ネットの誹謗中傷で加害者は逮捕されない? 逮捕できるケースを解説
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インターネット上での誹謗中傷は、自殺者が出るなど深刻な社会問題となっています。悪質な誹謗中傷に関しては、刑法上の罪に該当し、刑事処分の対象にもなります。
しかし、実際にはインターネット上の誹謗中傷で逮捕されたという事例は多くはありません。それにはどのような理由があるのでしょうか。
本コラムでは、インターネット上の誹謗中傷における加害者の刑事責任について解説します。
1. 誹謗中傷で加害者が逮捕されないケースが多い理由
インターネット上の誹謗中傷で加害者が逮捕されないケースが多いのは、以下のような理由があるからです。
(1)誹謗中傷は被害者が「告訴」しないと起訴できない
誹謗中傷により成立し得る「名誉毀損罪」や「侮辱罪」は、被害者の告訴がなければ起訴することができない親告罪に該当します。
インターネット上で誹謗中傷がなされたとしても、被害者からの告訴がなければ警察が捜査に動くこともないため、結果として逮捕に至らないケースが多くなります。
(2)逮捕要件を満たさないケースが多い
刑法上の犯罪行為に該当するような誹謗中傷がなされたとしても、それだけでは警察は加害者を逮捕することはできません。逮捕には、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由に加えて、「逃亡のおそれ」または「罪証隠滅のおそれ」という要件が必要になります。
インターネット上の誹謗中傷では、このような要件を満たさないケースが多いため、逮捕されないケースが多いといえます。
(3)逮捕が最優先とは限らない
インターネット上で誹謗中傷がなされた場合、被害者にとっては、加害者の逮捕よりも情報の拡散を防ぐことが最優先となります。
情報の拡散を防ぐには、当該投稿の削除請求などの民事上の手続きを進める必要があり、刑事上の責任追及が後回しになってしまうのも逮捕が少ない理由のひとつといえます。
2. 加害者が逮捕されるケースと実際の事例
以下では、インターネット上の誹謗中傷で加害者が逮捕されるケースと実際の事例を紹介します。
(1)誹謗中傷で追及できる刑事責任
インターネット上で誹謗中傷がなされると、以下のような犯罪が成立する可能性があります。
①名誉毀損罪
名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示して他人の社会的評価を下げるような行為をした場合に成立する犯罪です(刑法230条1項)。
- ○○は職場の女性と不倫している
- ○○は過去に○○罪で逮捕されたことがある
などと、具体的な事実を摘示して誹謗中傷をすると名誉毀損罪が成立し、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処せられます。
②侮辱罪
侮辱罪とは、事実を摘示することなく公然と他人の社会的評価を下げるような行為をした場合に成立する犯罪です(刑法231条)。
- ○○はデブだ
- ○○は頭が悪い
などと、具体的な事実を摘示することなく誹謗中傷をすると侮辱罪が成立し、以下のいずれかの刑が科されます。
- 1年以下の懲役または禁錮
- 30万円以下の罰金
- 拘留
- 科料
③信用毀損罪
信用毀損罪とは、虚偽の風説の流布または偽計を用いて、他人の信用を毀損した場合に成立する犯罪です(刑法233条)。
- ○○社は経営状態が悪化しており、もうすぐ倒産する
- ○○店で食べた定食にゴキブリが混入していた
などと根拠のない事実を述べて誹謗中傷すると信用毀損罪が成立し、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。
④脅迫罪
脅迫罪とは、他人の生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を加える旨を告知して脅迫した場合に成立する犯罪です(刑法222条)。
- お前を殺してやる
- 家族を痛い目にあわせてやる
- SNSで悪事を暴露してやる
などと脅迫して誹謗中傷すると脅迫罪が成立し、2年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。
(2)誹謗中傷の加害者が逮捕されるケースの例
インターネット上で誹謗中傷をした加害者が逮捕されるケースとしては、以下のようなケースが考えられます。
①悪質性の高いケース
誹謗中傷の中でも特に悪質性の高いケースについては、加害者が逮捕される可能性があります。
- 長期間にわたり執拗に誹謗中傷を繰り返している事案
- リベンジポルノなど被害者に回復困難な損害が生じるおそれのある事案
- 有名人に対する誹謗中傷など著しく社会的な評価を低下させるおそれのある事案
②証拠隠滅のおそれがあるケース
インターネット上での誹謗中傷は、当該投稿やアカウントを削除することで容易に証拠隠滅が可能です。そのため、証拠隠滅のおそれという逮捕の要件を満たすケースは少なくないでしょう。
③逃亡のおそれがあるケース
インターネット上で誹謗中傷をした加害者に以下のような事情がある場合には、逃亡のおそれが認められる可能性があります。
- 前科がある
- 執行猶予中である
- 定職に就いていない
- 家族がおらず単身で生活している
(3)実際の逮捕事例
誹謗中傷で実際に逮捕された事例には、以下のようなものがあります。
①SNSで誹謗中傷をした事例
SNSで「さまざまな女ユーザーに迷惑行為を行い、最終的にはそんなことやっていないと逃げ惑っている」などの誹謗中傷の書き込みをした無職の少年(19歳)が名誉毀損の疑いで逮捕されました。
この事件では、被害を受けた高校3年の男子生徒が自殺しています。
②ビラにより誹謗中傷した事例
病院内の女子トイレに「○○は最低最悪の人間です。存在価値がありません」と記載されたビラを貼りつける方法で誹謗中傷を行った20代の女性研修医が名誉毀損の疑いで逮捕されました。
3. 逮捕する以外の法的措置
誹謗中傷の被害を受けた場合、逮捕以外にも以下のような法的措置をとることができます。
(1)民事訴訟での損害賠償請求
誹謗中傷により権利を侵害された被害者は、加害者に対して、慰謝料の支払いを求める損害賠償請求が可能です。
誹謗中傷を理由とする慰謝料の金額は、侵害された権利の内容(名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害など)により異なりますが、10~50万円程度が相場になります。
また、誹謗中傷により名誉を毀損された被害者は、名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求めることもできます。ただし、損賠賠償請求とは異なり、謝罪広告の掲載は被害者の権利侵害が認定されたとしても常に認められるわけではありません。
(2)被害者による発信者情報開示請求
インターネット上での誹謗中傷は、ほとんどのケースが匿名での投稿になります。そのため、加害者に対して民事上の責任追及をするためには、まずは加害者を特定する必要があります。
加害者を特定するには、発信者情報開示請求という方法をとる必要があり、具体的には以下のような手続きになります。
- サイト管理会社に対するIPアドレスの開示請求(仮処分)
- プロバイダに対する発信者情報開示請求(訴訟)
このような発信者情報開示請求は、非常に専門的な手続きです。自分で対応するのではなく弁護士に依頼して行うようにしましょう。
(3)プロバイダ責任制限法に基づく削除請求
誹謗中傷の書き込みを放置していると情報が拡散してしまい、被害者には回復困難な損害が生じるおそれがあります。そのため、誹謗中傷の書き込みを発見したときは、すぐに削除請求を行うようにしましょう。
削除請求の方法には、以下の手段がありますので、状況に応じて適切な手段を選択することが大切です。
- ウェブフォームからの削除依頼
- ガイドラインに則った削除依頼
- 投稿の削除を求める仮処分
4. 誹謗中傷対策のポイント
誹謗中傷の被害を受けたときは、以下のようなポイントを押さえて対策を講じていきましょう。
(1)証拠の保全が重要
誹謗中傷の投稿の存在に気づいたときは、スクリーンショットや当該ページの印刷、動画の保存などの方法で証拠を保全しておくことが大切です。
なぜなら、インターネット上での誹謗中傷は、簡単に削除ができてしまい、証拠がなければ誹謗中傷をされたことを証明できないからです。
(2)専門家への相談を検討する
インターネット上の誹謗中傷に対抗するには、専門的な知識が必要になります。そのため、専門家への相談が早期解決のための近道になります。自分ひとりで解決しようとするのではなく、すぐに警察や弁護士などの専門家に支援を求めるようにしましょう。
(3)早期対応がカギとなる
インターネット上の誹謗中傷は、すぐに情報が拡散してしまいますので、被害を最小限に抑えるには、早期に対応することが重要です。
また、IPアドレスなどの加害者の特定に必要な情報は、3~6か月程度で削除されてしまい、時間が経てば経つほど加害者の特定が困難になります。そのため、誹謗中傷の被害に気づいたときは、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2024年10月10日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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