産業財産権とは?4種類それぞれの特徴、出願前にすべきこと等を解説

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産業財産権とは?4種類それぞれの特徴、出願前にすべきこと等を解説

知的財産権のうち、特許権・実用新案権・意匠権・商標権の4つを「産業財産権」といいます。
このページでは、産業財産権について解説します。

1. 産業財産権とは

産業財産権(工業所有権)とは、知的財産権である「特許権」「実用新案権」「意匠権」「商標権」の総称です。

「知的財産権」とは、無体物の創出者に対して与えられる権利です。
無体物には所有権が認められませんが、その代わりに知的財産権が認められます。知的財産権を有する者は、対象となる知的財産について独占権が与えられます。

知的財産権の中でも、産業上利用されるものを保護する「特許権」「実用新案権」「意匠権」「商標権」の4つが「産業財産権」と総称されています。

①特許権

発明(=自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの)を保護する権利です。
(例)産業用ロボット、薬品、ソフトウエアなど

②実用新案権

発明に至らない程度の、自然法則を利用した技術的思想の創作を保護する権利です。
(例)ペットボトルのキャップ、消しゴム付き鉛筆など

③意匠権

デザインを保護する権利です。
(例)商品や建築物の形状、パッケージデザイン、店舗の特徴的なレイアウトなど

④商標権

自社の商品やサービスを、他社のものと識別するための標章(文字やマークなど)を保護する権利です。
(例)商品やサービスの名称、ブランド名、ロゴマークなど

なお、産業財産権以外の知的財産権の例としては、著作権などが挙げられます。

知的財産権の種類にはどんなものがあるか?それぞれの内容を解説

(1)産業財産権の機能・役割

産業財産権には主に以下の機能と役割があります。

競争優位の確保

→技術やデザインなどを独占的に利用できることによって、他社との差別化が可能となり、競争優位を確保できます。
(例)特許技術の活用により、他社製品にはない機能を搭載した商品を販売できるようになった。

ブランド価値の向上

→産業財産権の登録を受けていることを対外的に表示することにより、企業やその商品に対する高い信頼を得ることができます。
(例)特許登録を受けている旨を記載するようになってから、商品の売上が向上した。

他社による模倣の防止

→産業財産権の対象となっている技術・デザイン・商標を無断で利用している他社に対しては、差止めや損害賠償などを請求できます。
(例)特許登録を受けている技術を無断利用した製品を発売している他社に対して、その製品の販売停止と自主回収、さらに損害賠償を請求した。

(2)産業財産権に関するトラブルの具体例

産業財産権に関しては、対象となっている技術・デザイン・商標の無断利用に関して、権利者と侵害者の間でトラブルが発生することがあります。

(例)

  • A社が特許権を有する発明を、B社が無断で実施して、A社製品と類似の製品を開発および販売した。
  • C社が意匠権を有するデザインを盗用して海外で製造された類似品製品を、D社が国内で販売する目的で輸入した。
  • E社の登録商標をF社が無断で使用して、E社製品とよく似た名称の類似品を販売した。

など

2. 産業財産権の種類

産業財産権には、「特許権」「実用新案権」「意匠権」「商標権」の4種類があります。いずれも、特許庁に対する出願を行い、審査によって認められて初めて発生する権利です。

(1)特許権

「特許権」は、産業上利用することのできる発明を保護する権利です。「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいいます。

特許権の審査においては、主に「新規性」と「進歩性」を満たしているかどうかが審査されます(特許法29条)。

①新規性

特許出願前の段階で公然と知られている発明については、特許権の登録を受けることができません。

②進歩性

特許出願前の段階で、当業者※が公知または公用の発明に基づいて容易に生み出すことのできたと評価される発明については、特許権の登録を受けることができません。
※当業者=その発明の属する技術分野において通常の知識を有する者

特許権の存続期間は、特許出願の日から20年です(同法67条1項)。その間、特許権者は特許発明を独占的に業として実施することができます。

(2)実用新案権

「実用新案権」は、産業上利用することのできる考案を保護する権利です。
「考案」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作をいいます。特許権の対象となる「発明」とは異なり、高度である必要はありません。

実用新案権についても、特許権と同様に新規性と進歩性が登録要件とされています(実用新案法3条)。
ただし、進歩性については特許権よりも緩やかに認められるほか、出願審査の段階では実体的な審査が行われないため、特許権よりも登録を受けやすいのが実用新案権の大きな特徴です。

その反面、実用新案権に基づく差止請求などを行う際には、事前に特許庁長官が発行する実用新案技術評価書を提示して警告をしなければなりません(同法29条の2)。

実用新案権の存続期間は、実用新案登録出願の日から10年とされています(同法15条)。

(3)意匠権

「意匠権」は、物品や建築物などのデザインを保護する権利です。

意匠権の審査においては、以下の各点などが審査の対象になります。

  • 工業上利用できるかどうか(大量生産が可能かどうか)
  • 新規性(今までにない新しいデザインかどうか)
  • 当業者が容易に創作できるデザインでないかどうか
  • 先に出願された意匠と同一、または類似していないかどうか

など

意匠権の出願前に公開された意匠については、原則として新規性の要件を満たさず、意匠登録を受けることができません(意匠法3条)。
ただし、やむを得ず出願前に意匠を公開した場合には、例外規定の適用を受けることにより、意匠登録が認められることがあります(同法4条)。

意匠権の存続期間は、原則として意匠登録出願の日から25年です(同法21条1項)。
ただし関連意匠の意匠権は、基礎意匠に係る意匠登録出願の日から25年に限り存続します(同条2項)。

(4)商標権

「商標権」は、商品やサービスの名称・ブランド名・ロゴマークなどの商標を保護する権利です。
商標権者は、登録に係る指定商品または指定役務について、登録商標を独占的に使用することができます。

商標権者以外の者は、指定商品(役務)またはそれと類似した商品(役務)について、登録商標またはそれと類似した商標を使用することができません。
また、一般に広く認識されている商標については、「防護標章」の登録を受けることにより、指定商品(役務)と類似していない商品(役務)においても、登録商標またはそれと類似した商標の使用を禁止することができます(商標法64条)。

商標権の登録を受けることができるのは、原則として出願者自身の業務において使用する商標です。ただし、例外的に団体商標や地域団体商標が認められることもあります(同法7条、7条の2)。

商標権の存続期間は、設定登録の日から10年です(同法19条1項)。また、存続期間が満了するごとに更新が認められています(同条2項、3項)。

3. 産業財産権の出願をする際の注意点

産業財産権の出願は、特許庁に対して行います。願書に加えて、権利の種類に応じた出願書類を添付して、特許庁に提出する必要があります。

特許庁のウェブサイトを参照して、出願手続きの流れを確認しておきましょう。

参考:「出願の手続」(特許庁)

産業財産権には、同一または類似の知的財産については最初に出願した人だけが権利を取得できる「先願主義」が採用されています。
出願しようとしている技術・デザイン・商標について、すでに同一または類似の出願がなされていないかどうかを確認しましょう。先行する出願の内容については、「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」などで確認することができます。

参考:特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)

実際に産業財産権の出願を行う際には、弁理士に出願手続きを依頼しましょう。先行技術等の調査や出願書類の準備を適切に進めてもらうことができます。

4. 産業財産権を侵害されたと思ったら弁護士に相談を

自社の産業財産権が侵害されたと思われる場合には、侵害の有無を法的な観点から判断した上で、必要に応じて差止請求や損害賠償請求などの法的措置を講じましょう。

特にインターネットを通じて産業財産権を侵害された場合は、放置すると被害が急速に拡大する可能性が高いです。被害拡大防止の迅速な対応を行うため、すぐに弁護士へ相談しましょう。
弁護士に相談すれば、発信者情報開示請求による侵害者の特定、示談交渉、訴訟などの対応を一括してサポートしてもらえます。

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