公正中立かつ専門的知見を有する弁護士、医師などで構成される紛争処理委員会が等級認定の妥当性について審査を行う制度です。

紛争処理制度の流れは、以下のようになります。

①必要書類を収集

保険会社への異議申し立てと同様に、紛争処理の申請でもまずは当初の認定結果を覆すために必要になる追加資料を集めます。

②申請書の作成・提出

紛争処理申請書を作成して、東京の本部または大阪の支部に必要書類を提出します。

③受理判断

自賠責保険・共済紛争処理機構では、保険会社などから一件書類を取り付けて、申請を受理するかどうかの判断を行います。

④受理または不受理

受理判断の結果、申請が受理されると受理通知が申請者などに送付されます。他方、申請が不受理の場合、不受理通知が送られてきます。

⑤紛争処理委員会での審査

申請が受理された後は、紛争処理委員会で等級認定の妥当性について審査が行われます。

⑥結果の通知

紛争処理委員会での審査結果が申請者などに通知されます。

(5)訴訟提起の流れ

保険会社への異議申し立てや自賠責保険・共済紛争処理機構への紛争処理の申請で納得いく結果が得られなかった場合、最終的に裁判所に訴訟を提起することになります。

訴訟提起の流れは以下のようになります。

  • 原告による訴状の作成、提出
  • 被告による答弁書の作成、提出
  • 第1回口頭弁論期日
  • 続行期日
  • 和解勧試
  • 証拠調べ期日(証人尋問、当事者尋問)
  • 判決

なお、裁判所は、自賠責保険の等級認定結果を重視するので、異議申し立てで十分争うことなく安易に訴訟提起するのは避けましょう。訴訟提起をすべきケースは、自賠責保険の認定ルールでは等級認定されないものの、看過できない残存症状がある場合などになります。

3. 異議申し立ての必要書類

以下では、異議申し立ての必要書類を説明します。

(1)保険会社への異議申し立てでの必要書類

保険会社への異議申し立てをする際の必要書類と異議申立書の書き方をみていきましょう。

①必要書類

【必須書類】
  • 異議申立書
【任意書類】
  • 新たな後遺障害診断書
  • 医師の意見書
  • カルテ
  • CTやMRIなどの検査画像
  • 神経学的検査の結果
  • 日常生活状況の報告書
  • 被害者本人の陳述書

②異議申立書の書き方(テンプレート・雛形つき)

異議申立書の記載事項には、おもに以下のようなものがあります。

  • 宛先……加害車両に付保された自賠責保険会社を記載します
  • 日付……申立書作成日を記載します
  • 申立人……被害者本人の住所、氏名、連絡先を記載します
  • 証明書番号……加害者加入の自賠責保険の証明書番号を記載します
  • 被害者名……被害者の氏名を記載します
  • 事故発生年月日……事故の発生年月日を記載します
  • 添付資料……新たに添付する資料の名称を記載します
  • 異議申し立ての趣旨……等級変更を求める旨の記載をします
  • 異議申し立ての理由……等級変更を求める理由を記載します

どのような症状でもお使いいただけるテンプレートと、むちうち症で後遺障害等級認定が非該当になってしまった場合の異議申立書の例を用意しました。等級の変更の場合なども、この雛形の内容を変更すれば使用可能なので、ぜひ参考にしてみてください。

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異議申立書テンプレート

異議申立書 テンプレート

異議申立書の汎用テンプレートです。どのような症状の場合もお使いいただけます。データをダウンロード後、データ内コメント欄を参考に、ご自身の申し立て内容を書き込んでご使用ください。

ダウンロード(Word形式)
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異議申立書 むちうち症例

異議申立書 むちうち症例

むちうち症の場合の異議申立書の例です。むちうち症で後遺障害認定を申請し非該当となったケースの申し立てを想定しています。同様のケースではもちろん、他の後遺障害のケースの場合でも参考となる場合がありますので、ぜひご一読ください。

ダウンロード(Word形式)
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(2)自賠責保険・共済紛争処理機構への申請の必要書類

自賠責保険・共済紛争処理機構への申請の際の必要書類は、以下のとおりです。

【必須書類】
  • 紛争処理申請書
  • 医療照会等の同意書
  • 交通事故証明書
  • 保険会社・共済組合からの通知書(回答書)
【任意書類】
  • 新たな後遺障害診断書
  • 医師の意見書
  • カルテ
  • CTやMRIなどの検査画像
  • 神経学的検査の結果
  • 日常生活状況の報告書
  • 被害者本人の陳述書

なお、以下のようなケースに該当する場合には、自賠責保険・共済紛争処理機構の紛争処理制度を利用することはできません。

  • すでに調停や訴訟中、もしくは紛争が解決している
  • 自賠責保険・紛争処理機構以外の機関に解決のための申し出をしている
  • 申請が不当目的と認められた場合
  • 権限のない代理人が申請している場合
  • 弁護士法72条の違反疑いがある場合
  • 自賠責保険からの既払い額に影響がない場合
  • 過去に自賠責保険・紛争処理機構を利用している事案
  • 自賠責保険への請求がない場合や自賠責保険への契約がない場合

4. 異議申し立てが成功しやすいケースと成功させるためのポイント

以下では、異議申し立てが成功しやすいケースと成功させるためのポイントを説明します。

(1)異議申し立てが成功しやすいケース

異議申し立てが成功しやすいケースとしては、以下のようなケースが挙げられます。

  • 当初の後遺障害等級申請で後遺障害診断書に症状の記載漏れがあったケース
  • 当初の後遺障害等級申請で必要な検査が行われていなかったケース
  • 症状の主張、立証が不十分であったケース

(2)異議申し立てを成功させるためのポイント

異議申し立てを成功させるためにも、以下のポイントを押さえておきましょう。

①認定されなかった理由の分析

当初の後遺障害の認定結果や理由を踏まえて、非該当になった理由や想定していた等級ではなかった理由を分析することが重要です。

認定されなかった理由を分析することで、どのような追加資料が必要になるかが見えてくるでしょう。

②証拠資料の追加

異議申し立てをしても、新たな証拠資料を提出できなければ結果を覆すことはできません。前回の審査で何が足りなかったのかを分析し、不足していた証拠資料を取り付けるようにしましょう。

③交通事故事案に詳しい弁護士や専門医に協力してもらう

異議申し立てを成功させるには、認定されなかった理由の分析と新たな証拠資料の収集が不可欠となります。それには専門的な知識や経験が必要になるため、異議申し立ての成功率を少しでも高めるには、交通事故事案に詳しい弁護士や専門医の協力が不可欠となります。

自分で対応が難しいと感じるときは、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

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