遺産分割協議とは|進め方やうまく進まない場合の対処法を解説

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遺産分割協議とは|進め方やうまく進まない場合の対処法を解説

被相続人が遺言書を作成せずに亡くなった場合、被相続人の遺産は、相続人による話し合いによって分割することになります。これを「遺産分割協議」といいます。遺産分割協議をスムーズに進めるためにも、遺産分割協議の流れや注意点をしっかりと押さえておきましょう。


本コラムでは、遺産分割協議とは何か、遺産分割協議が進まない場合はどうすべきかなど遺産分割協議に関する基本事項をわかりやすく解説します。

1. 遺産分割協議とは

遺産分割協議とはどのようなものなのでしょうか。以下では、遺産分割協議に関する基本事項を説明します。

(1)遺産分割協議とは|相続人全員で遺産分割を話し合い決定すること

遺産分割協議とは、相続人全員で、遺産に関する以下の事項を決める話し合いのことをいいます。

  • 誰が遺産を相続するか
  • どの財産を相続するか
  • どのような方法で相続するか
  • どのくらい相続するか

遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ成立させることができません。そのため、以下のようなケースでは、遺産分割協議が無効になります。

  • 行方不明の相続人を除外している場合
  • 認知症の相続人を除外して行った場合
  • 隠し子がいることを知らずに遺産分割協議を行った場合
  • 未成年者と親権者がともに相続人になっている場合

遺産分割協議が面倒だからといって放置していると、世代交代により権利関係が複雑になることや、相続財産の利用・活用が困難になるなどのリスクがあります。また、相続財産に不動産が含まれている場合、期限内に相続登記をしなければ10万円以下の過料を科されるリスクもありますので注意が必要です。

なお、遺産を相続できる相続人がひとりしかいないケースやすべての遺産の行き先が遺言により指定されているケースでは、遺産分割協議は不要となります。

(2)遺産分割の種類

遺産分割の種類には、大きく分けて「指定分割」「協議分割」の2つがあります。

①指定分割

指定分割とは、遺言により指定された方法で遺産の分割を行う方法です。

遺言書がある場合、基本的には遺言書が遺産分割協議に優先するので、すべての遺産の行き先が指定されていれば、遺産分割協議は不要となります。

②協議分割

協議分割とは、相続人全員の話し合いにより遺産の分割を行う方法です。被相続人の遺言がないケースでは、協議分割により遺産分割の手続きを進めていきます。

協議分割には、さらに以下の4つの種類があります。

  • 現物分割

    遺産そのものを現物で分ける方法

  • 換価分割

    遺遺産を売却して、売価代金を分ける方法

  • 代償分割

    遺産の現物を取得した相続人が他の相続人に代償金を支払う方法

  • 共有分割

    遺産を相続人が共有する方法

(3)財産の分割方法

以下では、財産の種類ごとに分割する際の方法や注意点を説明します。

①現金や預貯金

現金や預貯金は、他の遺産に比べて分割しやすい財産といえるので、基本的には、法定相続分に応じて分配することになるでしょう。

なお、遺産分割協議が成立する前に遺産である預貯金を引き出すのは、遺産の使い込みを疑われるリスクがあるので、避けた方がよいでしょう。葬儀費用の支払いなどどうしても引き出さなければならない事情がある場合には、相続人全員の了承を得てから行うようにしてください。

②不動産

不動産の分割方法としては、現物分割、換価分割、代償分割により行い、できる限り共有分割は避けた方がよいでしょう。不動産が共有状態となると、自分の意向だけでは不動産を処分することができず、将来の権利関係も複雑になるリスクがあるからです。

なお、令和6年4月1日から相続登記が義務化され、所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければ罰則が適用されますので注意が必要です。

③有価証券

被相続人名義の有価証券をそのまま売却することはできないので、有価証券の換価分割をするためには、一旦代表相続人の口座に移管し、代表相続人が売却したうえで、売却代金の分配を行います。

なお、有価証券は、価格の変動がある資産なので、どの時点で売却するかは慎重に判断する必要があります。

(4)遺産分割協議の注意点

遺産分割協議を進める際には、以下の点に注意が必要です。

①相続人全員の合意が必要

遺産分割協議は、全員が集まって行う必要はありませんが、遺産分割協議を成立させるには相続人全員の合意が必要になります。相続人のうち、ひとりでも欠いてしまうと、遺産分割協議はすべて無効になるので注意しましょう。

②後日発見された遺産をどうするか決めておく

遺産分割協議が成立後に新たに被相続人の遺産が見つかることもあります。そのような場合には、当該遺産を対象として再度遺産分割協議が必要になります。

しかし、後日発見された遺産の相続についても当初の遺産分割協議で取り決めておけば、再度遺産分割を実施する必要はありません。

③遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議が成立したら、必ず遺産分割協議書を作成しましょう。なぜなら、合意内容を明確にするとともに、その後の相続手続きで必要になるからです。

2. 遺産分割協議の流れ

遺産分割協議は、以下のような流れで行います。

(1)相続人と相続順位を明確にする

遺産分割協議を実施する前提として、まずは誰が相続人であるかを明らかにします。法律上、相続人の範囲と順位は明確に決められていますので、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、改製原戸籍謄本、除籍謄本に基づき、相続人を確定します。

相続人に漏れがあると遺産分割協議が無効になるリスクがあるので、正確に把握することが大切です。

(2)相続財産を明確にする

相続人調査と並行して相続財産調査も進めていきます。相続人であっても被相続人の相続財産のすべてを把握しているわけではないので、漏れがないようにしっかりと調査することが必要です。

どのような財産があるかわからないという場合には、専門家である弁護士に相談してみるとよいでしょう。

(3)相続財産の一覧表「財産目録」を作成する

相続財産調査が完了したら、相続財産をまとめた「財産目録」の作成を行います。

財産目録の作成は、義務ではありませんが、その後の遺産分割協議をスムーズに進めるために有効な資料となるので、できる限り作成するようにしましょう。

(4)遺産分割協議書を作成する

上記の準備が整った段階で、相続人による遺産分割協議を行います。

遺産分割協議では、誰が・どのような財産を・どのような方法・どのような割合で相続するかを話し合って決めることになります。遺産分割協議で相続人全員の合意が成立したら、その内容をまとめた遺産分割協議書を作成します。

遺産分割協議書は、その後の相続手続きで必要になりますので、必ず実印で押印し、印鑑証明書を添付するようにしましょう。

(5)相続財産の名義変更をする

遺産分割協議が成立し、遺産分割協議書の作成ができたら、遺産分割協議の内容にしたがって、相続財産の名義変更などの手続きを進めていきます。

不動産の相続登記については、令和6年4月1日から相続登記が義務化されていますので、期限に間に合うように手続きを行うようにしましょう。

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3. 遺産分割協議がうまく進まない場合はどうする?

遺産分割協議がうまく進まない場合はどうすればよいのでしょうか。以下では、遺産分割協議がうまく進まないケースとその対処法を説明します。

(1)遺産分割協議がうまく進まないケース

遺産分割協議がうまく進まないケースとしては、以下のようなケースが考えられます。

①連絡が取れない相続人がいる

遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員の合意が必要になります。連絡が取れない相続人がいる場合、そもそも遺産分割協議を行うことができません。そのため、何とかして連絡を取るか、他の手段を検討する必要があります。

②遺産隠し・使い込みがある

相続人の中に遺産隠しをしていたり、相続財産の使い込みをしている疑いがある人がいる場合、それを明らかにしなければ遺産分割協議を進めることができません。

このような遺産隠しや使い込みは、遺産分割の前提問題となりますので、遺産分割調停ではなく、訴訟手続きにより解決を図る必要があります。

③特別受益や寄与分を主張される

生前に被相続人から多額の贈与を受けた相続人がいる場合には、特別受益の持ち戻しが主張される可能性があります。また、生前に被相続人の介護などに尽力した相続人がいる場合には寄与分が主張される可能性もあります。

このように特別受益や寄与分を主張されると、通常の遺産分割協議よりも検討しなければならない項目が増え、複雑な内容となりますので、スムーズに進めることが難しくなります。

(2)遺産分割協議がうまく進まない場合の対処法

遺産分割協議がうまく進まない場合は、以下のような対処法が考えられます。

①相手と連絡が取れる場合

相続人全員と連絡が取れるものの、遺産分割の方法で合意に至らないという場合は、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てを行います。調停では、裁判官や調停委員が当事者の間に入って話し合いを進めてくれますので、当事者同士で行う遺産分割協議よりもスムーズな解決が期待できます。

ただし、調停は、あくまでも話し合いの手続きですので、反対する相続人がいる場合には調停不成立となってしまいます。その場合は、自動的に遺産分割審判の手続きに移行し、裁判官が一切の事情を考慮して、適切な遺産分割方法を決定します。

②相手と連絡が取れない場合

連絡が取れない相続人がいる場合、そのままでは、遺産分割の手続きを進めることができません。このような場合は、状況に応じて裁判所に「不在者財産管理人の選任申立て」または「失踪宣告の申立て」を行う必要があります。

不在者財産管理人は、行方不明の相続人に代わって財産管理を行う人をいい、裁判所から選任された不在者財産管理人が遺産分割協議に参加してもらうことで手続きを進めることが可能になります。

失踪宣告は、生死不明の状態になってから7年を経過したときに法律上死亡したものとみなす制度です。相続人が失踪宣告で死亡したものとみなされれば、その人を除外して遺産分割協議を進めることが可能になります。

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(3)遺産分割が進まない場合の相続税申告はどうなる?

相続財産の総額が相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×相続人の数)を超える場合には、相続税の申告が必要になります。相続税の申告は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。

しかし、遺産分割が進まない場合、期限内に相続税申告ができないケースもあると思います。そのような場合は、いったん法定相続分で相続税申告をして、その後遺産分割協議が成立した時点で、修正申告をするとよいでしょう。申告期限から3年以内に遺産分割協議が成立すれば、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの特例を使うことができます。

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  • こちらに掲載されている情報は、2024年08月26日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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