退職勧奨とは? 不当な退職勧奨を受けた場合の対応方法
- (更新:2024年12月25日)
- 労働問題
1. 退職勧奨とは
「退職勧奨」とは、企業が労働者に対して退職を促すことをいいます。「退職勧告」と呼ばれることもあります。
(1)退職勧奨と解雇の違い
退職勧奨は、あくまでも労働者に対して任意の退職を促すものです。労働者が退職に応じた場合には、合意退職となります。これに対して、企業が一方的に労働契約を終了して、労働者を強制的に退職させることは「解雇」と呼ばれます。
解雇は一方的に労働者の地位を奪うものであり、労働者は大きな不利益を被ります。そのため、解雇には客観的・合理的理由および社会的相当性が必要とされるなど、法律によって厳しく制限されています(労働契約法16条)。
これに対して、退職勧奨には厳しい解雇規制が適用されません。後に解雇が無効と判断されるリスクを負わないように、企業は解雇を避けて退職勧奨を行うことがよくあります。
(2)退職勧奨を受けた場合は会社都合退職|自己都合退職との違いは?
退職勧奨を受けての退職は合意退職に当たりますが、雇用保険の基本手当の受給資格との関係では会社都合退職扱いとなります。退職勧奨に応じて退職した方は「特定受給資格者」に当たるため、自己都合退職の場合よりも有利な条件(受給開始日・受給期間)で、雇用保険の基本手当を受給可能です。
また、企業が退職金規程を設けている場合には、退職金の支給に関しても、退職勧奨を受けた方は会社都合退職として取り扱われるケースが多いです。会社都合退職の場合、自己都合退職よりも受け取れる退職金が多くなる傾向にあります。ただし、退職金の支給に関するルールは企業によって異なるので、各企業の退職金規程をご確認ください。
(3)なぜ会社は退職勧奨を行うのか?
会社が退職勧奨を行う理由としては、次のようなものが考えられます。
①会社が、従業員に退職してほしいと考えているが解雇はできない場合、あるいは解雇事由を満たすとしても穏便に解決したい場合
たとえば、従業員の勤務態度や勤務成績がよくない・問題行動が多い・協調性に欠ける・遅刻や欠勤が多い・私生活上で不法行為をしたなどの場合で、解雇できるとまではいえないような場合に、会社は退職勧奨を行うことがあります。
仮に、解雇できそうな場合であっても、解雇という手段を取ると従業員から解雇が無効であると争われる可能性があるため、退職勧奨で穏便に解決しようとすることもあります。
②従業員になにも問題がなくても、会社側の事情によって退職勧奨が行われる場合
会社の業績不振などにより、人件費の削減のために退職勧奨が用いられることがあります。
会社の経営難の場合に人件費を削減する方法には「整理解雇」という解雇もありますが、適法に整理解雇をするための法的要件は厳しいため、整理解雇より前に退職勧奨によって雇用関係の終了を試みるという会社もあります。
2. 退職勧奨が違法となるケース
退職勧奨を行うこと自体は法律上問題ありませんが、普通の人から見て度を越えた態様で退職勧奨を行った場合には、民法上の不法行為(709条)が成立します。
退職勧奨が違法となるのは、たとえば以下のようなケースです。
- 実質的に退職を強要された場合
- 退職勧奨に関してパワハラが行われた場合
(1)実質的に退職を強要された場合
退職勧奨は、あくまでも労働者に自発的な退職を促すものです。企業が労働者に対して退職を強要した場合、それは退職勧奨ではなく解雇に当たり、違法と判断される可能性が高いでしょう。
実質的な退職強要が行われたかどうかは、企業側の言動や退職勧奨の状況などを総合的に考慮して判断されます。面談に同席する人数、退職勧奨を行った期間、回数、1回あたりの面談の時間、面談中の発言内容や態様、仕事上の嫌がらせの有無や内容などが考慮されます。
すなわち、たくさんの上司が同席して面談する・長期間にわたって退職勧奨を行い続ける・何回も退職勧奨をする・1回あたり長い時間をかけて退職勧奨を行う・面談中に強い言葉や威圧的な態度で退職勧奨をする・退職させるために嫌がらせをするなどの事情がある場合には、その退職勧奨は違法である可能性が高いと言えます。
言葉については、たとえば以下のようなことを言われた場合には、退職強要があったと評価される可能性が高いです。
- 「会社に居続けても居場所はない」
- 「退職に応じなければ給料を下げる」
- 「退職に応じなければ悪い噂を流す」
- 「退職に応じなければ懲戒解雇する」
など
東京地裁平成23年3月30日判決の事案では、退職に応じなければ懲戒解雇を行い、退職金は支払わないなどと労働者に伝えた企業側の言動が退職強要に当たるとして、労働者による退職の意思表示が無効と判断されました。
なお、従業員が退職勧奨を拒否した後にさらに退職勧奨をした場合であっても、直ちに違法となるわけではありませんが、拒否した後も複数回の退職勧奨を行って執拗に退職を求める場合には、違法と判断される可能性が高くなります。
(2)退職勧奨に関してパワハラが行われた場合
退職勧奨の過程でパワハラが行われた場合には、企業側の安全配慮義務違反等が認められる可能性があります。
たとえば以下のような言動は、パワハラとして違法となる可能性が高いです。
- 殴る、蹴るなどの暴行
- 口汚い言葉による侮辱
- 「追い出し部屋」への異動
- 無理難題を押し付ける
- 仕事を全く与えない、または簡単な仕事しか与えない
- プライベートを過度に詮索する
など
東京地裁令和2年9月28日判決の事案では、退職勧奨に応じない労働者に対して、会議室でひとりだけの状態で簿記の学習をするよう指示した企業側の言動がパワハラに当たるとされ、企業に対して55万円の損害賠償が命じられました。
3. 違法・不当な退職勧奨を受けたらすべきこと
会社から違法・不当な退職勧奨を受けた場合には、会社を辞めたくなった場合と、会社を辞めたくない場合とで、対応が異なります。
(1)会社を辞めたくなった場合
退職勧奨に応じて退職する場合には、退職の条件を少しでもよくするよう会社と交渉しましょう。
交渉すべき事項としては、まずは退職金の金額です。退職勧奨に応じるのと引き換えに、多めに退職金を出すように求めることが考えられます。
また、退職にあたっては、「会社都合退職」として処理してもらうようにしましょう。「自己都合退職」か「会社都合退職」かによって、失業保険の給付日数などが変わってくるからです。
(2)会社を辞めたくない場合
会社を辞めたくない場合は、落ち着いて以下の対応を行いましょう。
- すぐには退職に同意しない
- 不当な退職勧奨に関する証拠を集める
- 労働問題に詳しい弁護士に相談する
(1)すぐには退職に同意しない
労働者としては、退職勧奨を受けたとしても応じる必要はありません。退職したくない場合には、退職勧奨を拒否できます。また、最終的には退職に応じるとしても、退職金の増額など、有利な退職条件を求めて交渉すべきです。
いずれにしても、会社の退職勧奨に対してすぐに返事はせず、持ち帰って対応を検討しましょう。同意書へのサインを求められたとしても、その場でサインすることは避けましょう。
(2)不当な退職勧奨に関する証拠を集める
会社の退職勧奨がパワハラなどの不当な方法で行われた場合には、損害賠償請求の対象になり得るほか、その不当性を的確に指摘すれば交渉を有利に進められる可能性があります。
退職勧奨の不当性を後に立証できるように、できる限り証拠を確保しておきましょう。たとえば会社側とのやり取りを録音する、会社側から受け取ったメールや文書などを保存するなどの対応が考えられます。
(3)労働問題に詳しい弁護士に相談する
不当な退職勧奨を受けたなど、会社とのトラブルが発生した場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談しましょう。
労働問題に関する経験が豊富な弁護士に相談すれば、退職勧奨への対処法を親身になってアドバイスしてもらえます。弁護士を代理人とすることで、圧力に屈することなく、会社との交渉を有利に進めることができます。また、会社と直接やり取りするストレスが大幅に軽減される点も、弁護士に依頼するメリットのひとつです。
- こちらに掲載されている情報は、2024年12月25日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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