事業承継税制とは? 相続税・贈与税を実質“ゼロ”にする方法

  • 遺産相続
弁護士JP編集部 弁護士JP編集部
事業承継税制とは? 相続税・贈与税を実質“ゼロ”にする方法

事業承継に当たって、自社株式にかかる贈与税や相続税の負担を回避するためには「事業承継税制」の申請・利用が効果的です。
このページでは、事業承継税制について解説します。

1. 事業承継税制とは

事業承継税制とは、事業承継時にかかる贈与税・相続税の納付が猶予された後、最終的に免除が認められる制度です。
事業承継に伴う後継者の税負担を軽減するため、事業承継税制を効果的に活用しましょう。

(1)事業承継時の贈与税・相続税が「実質免除」される

事業承継税制は、後継者が事業を継続することなどを条件として、自社株式の承継に当たって生じる贈与税や相続税を実質的に免除する制度です。
親族への承継に限らず、従業員の内部昇格や外部経営者への承継の場合でも、要件を満たせば事業承継税制を利用できます。

事業承継税制には、恒久的に設けられている「一般措置」と、期間限定で設けられている「特例措置」の2種類があります。
特例措置については事前の計画策定や適用期限などが設けられていますが、税制優遇の効果は一般措置よりも大きくなっています。

このページでは、事業承継税制の特例措置(=特例事業承継税制)について解説します。

事業承継対策については、以下のページをご参照ください。

事業承継対策とは? 解決すべき3つの問題と有効な対策

(2)事業承継税制を利用するための要件

事業承継税制の特例措置を利用する際には、後継者や経営見通しなどを記載した「特例承継計画」を策定し、認定経営革新等支援機関(税理士、商工会、商工会議所など)の所見を記載した上で、令和8年(2026年)3月31日までに都道府県知事に提出して確認を受けなければなりません。

また、以下の要件を満たす必要があります。

  • 会社の要件
  • 先代経営者の
  • 後継者の要件
  • 担保提供
  • 事業承継から5年間守るべき要件

さらに、猶予された納税義務が最終的に免除されるためにも、一定の要件を満たす必要があります。

次の項目から、事業承継税制の各利用要件を解説します。

2. 事業承継税制の要件1|会社の要件

事業承継税制を利用できるのは「中小企業者」に限られます。
中小企業者とは、「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する従業員の数」について、下表の条件をいずれも満たす事業者です。

業種 資本金の額または出資の総額 常時使用する従業員の数
製造業、建設業、運輸業 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
サービス業
※ソフトウエア業、情報処理サービス業、旅館業を除く
5000万円以下 100人以下
小売業 5000万円以下 50人以下
ゴム製品製造業
※自動車・航空機用タイヤ、チューブ製造業、工業用ベルト製造業を除く
3億円以下 900人以下
ソフトウエア業または情報処理サービス業 3億円以下 300人以下
旅館業 5000万円以下 200人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

ただし、中小企業者に当たる場合でも、上場会社・風俗営業会社・資産管理会社については事業承継税制を利用できません。

3. 事業承継税制の要件2|先代経営者の要件

自社株式の贈与者または被相続人である先代経営者においては、以下の要件をすべて満たす必要があります。

①贈与の場合

  1. 会社の代表権を有していたこと
  2. 贈与の直前において、贈与者および贈与者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
  3. 贈与の時において、会社の代表権を有していないこと

②相続の場合

  1. 会社の代表権を有していたこと
  2. 贈与の直前において、贈与者および贈与者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと

※贈与または相続開始の直前において、すでに事業承継税制の適用を受けている者がいる場合は、(a)(b)の要件は不要(①②いずれも同様)

4. 事業承継税制の要件3|後継者の要件

事業承継によって自社株式を取得する後継者においては、以下の要件をすべて満たす必要があります。

①贈与の場合

  1. 贈与の時において、会社の代表権を有していること
  2. 贈与の日において、18歳以上であること
  3. 贈与の日まで引き続き3年以上、会社の役員であること
  4. 贈与の時において、後継者および後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することとなること
  5. 贈与の時において、後継者の有する議決権数が次のいずれかに該当すること
  • 後継者が1人の場合
    →後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で、最も多くの議決権数を保有することとなること
  • 後継者が2人または3人の場合
    →総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で、最も多くの議決権数を保有することとなること

②相続の場合

  1. 相続開始の日の翌日から5か月を経過する日において、会社の代表権を有していること
  2. 相続開始の時において、後継者および後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することとなること
  3. 相続開始の時において、後継者の有する議決権数が次のいずれかに該当すること
  • 後継者が1人の場合
    →後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で、最も多くの議決権数を保有することとなること
  • 後継者が2人または3人の場合
    →総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で、最も多くの議決権数を保有することとなること
  1. 相続開始の直前において、会社の役員であること(被相続人が70歳未満で死亡した場合、および後継者が都道府県知事の確認を受けた特例承継計画に記載されている者である場合を除く)

5. 事業承継税制の要件4|担保提供

事業承継税制を利用する際には、納税が猶予される贈与税または相続税と利子税に見合う担保を、税務署に提供する必要があります。

ただし、事業承継税制の適用を受ける自社株式のすべてを担保として提供した場合は、必要な担保の提供があったものとみなされます。

6. 事業承継税制の要件5|事業承継から5年間守るべき要件

事業承継税制による納税猶予を継続するためには、贈与税または相続税の申告期限の翌日以後5年間(=特例経営承継期間)、以下の要件をいずれも満たす必要があります。

  1. 事業承継税制の適用を受けた自社株式をすべて保有し続けること
  2. 会社の代表権を保有し続けること
  3. 会社を資産管理会社に転換しないこと
  4. 5年間の平均雇用を、贈与時または相続時の雇用の8割以上に維持すること

上記の要件を満たさなくなった場合は、納税が猶予されている贈与税または相続税を、利子税と併せて納付しなければなりません。

ただし、上記(d)の雇用維持要件については、以下のやむを得ない事由がある場合を除きます。

<雇用維持要件に関するやむを得ない事由>

  • 障害等級1級の精神障害者保健福祉手帳の交付を受けたこと
  • 身体障害1級または2級の身体障害者手帳の交付を受けたこと
  • 要介護5の認定を受けたこと
  • 上記の各事由に類すると認められること

7. 事業承継税制の要件6|最終的に納税義務が免除されるための要件

事業承継税制によって納税が猶予された贈与税または相続税は、次の後継者に対する事業承継等が行われた時点で免除されます。

納税義務が免除される主な場合は、以下のとおりです。

  1. 先代経営者が死亡した場合(贈与の場合に限る)
  2. 後継者が死亡した場合
  3. 特例経営承継期間内において、やむを得ない理由により会社の代表権を有しなくなった日以後に免除対象贈与(※)を行った場合
  4. 特例経営承継期間の経過後に免除対象贈与を行った場合
  5. 特例経営承継期間の経過後において、会社について破産手続開始の決定などがあった場合
  6. 特例経営承継期間の経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合において、事業譲渡や会社の解散をした場合

※免除対象贈与:事業承継税制(特例措置または一般措置)を利用した自社株式の贈与

上記のとおり、後継者の死亡または事業承継税制を利用した自社株式の贈与があった場合には、納税義務が免除されます。
ただし後継者の死亡時には、後継者から次の後継者への相続に関して相続税の負担が発生するため、再び事業承継税制を活用することが推奨されます。

弁護士JP編集部
弁護士JP編集部

法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2024年08月26日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

お一人で悩まず、まずはご相談ください

まずはご相談ください

遺産相続に強い弁護士に、あなたの悩みを相談してみませんか?

弁護士を探す