給与未払いの解決方法は? 会社に請求する方法と注意点を解説
- 労働問題
1. 「給与未払い」とはどんな状態?
「給与未払い」とは、会社から支払われるべき給与(賃金)の全部または一部が支払われていない状態をいいます。
たとえば、以下のような名目の給与がひとつでも、また少額でも未払いとなっている場合には、給与未払いの状態に当たります。
- 基本給
- 残業手当(時間外手当、休日手当、深夜手当)
- 職務手当
- 役職手当
- 職能手当
- 資格手当
- 通勤手当
- 地域手当
- 食事手当
- 家族手当
- 住宅手当
- 退職金(退職手当)
など
給与未払いは雇用形態にかかわらず労働基準法違反であり、会社は労働基準監督署による是正勧告や刑事罰(30万円以下の罰金)の対象となります。 また、労働者は会社に対して、未払いとなっている給与の支払いを請求可能です。
2. 未払い給与を回収する方法
未払い給与を回収するためには、原則として会社に対して未払額の支払いを請求しましょう。会社が倒産していて回収できない場合は、未払賃金立替払制度を利用することも考えられます。
(1)会社に対する未払い給与請求の流れ
会社に対して未払い給与を請求する際には、以下の流れで対応しましょう。
①労働(残業)の証拠を集める
給与は労働に対して発生するため、未払い給与を請求する際には、労働実績に関する証拠を確保する必要があります。特に所定労働時間外の残業については、労働者の側で十分な証拠を集めなければなりません。勤怠管理システムやオフィスへの入退館の記録、交通系ICカードの乗車履歴、業務日誌など、できる限り豊富に証拠を確保しましょう。
②会社と交渉する
未払い給与の支払いについて、会社との間で交渉します。労働(残業)の証拠を提示したうえで、未払額の支払いを求めましょう。全額の支払いを求めるのが原則ですが、法的手続きへ移行させず早期に解決したい場合には、ある程度譲歩することも考えられます。
③労働基準監督署に申告する
会社側が誠実に対応しない場合は、労働基準監督署への申告を検討しましょう。労働基準監督署に給与未払いを申告すれば、事業場に対する臨検(立ち入り調査)を経て、是正勧告などを行ってもらえることがあります。
④法的手続きによって請求する
会社が未払い給与の支払いに応じないときは、以下の法的手続きを通じて請求を行いましょう。
(a)支払督促
裁判所から会社に対して、未払い給与の支払いを督促してもらいます。会社が異議を申し立てなければ、強制執行の申し立てが可能となります。
(b)労働審判
労使紛争を迅速に解決するための手続きです。審理は原則3回以内で終了します。裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、調停(話し合い・合意)または労働審判(強制的な判断)によって未払い給与問題の解決を図ります。
(c)訴訟
裁判所において未払い給与請求権の存在を立証し、判決によって会社に対して未払い給与の支払いを命じてもらいます。
(2)会社が倒産した場合は「未払賃金立替払制度」を利用する
会社が倒産してしまうと、未払い給与の支払いが大幅に遅れる上に、全額を回収できなくなる可能性が高いです。会社が倒産状態にある場合は、未払賃金立替払制度を利用しましょう。
以下の条件を満たす場合には、労働基準監督署に対して未払賃金立替払制度の利用を申請すれば、未払い給与の最大8割が支払われます。
- 使用者が1年以上事業活動を行っていたこと
- 使用者が倒産したこと
※破産・特別清算・民事再生・会社更生、または労働基準監督署長によって事実上の倒産の認定を受けた場合 - 労働者が退職した時期が、破産・特別清算・民事再生・会社更生の申し立て、または事実上の倒産に関する労働基準監督署への認定申請が行われた日の6か月前から2年の間であること
出典:厚生労働省「未払賃金立替払制度の概要と実績」
3. 未払い給与の支払いを請求する際の注意点
会社に対して未払い給与の支払いを請求する際には、特に以下の2点に注意しましょう。
- 未払い給与請求権の消滅時効に注意
- 労働基準監督署に給与未払いを申告しても、対応してもらえないことがある
(1)未払い給与請求権の消滅時効に注意
未払い給与請求権は、行使できる時から3年間が経過すると時効によって消滅します(労働基準法第115条、附則第143条第3項)。時効が完成した未払い給与は、回収できなくなってしまいます。
①消滅時効の起算点
時効の期間を計算するために、時効の起算点についても知っておきましょう。
時効の起算点とは、時効期間をいつからカウントするのか、計算の始まりとなる時点です。未払い給与の時効起算点は、その月の賃金支払日の翌日です。
たとえば、8月1日から8月31日までの賃金が9月25日に支払われる場合、8月分の賃金が発生するのは、給料日である9月25日ですから、その翌日である9月26日が消滅時効起算点となります。
②残業代請求権の時効消滅を防ぐ方法
未払い給与請求権の消滅時効の完成は、内容証明郵便による催告や訴訟の提起、仮差し押さえ・仮処分などによって阻止できるので、早めに弁護士へ相談しましょう。
(2)労働基準監督署に給与未払いを申告しても、対応してもらえないことがある
未払い給与については、弁護士のほかに労働基準監督署にも相談できます。
しかし、労働基準監督署はあくまでも行政官庁であり、労働者の代理人として対応してくれるわけではありません。未払い給与について十分な証拠が揃っていない場合や、違反が軽微と思われる場合などには、労働基準監督署は対応してくれないことがあります。
未払い給与の回収に向けて速やかに対応してもらいたい場合には、労働基準監督署ではなく弁護士に相談しましょう。
4. 未払い給与の支払い請求を弁護士に依頼するメリット
未払い給与全額の回収を目指すには、弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士に依頼すれば、未払い給与請求に必要な手続きを全面的に代行してもらえます。
労働(残業)に関する十分な証拠を揃えたうえで、弁護士が法的根拠に基づく請求を行えば、未払い給与全額を回収できる可能性が高まります。また、未払い給与請求の対応に要する労力や時間を大幅に節約できる点も、弁護士に依頼することの大きなメリットです。
さらに弁護士には、未払い給与請求のほか、不当解雇・ハラスメント・有給休暇の取得拒否など、さまざまな労働問題についても併せて相談できます。会社とのトラブルをスムーズに解決したい方は、弁護士にご相談ください。
- こちらに掲載されている情報は、2024年04月01日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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