交通事故のADR(裁判外紛争解決手続き)とは|各機関の役割や相談方法

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交通事故のADR(裁判外紛争解決手続き)とは|各機関の役割や相談方法

交通事故の損害賠償は、示談交渉や訴訟以外に「交通事故ADR」を利用して請求することもできます。交通事故ADRの特徴を正しく理解し、適切な準備を整えた上で利用しましょう。

1. 交通事故ADRとは|できることとメリット・デメリット

交通事故ADRは、交通事故の被害者が損害賠償を請求する手続きの一つです。ADRによってできることやメリット・デメリットを正しく理解した上で、示談交渉や訴訟との間で使い分けましょう。

(1)交通事故ADRとは

「交通事故ADR(裁判外紛争解決手続き)」は、裁判所以外の第三者機関を通じて交通事故紛争の解決を図る手続きです。

交通事故ADRは、主に加害者が任意保険へ加入しており、保険会社との間で示談交渉が難航している場合に利用します。

示談交渉がまとまらないときは、訴訟を提起することも有力な選択肢です。しかし、迅速性や柔軟性などのメリットを重視して、訴訟ではなく交通事故ADRが選択されるケースがあります。

(2)交通事故ADRでできること

交通事故ADRを取り扱う機関は、主に以下の業務を行っています。

①法律相談

相談担当弁護士などに対し、交通事故の損害賠償やADRの利用に関して相談することができます。

②和解あっ旋

中立の弁護士などが間に入り、被害者と保険会社の間の和解成立をサポートします。

③審査

弁護士・法学者・裁判官経験者などで構成される審査会が、交通事故の損害賠償の内容を決定します。保険会社は審査結果を尊重することになっています。

ただし、そんぽADRセンターは審査を行っていません。

なお、交通事故ADRの対象となるのは、原則として加害者が任意保険に加入している場合のみです(自賠責保険・共済紛争処理機構のADRを除く)。

加害者本人に対する損害賠償請求については、一部の例外を除き、交通事故ADRの対象外とされています。

(3)交通事故ADRのメリット・デメリット

交通事故ADRのメリットは、損害賠償請求に関する紛争を迅速かつ柔軟に解決できる点です。

訴訟には半年から1年以上の期間を要するケースが多いですが、交通事故ADRは2~3か月程度で完了するため、早期に損害賠償を受けることができます。

また、法律のルールだけに縛られることなく、実情に応じた柔軟な解決が可能である点も、交通事故ADRのメリットです。

その一方で、交通事故ADRは不成立となるケースがあるほか、加害者本人に対する損害賠償請求などは対象外とされています。

また、交通事故ADRを申し立てても、損害賠償請求権の消滅時効の完成は猶予されません。時効完成を阻止するには、内容証明郵便の送付や訴訟の提起などが別途必要です。

2. 交通事故ADRを取り扱う機関|特徴と選び方

交通事故ADRは、複数の機関が取り扱っています。各機関の特徴を踏まえた上で、状況に応じてADRの申し立て先を選択しましょう。

(1)交通事故ADR機関の種類と特徴

交通事故ADRは、主に以下の機関が取り扱っています。

①交通事故紛争処理センター

学識経験者と弁護士が理事として運営するADR機関です。

(参考:「公益財団法人交通事故紛争処理センター」)

②日弁連交通事故相談センター

日本弁護士連合会(日弁連)が設立し、弁護士が中心となって運営するADR機関です。

(参考:「公益財団法人日弁連交通事故相談センター」)

③そんぽADRセンター

損害保険会社を会員とする一般社団法人が運営するADR機関です。

(参考:一般社団法人日本損害保険協会「相談対応、苦情・紛争の解決(そんぽADRセンター)」)

④自賠責保険・共済紛争処理機構

自賠責保険・共済に関する紛争解決を取り扱うADR機関です。

(参考:「指定紛争処理機関 一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構」)

(2)ADR機関の選び方

自賠責保険から支払われる保険金額や、後遺障害等級認定の結果について不服を申し立てたい場合は、自賠責保険・共済紛争処理機構に調停を申し立てましょう。

任意保険会社との示談交渉がまとまらないときは、交通事故紛争処理センター・日弁連交通事故相談センター・そんぽADRセンターの中からADR機関を選択します。

交通事故紛争処理センター・日弁連交通事故相談センター・そんぽADRセンターの交通事故ADRでは、いずれも弁護士などの有識者が中立の立場で紛争解決を図ります。利用料金はいずれも無料です。

交通事故紛争処理センターと日弁連交通事故相談センターを利用する場合、和解が成立しない場合は審査を申し立てることができます。これに対して、そんぽADRセンターは審査を行っていません。

審査によって結論を示してもらいたいなら、交通事故紛争処理センターと日弁連交通事故相談センターのいずれかを選択しましょう。

交通事故紛争処理センターと日弁連交通事故相談センターの2つには、特に大きな違いはありません。ただし、保険会社によってはどちらかしか対応していないケースもあります。

3. 交通事故ADRの利用準備・手続き

交通事故ADRを利用する際の事前準備と、手続きの流れを解説します。

(1)交通事故ADRを利用する前の準備

交通事故ADRを申し立てる際には、以下の書類などを提出する必要があります。

  • 申出書(申立書)
  • 事故状況に関する書類(交通事故証明書、実況見分調書など)
  • 相手方が作成した示談金額の提示書類
  • 損害に関する書類(診断書、領収書、休業損害証明書、修理費の請求書など)
  • 委任状(代理人がいる場合)

など

ADR機関に提出する書類は、被害者側として主張する損害賠償責任を十分立証し得るものでなければなりません。弁護士のサポートを受けながら、慎重に書類を準備した上で提出しましょう。

(2)交通事故ADRを利用する際の手続きの流れ

交通事故ADRを利用する際の手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。

①ADRの申し出(申し立て)

ADR機関に対して、交通事故ADRの利用を申し立てます。

②相談

相談担当弁護士などに対して、損害賠償請求やADRの利用について相談します。

③和解あっ旋

弁護士などが当事者双方の主張を公平に聴き取り、歩み寄りを促すなどして和解成立をサポートします。双方が和解案を受け入れれば、合意書を作成してADRが終了します。

④審査

交通事故紛争処理センターと日弁連交通事故相談センターでは、和解が成立しなかった場合に、当事者の申し出によって審査を行います。

弁護士や学識経験者などで構成される審査会は、交通事故の損害賠償の内容を決定し、当事者双方に通知します。

被害者側が審査結果を受け入れるかどうかは任意ですが、保険会社は審査結果を尊重するものとされています。

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  • こちらに掲載されている情報は、2024年10月24日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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