親権・監護権の違いと取り決め方法
- 離婚・男女問題
1. 親権と監護権とは
18歳未満の子どもは、原則として父母の「親権」に服します(民法第818条第1項)。親権の中で、監護教育権・居所指定権・職業許可権・身分行為の代理権は特に「監護権」と呼ばれます。
(1)親権とは
「親権」とは、未成年者である子どもを監護・養育し、その財産を管理し、またはその代理人として法律行為をする権利・義務です。未成年者は、単独で責任ある行動をする能力をまだ持たないと考えられているため、原則として父母の親権に服するものとされています。
親権には、以下の権利が含まれます。
①財産の管理権(民法第824条)
②子どもの法律行為に関する同意権(民法第5条)
③監護教育権(民法第821条)
④居所指定権(民法第822条)
⑤職業許可権(民法第823条)
⑥以下の身分行為の代理権
- 嫡出否認の訴え(民法第775条)
- 認知の訴え(民法第787条)
- 養親が20歳未満である場合の養子縁組の取消し(民法第804条)
(2)監護権とは
親権のうち、監護教育権・居所指定権・職業許可権・身分行為の代理権の4つは、特に「監護権」と呼ばれています。
親権者が監護権も行使するケースが多いですが、後述のとおり、親権者とは別に監護権を行使する者(=監護権者)を定めることもできます。
親権と監護権の違いについては、以下のコラムもご参照ください。
2. 親権争いで有利になる事情とは
裁判所は、「父親と母親のどちらが親権者になることが子どもの利益や幸福にかなうのか」を判断基準にして、次のような事情を総合的に考慮して親権者を決めます。
もっとも、具体的にどのような事情が親権獲得に有利に働くかは、ケースに応じた判断が必要になるため、弁護士などに相談することがおすすめです。
(1)親側の事情
親権者を判断するうえでは、
- 子どもへの愛情の深さ(親権者になることへの意欲の強さ)
- 親権者として子どもを育てる能力や条件(親の年齢や心身の健康状態、時間的な余裕、経済力、実家などの援助の有無)
- 離婚後の生活環境(住環境、学校環境)
などの父母それぞれの事情が考慮されます。これらの事情が子どもにとって好ましい方が、親権獲得に有利になるといえます。
なお経済力に関しては、収入の多い親から少ない親に養育費が支払われることになるため、低いからと諦める必要はありません。そのため専業主婦(主夫)だからといって、親権の獲得に不利になるというわけではないことを知っておきましょう。
(2)子ども側の事情
親側の事情だけでなく、
- 子どもの年齢や性別
- 子どもの意向
- 兄弟姉妹の関係
- 心身の発育状況
などの子ども側の事情も考慮されます。
(3)特に重視される事情
特に重視される傾向にあるのは、次のような事情です。
①監護の実績・継続性
これまで子どもを主に養育してきた親が継続して養育することが子どもにとってのぞましいという考え方です。この考え方によると、現在子どもと暮らす親が有利になる可能性が高くなります。
②子どもの意思の尊重
子どもが幼いうちは、その意思はあまり重視される事情にはなりません。しかし15歳以上の子どもに関しては、子どもの意思を確認し尊重することとされています。実際には、10歳頃から子どもの意思を反映した判断になることも少なくないようです。
③兄弟姉妹不分離の原則
兄弟姉妹がいるときには、基本的に同じ親のもとで一緒に暮らせるようにするという考え方がなされます。
④母性優先の原則
子どもと心理的に強い結びつきが強い親を優先するという考え方がなされます。母性とありますが、必ずしも母親が父親に優先するということではありません。
⑤面会交流への寛容性
親権者になったときに、元配偶者と子どもとの面会交流に寛容であることも重要だという議論があります。いわゆる、フレンドリーペアレントルールです。この点については、千葉家庭裁判所松戸支部平成28年3月29日判決を端緒に、最高裁まで争われたりもしました。
3. 親権者・監護権者を決める手続き・基準
親権者・監護権者を決める際の手続きと、どちらの親を親権者・監護権者にするかの判断基準を解説します。
(1)親権者・監護権者を決める手続き
18歳未満の子どもの親権者は、必ず離婚時に決めなければなりません。具体的には、以下のいずれかの離婚手続きによって親権者を決定します。
①離婚協議
他の離婚条件と併せて、親権者をどちらにするか夫婦間で話し合います。
②離婚調停
調停委員の仲介のもと、親権者を含む離婚条件を家庭裁判所で話し合います。
③離婚裁判
離婚協議・離婚調停が不成立となった場合に、家庭裁判所に対して提起します。法定離婚事由の存在を立証すれば、裁判所が離婚を認める判決を言い渡します。親権者を父母のどちらにするかについても、裁判所が判決によって決定します。
離婚時に親権者とは別の監護権者を決める場合は、上記の手続きに沿って監護権者も決定します。
離婚調停にて親権を獲得するための留意事項などについては、以下のコラムもご参照ください。
(2)親権者・監護権者を決めるときの基準
家庭裁判所が親権者を決める際には、主に以下の事情を考慮します。
- 子どもの養育への関わり方(どちらが子どもと長い時間を過ごしたか)
- 経済力(収入の金額や安定性、資産など)
- 子どもの意思(特に子どもの年齢が高い場合)
など
親権者とは別に監護権者を指定する際には、上記の各事情に加えて、親権者が監護権を行使することの適否などについても考慮されます。
親権と監護権の違いについては、以下のコラムもご参照ください。
4. 親権者と監護権者は分けることができる
離婚する夫婦が合意すれば、親権者とは別に監護権者を定めることもできます。また、子どもの利益の観点から、親権者が監護権を行使することが不適切と思われる場合は、家庭裁判所が親権者とは別に監護権者を指定することもあります。
(1)親権者と監護権者を分けるメリット
親権者と監護権者を分ける場合、父母双方が子どもの養育に関与できる点がメリットといえます。
また、親権争いが激しくなった場合に、親権者と監護権者を分ける形で妥協することにより、離婚が早期に成立することもあります。
(2)親権者と監護権者を分けるデメリット
一方、親権者と監護権者が分かれていると、子どもと同居する側の親が単独でできないことが発生します。
たとえば、親権者は子どもの住む場所を決めたり、子どもの職業を許可したりすることができません。監護権者は、子どもの財産に関する事項を決めることができません。
親権者・監護権者が自ら単独でできない行為をする際には、元配偶者と話し合って同意を得る必要があります。しかし、元夫婦間で意見が食い違い、トラブルに発展するケースも多いので注意が必要です。
5. 親権者はあとから変更できる
離婚時に親権者を決めたとしても「子の利益のため必要があると認めるとき」には、親権者を変更することは可能です(民法819条6項)。
しかし、親権者を変更した場合には、監護者の変更も伴いますので、それによって子どもの生活環境は大きく変わることになります。親の都合によって自由に親権者を変更してしまうと、子どもに与える不利益は非常に大きいものになることから、親権者の変更にあたっては慎重な判断を要求されます。
そのため、法律上は、離婚後の親権者の変更は可能であるとされていますが、実際に変更をしようとしても容易には認めてもらえません。そのため、親権者の変更ができるからといって安易に離婚時に親権を譲るといったことのないように注意しましょう。
6. 親権者の変更を行うとき考慮されること
親権者の変更を行う場合にはどのような事情が考慮されるのでしょうか。また、どのような場合に親権者の変更が認められるのでしょうか。以下で詳しく説明します。
(1)親権者の変更をする際の考慮要素
親権者の変更をする際には、子どもの利益のために必要があるかどうかが重視されます。そして、子どもの利益のために必要かどうかについては、主に以下の要素を総合考慮して判断することになります。
①親に関する事情
- 双方の家庭環境と監護態勢
- 現在の親権者の意向
- 今までの養育状況
- 双方の経済力
②子どもに関する事情
- 子どもの希望
- 子どもの年齢、性別、性格、就学の有無
(2)親権者の変更が認められるケース
親権者の変更は、上記の考慮要素を総合考慮して、親権者の変更をするのが子どもの利益のために必要といえるかどうかによって判断することになります。
そのような事情を踏まえて、一般的には、以下のようなケースでは、親権者の変更が認められやすいといえるでしょう。
①親権者が虐待や育児放棄をしているケース
親権者が、子どもに暴力を振るうなどの虐待をしていたり、食事を与えないなどの育児放棄をしていたりする場合には、子どもの健全な成長という観点からは好ましい状態ではありません。このような場合には、子どもの生命や健康にも重大な被害が及ぶ可能性がありますので、親権者の変更が認められる可能性が高いケースであるといえます。
②養育状況が大きく変化したケース
親権者が転勤などによって海外に赴任しなければならなくなったものの、子どもを連れていくことができないという事情がある場合には、親権者の変更が認められる可能性があります。また、親権者が再婚をしたものの、子どもと再婚相手との折り合いが悪いという場合にも親権者の変更が認められる可能性があります。
③子どもが親権者の変更を希望しているケース
親権者の変更によりもっとも影響を受けることになるのは子ども自身です。そのため、ある程度の年齢に達した子どもが親権者の変更を強く希望しているという場合には、変更後の養育環境なども考慮した上で、親権者の変更が認められる可能性があります。
7. 親権者変更は家庭裁判所での手続きが必要
離婚時の親権者の指定の場面では、夫婦が話し合いによってどちらが親権を獲得するかを決めることができました。しかし、親権者を変更する場面では、お互いの話し合いだけで決めることができず、必ず家庭裁判所の親権者変更調停または審判の手続きを行わなければなりません。
(1)親権者変更調停の申し立て先
親権者変更調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定めた家庭裁判所に申し立てを行います。
(2)親権者変更調停の必要書類
- 申立書及びその写し 各1通
- 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 相手方の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
なお、未成年者の戸籍謄本は、親権者の戸籍と同一ですので、どちらか1通で足ります。
(3)親権者変更調停の費用
- 子ども1人につき収入印紙1200円
- 連絡用の郵便切手
なお、連絡用の郵便切手の金額は、申し立てをする裁判所により異なりますので、あらかじめ裁判所に確認してから申し立てをしましょう。
(4)親権者変更調停の流れ
親権者変更調停は、上記の必要書類と費用を家庭裁判所に提出して申し立てを行います。
調停の申し立てが受理されると、調停期日が決められて、申立書の写しなどが相手方に送付されることになります。なお、1回目の調停期日は、申し立てから1か月から2か月程度先の日程が指定されます。
調停では、親権者の変更の考慮要素を踏まえて、親権者の変更を認めることができるかどうかについて、調停委員を介して話し合いが行われることになります。1回の調停期日で話がまとまらなければ、2回目以降の調停期日が指定され、話し合いが継続されることになります。その場合には、子どもの意向も調査するために家庭裁判所の調査官による調査が行われることもあるでしょう。
話し合いによって親権者を変更することについて当事者の合意が得られれば、調停は成立しますが、合意が得られず合意が得られる見込みもない場合には、調停は不成立となり、自動的に審判に移行することになります。
審判では、裁判官が、これまでの一切の事情を考慮して親権者の変更を認めるかどうかを判断します。
8. 親権者になれなくても面会交流はできる
「親権争いに敗れたら子どもと会えなくなってしまう」と思っている方もいらっしゃるようです。しかし親権者になれなかったとしても、子どもの親であることは離婚後も変わりはありません。
そのため、離れて暮らす子どもと定期的に連絡を取り合ったり直接会ったりする「面会交流」が認められています。これは、特別な事情がない限り、子どもにとっては、父母双方と交流を持つことが健全な成長につながると考えられているためです。
面会交流の内容については、父母の話し合いや調停、審判で取り決めることができます。調停や審判においては、自分がどのように子どもと付き合っていけるかについて、複数の可能性を考えて、いずれにしても子どもとの関係を望ましい形で続けていく方法を、模索していく姿勢が有益かもしれません。
- こちらに掲載されている情報は、2023年12月27日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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