交通事故の「症状固定」とは|症状固定後の対応と治療費打ち切りとの違い

  • (更新:2025年01月09日)
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弁護士JP編集部 弁護士JP編集部
交通事故の「症状固定」とは|症状固定後の対応と治療費打ち切りとの違い

交通事故の治療を続けていると、医師や加害者側の保険会社から症状固定と言われることがあります。

症状固定後は、治療費や休業損害の支払いが認められませんので、適切な補償を受けるために、いつ症状固定になるかは重要なポイントになります。

適正な賠償金の支払いを受けるためにも、症状固定の判断基準や目安時期などを理解しておきましょう。

1. 症状固定とは

症状固定とはどのような状態なのでしょうか。以下では、症状固定に関する基本事項を説明します。

(1)症状固定とは

症状固定とは、これ以上治療を継続しても症状の改善が期待できない状態をいいます。

交通事故によりけがをした場合、治療を続けて完治を目指しますが、けがの内容や程度によっては、事故前と同じ状態にまで戻らないことがあります。これ以上治療を続けても改善が見込めない状態になると症状固定と判断されます。

なお、治療によって、交通事故のケガが完治した場合は「治癒」となります。

(2)症状固定の重要性

症状固定は、交通事故の賠償金を「傷害分」と「後遺障害分」に区切る役割を有しています。

傷害分 後遺障害分
  • 治療費
  • 通院交通費
  • 付添費用
  • 入院雑費
  • 休業損害
  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 逸失利益

傷害分の損害は、症状固定日までに発生したものであれば事故と因果関係のある損害として請求することができますが、症状固定日を境に、後遺障害分へと移行しますので、傷害分の損害を請求することができなくなります。

(3)症状固定の判断基準

症状固定の判断は、治療を担当している医師が行います。加害者側の保険会社から症状固定の打診がなされることがありますが、医師ではない保険会社には症状固定を判断する権限はありません。医師の判断に従うようにしましょう。

なお、症状固定の判断は、医学上一般に承認された治療方法をもってしても効果が期待し得ない状態になっているかという観点で行われます。

(4)症状固定の判断時期

症状固定時期は、けがの種類・程度によって異なりますが、けがごとの症状固定の目安の時期は、以下のとおりです。

①むちうち

むちうちは、事故から3〜6か月程度で症状固定になるケースが多いです。

②骨折

骨折の程度や骨癒合の状態などにより症状固定時期が異なりますが、事故から6か月~1年半程度が目安となります。

③高次脳機能障害

高次脳機能障害とは、事故により脳を損傷したことで、記憶・思考・言語・行為・注意などの脳機能一部に障害が残った状態をいいます。

高次脳機能障害の症状固定時期は、脳の損傷の程度や年齢などによって異なりますが、1年以上かかるのが通常で、数年かかることもあります。

④脊髄損傷

脊髄損傷とは、事故により脊柱(背骨)の中を通る脊髄が損傷した状態をいいます。

脊髄損傷の症状固定時期は、事故から1年以上かかるのが通常です。

⑤醜状障害

醜状障害とは、頭部、顔面部、上肢・下肢などの日常生活で露出する部分に人目につく程度の傷跡が残った状態をいいます。

醜状障害の症状固定時期は、受傷から6か月〜1年程度が目安となります。

⑥複数のケガの場合

交通事故では複数のケガを負う場合も多く、複数の負傷が後遺症となってしまうことがあります。その場合、部位や症状ごとに症状固定の判断をします。後遺障害等級認定には「併合認定」というルールがあり、複数の後遺症がある場合は等級が高くなる場合もあるので、すべての症状固定を終えてから後遺障害等級認定を申請します。

(5)症状固定になるとどうなる?

医師から症状固定と診断されたとしても、治療を継続することは可能です。ただし、症状固定後の治療費は保険会社に請求することができませんので、自己負担になります。

また、交通事故の損害賠償請求権には時効がありますので、一定期間を経過すると時効により権利が失われてしまいます。症状固定は、消滅時効期間の起算点となりますので、後遺障害による損害は、症状固定から5年以内に請求しなければなりません。

2. 症状固定と治療費打ち切りの違い

症状固定に似たものとして治療費打ち切りがあります。以下では、両者の違いや治療費を打ち切られた場合の対応について説明します。

(1)治療費打ち切りとは

加害者が任意保険に加入している場合、交通事故によるけがの治療費は、加害者側の保険会社により支払われます。そのため、被害者は、病院の窓口で治療費の支払いをすることなく治療を受けることができます。

しかし、一定期間治療を続けていると、保険会社から治療費の支払いを打ち切られることがあります。これを「治療費打ち切り」といいます。

治療費打ち切りは症状固定とは異なり、保険会社の判断で行われるため、症状固定よりも前に治療費が打ち切られてしまうこともあります。

治療費を打ち切られたとしても、治療自体を終了しなければならないわけではありません。治療の終了時期は、医師が判断しますので、医師と相談しながら治療を続けていくようにしましょう。

(2)治療費打ち切りの基準

一般的に、治療費打ち切りは、医師から症状固定の診断が出た時点で行われるケースが多いですが、それ以外にも以下のようなケースで治療費打ち切りがなされることがあります。

  • 症状に対して治療内容や期間が妥当でないと判断された場合
  • 保険会社独自の判断基準に該当する場合

治療期間が長くなればなるほど保険会社が支払わなければならない治療費や慰謝料(入通院慰謝料)の金額が増えてしまうため、保険会社の利益を優先して治療費打ち切りの判断がなされる場合もあります。

(3)治療費を打ち切られた場合の対応

保険会社から治療費打ち切りの打診がなされたときは、まずはその理由を確認してみましょう。

保険会社が治療状況から治癒または症状固定と判断したという場合には、医師の診察を受けて、治癒または症状固定に該当するかどうかを確認します。

医師が今後も治療の継続の必要性があると判断したのであれば、診断書を取得して、保険会社に治療費の支払いの延長を求めていくとよいでしょう。

不当に治療費を打ち切られたと感じる場合には、弁護士に相談するのも有効な手段です。

3. 症状固定後の対応

症状固定と診断された後は、どのような対応が必要になるのでしょうか。以下では、症状固定後の対応について説明します。

(1)後遺障害等級申請を行う

医師により症状固定と診断されたら、後遺障害診断書の作成を依頼して、後遺障害等級申請を行います。

症状固定時に残っている症状(後遺障害)については、後遺障害等級申請により認定されれば、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求することが可能です。

交通事故の賠償金の中でも後遺障害慰謝料や逸失利益は大きな割合を占めますので、適正な後遺障害等級認定を受けることが重要になります。

後遺障害等級の認定手続きは以下の2通りです。

①加害者の保険会社が行う事前認定

事前認定とは、加害者の保険会社がすべての書類を用意して、損害保険料率算出機構に提出をして後遺障害に該当するかどうかの判断を受ける手続きです。被害者がほぼ負担を感じることなく手続きが進みます。

ただし、加害者側の保険会社の担当者が書類の用意をしますので、必ずしも後遺障害等級の認定が受けられるような書類になっていない可能性もあります。

②被害者や被害者の弁護士が行う被害者請求

被害者請求とは、被害者自身が加害者の自賠責保険に対して後遺障害等級の認定を請求する手続きです。被害者が交通事故証明書などの書類やレントゲン画像といった医療資料を被害者自身で用意する必要があり、手間や費用がかかります。

一方で、交通事故事件を積極的に取り扱っている弁護士に依頼をすれば、治療の経過や現在の症状について適切に反映された資料を用意することができますので、適切な等級に認定される可能性が高くなるといえるでしょう。

(2)弁護士に相談する

症状固定時期は、けがの種類・程度によって異なりますので、保険会社の判断にしたがって治療を終了してしまうと適正な後遺障害等級認定を受けられないおそれがあります。

そのため、適切な症状固定のタイミングの判断や症状固定後の対応については、弁護士にサポートを求めた方がよいでしょう。

弁護士に依頼すれば、保険会社による治療費打ち切りへの対応や後遺障害等級申請の手続きなどを任せることができますので、被害者の負担を軽減しつつ適正な後遺障害認定を受けられる可能性が高くなるといえます。

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