養育費とは。支払金額や期間など基本を解説

  • (更新:2024年11月13日)
  • 離婚・男女問題
弁護士JP編集部 弁護士JP編集部
養育費とは。支払金額や期間など基本を解説

子どもがいる夫婦が離婚する場合は、養育費の支払いについて取り決めましょう。

1. 養育費とは

養育費とは、子どもの養育に必要な費用をいいます。たとえば、子どもに関する以下のような費用が養育費に含まれます。

  • 食費
  • 衣服の購入費
  • 教育費(学校の入学金、授業料、塾代、習い事の費用など)
  • 医療費

など

親は子どもに対する扶養義務(民法第877条第1項)の一環として、養育費を支払う義務を負います。両親が子どもと同居している場合は、日常生活の中で養育費を分担するのが通常です。

しかし、離婚した後は親権者だけが子どもと同居し、親権者でない側は、日常生活の中で養育費を負担しなくなります。そのため、親権者でない側が親権者に対して、養育費を支払う義務を負います。

養育費の金額は、離婚協議・離婚調停・離婚裁判の各手続きを通じて決定します。離婚時に養育費を取り決めなかった場合は、離婚後に協議・調停・審判を通じて養育費を請求することも可能です。

協議によって養育費を取り決める場合は、不払いが発生した際に強制執行を申し立てられるように、公正証書を作成しておくとよいでしょう。

養育費の内訳については、以下のコラムもご参照ください。

どこまでが養育費に含まれるもの? 知っておきたい養育費内訳

面会交流の方法は、離婚時に取り決めることが望ましいです。その場合、以下のいずれかの手続きによって面会交流の方法を取り決めます。

2. 養育費の金額|算定基準・増減するケース

養育費の金額の算定基準と、離婚後に養育費が増減するケースについて解説します。

(1)養育費の算定基準・金額相場

養育費の金額は、以下の要素に応じて決定するのが適切です。離婚裁判や審判によって裁判所が養育費を決定する際には、これらの要素を考慮して金額が定められます。

  • 夫婦の収入バランス(義務者の収入、権利者の収入)
  • 子どもの人数
  • 子どもの年齢

上記の要素を考慮した養育費の目安額は、裁判所が公表している「養育費算定表」を用いると簡単に求められます。

参考:「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」(裁判所)

養育費の金額相場については、以下のコラムもご参照ください。

子どもの養育費、相場はいくら? 計算方法と取り決め方

(2)離婚後に養育費が増減するケース

離婚後に発生した事情によっては、養育費の増額・減額が認められることもあります。

<養育費の増額が認められる場合の例>

  • 義務者の収入が増加した場合
  • 権利者の収入が減少した場合
  • 子どもが私立学校に通い始めるなどして、教育費が想定よりも増えた場合
  • 子どもが病気にかかり、医療費の負担が生じた場合

など

<養育費の減額が認められる場合の例>

  • 義務者の収入が減少した場合
  • 権利者の収入が増加した場合
  • 権利者が再婚し、再婚相手が子どもと養子縁組をした場合
  • 義務者が再婚して子どもができた場合

など

養育費の増額・減額に関する協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停・審判を通じて、増額・減額の可否および金額を取り決めることになります。

3. 養育費の支払期間

養育費の支払いは扶養義務の一環であるため、子どもが経済的に自立するまで支払う必要があります。「18歳まで」「20歳まで」「大学卒業まで」などのパターンがありますが、法律で決まっているわけではありません。

実際の支払期間は、離婚手続き(協議・調停・裁判)を通じて決めるのが一般的です。子どもの教育の見通しなどを考慮して、適切な支払期間を取り決めましょう。

養育費の支払期間については、以下のコラムもご参照ください。

養育費はいつまで請求できる? 支払い義務の基本を解説

4. 養育費を支払わないとどうなる?

離婚時に養育費を取り決めたとしても、その後に転職、減給、病気などによって経済的に苦しくなり、当初取り決めた養育費の金額が支払えなくなることがあります。このようなやむを得ない事情によって養育費の支払いが滞ってしまったとしても、そのまま放置しておくのは非常に危険です。

決められた養育費の支払いを行わず、養育費の支払いを滞納してしまうとどのようなリスクが生じるのでしょうか。まずは、養育費の不払いによって生じるリスクについて説明します。

(1)財産の差押え

養育費の支払いが滞った状態が続くと、債務者(養育費の支払い義務者)の財産(預貯金、給料など)が差し押さえられるというリスクがあります。

財産の差押えをするためには、債務名義を取得していることが必要になりますので、通常は、差押えの前に裁判を起こして判決を得る必要があります。しかし、協議離婚の際に執行認諾文言付き公正証書を作成していた場合には当該執行認諾文言付き公正証書が、離婚調停で離婚した場合は調停調書が、裁判により離婚した場合には判決書が債務名義になりますので、別途裁判を起こすことなく、直ちに強制執行をされてしまいます。

また、強制執行にあたっては差し押さえる財産を特定する必要がありますが、民事執行法の改正によって、第三者からの情報取得手続きが新たに創設されました。これにより、市町村や金融機関などに対して給料や預貯金に関する情報の開示を求めることができるようになったのです。従来は、財産を特定することができないという理由で諦めていた方も、強制執行がスムーズに行えるようになっています。

(2)刑事罰の適用

養育費の支払いについては法律上の義務ですが、支払いを滞ったとしてもそれ自体は犯罪ではないため、刑事罰が科されるということはありません。しかし、養育費を支払わない場合の財産開示手続きに応じなかった場合や虚偽の申請をした場合には、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科される可能性があるので注意が必要です。

財産開示手続きは、債務者に対して強制執行の対象財産に関する情報開示を求める手続きをいい、従来は30万円以下の過料という行政罰のみが規定されていました。しかし、より実効性のある制度にするため、民事執行法の改正によって上記のとおり刑事罰に引き上げられています。

(3)養育費が支払えない場合の対処法

以上のように、養育費が支払えない状況であるからといって、そのまま放置するのはリスクがありますので大変危険です。養育費の支払いが難しい状況になった場合には、早めに対策を講じるようにしましょう。

①話し合い

経済的な理由などによって養育費の支払いが難しい状況になった場合には、まずは元配偶者に連絡をして、養育費の減額などを求めてみるとよいでしょう。きちんと事情を伝えることによって、当初決めた養育費が支払えない状況になっていることを理解してもらえれば、養育費の減額請求に応じてもらえる可能性があります。

また、事情を説明することで支払う意思があることが伝わり、いきなり強制執行をされるというリスクも回避することが期待できます。

減額後の養育費をいくらに設定するのかについては、お互いの話し合いによって決めることになりますが、自分自身では判断できないという場合には、弁護士に相談してみるのも有効な手段といえます。

②養育費減額調停を申し立てる

話し合いをしたものの養育費の減額に応じてくれないという場合や、そもそも話し合いに応じてもらえないという場合には、家庭裁判所に対して養育費減額調停を申し立てましょう。

調停では、養育費を変更すべき事情が認められる場合には、現在のお互いの収入などに応じた適切な養育費を提示してもらうことができます。双方が金額に納得することができれば調停成立となり、養育費の減額が認められることになります。

お互いに合意ができず調停が不成立になった場合には、自動的に審判手続きに移行します。審判では、裁判官が一切の事情を踏まえて、養育費を減額すべきかどうかや、減額後の養育費の金額を判断することになります。

養育費の支払い義務者に収入がなく、今後も収入が見込めないという場合には、養育費の減額ではなく支払いが免除される可能性もあります。養育費の支払いが経済的に厳しい状況になった場合には、弁護士に相談をするなどして早めに対応することが非常に重要です。

5. 養育費の一括払いは可能か?

養育費の支払いを月々の支払いではなく、一括払いにしてもらうことは可能なのでしょうか。

(1)毎月払いが原則

養育費とは、子どもが経済的・社会的に独立するまでに必要となる生活費、教育費、医療費などのことをいい、これらは日々必要となる費用です。そのため、養育費は月々支払われるのが適切と考えられており、一括ではなく毎月の支払いが原則とされています。

養育費請求調停や審判において、養育費の一括支払いを求めたとしても、相手が合意しない限りは、裁判所が養育費の一括払いを認める可能性はほぼありません。

(2)義務者が合意すれば一括払いも可能

養育費の一括支払いが原則として認められないというのは、養育費の金額や支払い方法について当事者間に争いがある場合です。

養育費の金額や支払い方法については、当事者同士の話し合いによって自由に決めることができます。そのため、養育費の支払い義務者が養育費の一括払いに合意しているのであれば、養育費の支払いを一括払いとすることも可能です。

審判で養育費の一括払いが認められる可能性はほぼありません。養育費の一括払いを希望する場合には、協議離婚での解決を目指しましょう。ただし、養育費の一括払いを求める場合には金額が高額になるため、養育費の支払い義務者にある程度の財産があることが必要になります。

6. 養育費の一括払いにおけるメリット・デメリット

養育費の一括払いには、メリットもデメリットも存在しています。よく理解したうえで判断しましょう。

(1)養育費の一括払いのメリット

養育費を一括払いにしてもらうことで、次のようなメリットがあります。

①将来の滞納・減額リスクを回避できる

養育費は、子どもが社会的・経済的に独立するまで支払いが続き、子どもの年齢によっては、十数年にもわたって支払われることになります。

支払期間が長期に及ぶことになると、相手の経済状況や生活状況も当然変化していきます。支払期間の途中で養育費の支払いが滞るというリスクや、減額を求められるといった可能性もあります。

養育費を一括払いにしてもらうことによって、このような将来の滞納・減額のリスクを回避することが可能になり、きちんと支払ってくれるかどうかという不安を抱えながら過ごすことから解放されるというメリットがあります。

②元配偶者との接点を減らせる

夫婦の離婚理由によっては、離婚後は元配偶者と関わりたくないと考える方もいます。特に、DVなどが原因で離婚をした方など相手に対する恐怖心などから、できる限り接触を避けたいと考える方もいらっしゃることと思います。

しかし、養育費の支払いの遅れや滞納が生じた場合には、その都度連絡を取って支払いの催促をしていかなければなりません。養育費の支払いを一括払いにしてしまえば、元配偶者との接触を極力減らすことが可能になります。

③将来の生活設計が立てやすくなる

養育費を一括で支払ってもらうことによって、手元にまとまったお金が入ってくることになります。離婚後は、経済的に不安になることもありますが、まとまったお金が手元にあることで将来の生活設計が立てやすくなるといえます。

(2)養育費の一括払いのデメリット

養育費を一括払いにした場合のデメリットとしては、次のような点があげられます。

①分割払いよりも金額が少なくなる可能性がある

養育費の一括払いは、養育費を受け取る側に大きなメリットがある一方で、支払う側は一時的に経済的に大きな負担がかかります。

そのため、支払う側から一括払いに合意する代わりに養育費の総額の減額を求められることもあり得ます。これにより、毎月支払いを受けるよりも低額になってしまう可能性があります。

②将来の事情変更に対応できない

養育費は、合意をした当時には想定することができない事情が生じた場合には、養育費の増額を求めることが可能です。しかし、養育費を一括払いにした場合には、このような事情変更に対応することが難しくなるため、将来養育費の増額を求めることができない可能性もあります。

③贈与税が課されるリスク

毎月支払われる養育費は、必要に応じてその都度支払われるものといえるため贈与税は非課税の扱いです。しかし、養育費を一括して受け取った場合は、贈与税の課税対象となる可能性があるため注意が必要です。

養育費の一括払いを検討している方は、メリットとデメリットを踏まえて慎重に検討することが大切です。

7. 再婚しても養育費はもらい続けられる?

(1)養育費の基本的な考え方

離婚時に養育費の金額を取り決めた場合には、新たな取り決めをしない限り、基本的にはその金額を養育費の終期まで支払っていかなければなりません。しかし、養育費の取り決めをしたときには想定することができない事情が生じたときには、養育費の金額を変更することができます(民法第880条)。これを「事情変更の原則」といいます。

したがって、再婚が養育費の金額に影響を及ぼすかどうかについては、再婚が事情変更にあたるかどうか、という面から検討していくことになります。

(2)再婚と養育費との関係

養育費は、親の子どもに対する扶養義務に基づいて支払われるものです。養育費の支払いを受けている側が再婚をしたという事情だけでは、親子間の扶養義務には何ら影響はなく、再婚の事実のみをもって養育費の金額に影響が及ぶことはありません。つまり、養育費を受け取る側が再婚したとしても、基本的には養育費をもらい続けることができます。

再婚をすることによって世帯年収が上がることになるので、それによって養育費の金額が減らされるのではないかと心配になるかもしれません。しかし、世帯年収が上がったとしても、それはあくまでも再婚相手の収入を考慮した結果です。再婚をしただけでは、再婚相手には連れ子を扶養する義務はなく、養育費支払い義務者は当初決められた養育費を支払っていかなければなりません。

ただし、再婚によって、元配偶者からの養育費を受け取る必要がないほどに世帯年収が増加し、再婚相手から子どもを養育する費用として多額の援助を受けているなどの事情がある場合には、養育費の減額が認められる可能性があります。

8. 再婚後に養子縁組をした場合は養育費に影響する?

(1)養子縁組とは

養子縁組とは、血縁関係のない者との間に、法律上の親子関係を生じさせる手続きをいいます。養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組という2種類の方法がありますが、再婚する場合には、主に普通養子縁組が利用されます。

普通養子縁組では、実親との親子関係を継続したまま、養親との間で新たに親子関係を生じることになり、子どもとしては、実親と養親の2人の親を持つことになります。

(2)養子縁組と養育費の支払い義務との関係

普通養子縁組によって、子どもは実親だけでなく養親との間にも親子関係が生じます。その結果、実親と養親共に、子どもに対する扶養義務が存在することになります。

実親と養親の扶養義務関係については、養親の扶養義務が優先されるので、養親が1次的な扶養義務を負い、実親が2次的な扶養義務を負うと考えられています。つまり、養子縁組をすることで、1次的な扶養義務者が変更することになります。

このようなケースは「事情変更」にあたると考えられるため、結果として実親からの養育費減額請求ができる可能性があります。

ただし、養子縁組をしたことで自動的に養育費の金額が変更になるわけではありません。まずは、当事者同士で話し合いをして、金額の変更について合意をする必要があります。金額に争いがあって話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に対して養育費減額調停を申し立てることになります。調停で合意できない場合には、自動的に審判に移行し、裁判所が金額について判断します。

このように、当事者同士が金額の変更に合意するか、裁判所が金額変更を認めない限りは、たとえ再婚相手と子どもが養子縁組をしたとしても、当初合意した金額をもらい続けることが可能です。

9. 子ども本人から扶養料を請求される可能性もある

父母間で取り決めた養育費とは別に、子ども本人も扶養料を親に請求することができます。いずれも子どもを育てるためのお金であることは同じですが、養育費は民法第766条、扶養料は民法第877条を根拠とする点で異なります。

子どもの利益を最優先するという考え方がベースにあるため、父母間でなされた養育費の取り決めが子ども本人を拘束することはないとされています。

親権者が養育費の減額に納得していても、子ども自身が納得していない場合には、扶養料としてもっと十分な教育費や生活費を支払うよう親に請求してくる可能性があります。

養育費は子どもが成長する上で欠かすことができないものです。そのため免除や減額は、さまざまな事情や背景を考慮して慎重に検討される必要があります。悩んだら、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

養育費に関するトラブルにお悩みの方は、以下のコラムもご参照のうえ、弁護士にご相談ください。

養育費問題に強い弁護士の選び方は?

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  • こちらに掲載されている情報は、2024年11月13日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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